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コラム・オピニオン 2015年07月01日

団塊世代はどう動いたか、意外に低い退職後の「里帰り率」~~創成会議の地方移住論をどうみるか

取締役会長
山本 謙三



1960年代の団塊世代:地方圏居住者の3割が3大都市圏に移動した

 団塊世代と呼ばれる1947~49年生まれは突出して人口が多いため、彼らの人口移動は、その都度大きな社会現象を生み出してきた。では、彼らは年齢とともに、どう地方圏と3大都市圏の間を移動してきたのだろうか。以下、国勢調査を基に確認してみたい(注)。

(注) 本稿では、国勢調査の年齢5歳階級別人口に従い、「1946~50年生まれ」を団塊世代として取り扱う。また、3大都市圏は、埼玉、千葉、東京、神奈川、岐阜、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、奈良の11都府県、地方圏はその他36道県とする。

 1960年、団塊世代はまだ年少期(10~14歳)にあった。彼らの人口は11百万人と総人口の12%を数え、すでに日本の人口のなかで最も人数の多い年齢層だった。このうち3分の2にあたる7.2百万人が、この時期、地方圏に居住していた。

 その後10年間に(1961~1970年)、団塊世代は大規模な人口移動を起こす。10歳代後半から20歳代前半に達した彼らは、進学、就職を機に、地方圏から3大都市圏に多数が移動した。その数を試算すると、地方圏居住者の約3割に当たる2.1百万人が3大都市圏に移動した計算となる(参考1)。

 この結果、1970年時点では同世代の54%が3大都市圏に居住するようになり、地方圏居住者との数が逆転した。

(参考1)団塊世代の地域間移動数推移

(注1)マイナスは地方圏への回帰をあらわす。地方圏、3大都市圏居住人口は各期末。
(注2)試算の方法は、本文末尾の脚注参照。
(出典)総務省統計局「国勢調査」を基にNTTデータ経営研究所が作成

1970年代~1980年代前半:3大都市圏への移動者のうち2割が地元に回帰

 その後、20歳代後半から30歳代に達すると、3大都市圏に移動した団塊世代のなかから、一定数が地方に回帰した。大学を終え、地元や地元近くに勤務先を求める例が多かったのだろう。

 試算では、1980年代半ばまでに、42万人が3大都市圏から地方圏に戻った計算となる。これは、進学・就職期に3大都市圏に移った者の約2割にあたる。

1980年代後半~:結局、地方圏からの移動者のうち4人に3人が3大都市圏に定住した

 その後いったん地方圏への回帰は止まるが、50歳前後から再び一定数が地方圏に戻った。団塊世代は人口が多いこともあって、「里帰り」の絶対数は、その前後の世代に比べ多いとみられる(2014年2月「札幌、福岡はなぜ人口流入超トップ3なのか」2015年2月「なぜ人口流出超の大都市が増えているのか」 参照)。

 しかし、40歳代後半から60歳前半までに戻った数は合計5.5万人にとどまる。これは、進学・就職期に3大都市圏に移動してきた者の3%にすぎない。足元60歳代後半となった現在も、地方へ戻る動きは続いているが、その数はさほど多くないとみられる。

 このように、退職後、団塊世代が地元に回帰する率(里帰り率)は意外に低い。いったん3大都市圏に住居を構え、子どもをもうけると、地元に帰るインセンティブは急激に低下するようにみえる。

 以上の結果、団塊世代のなかで進学・就職期に3大都市圏に移動した者のうち、地方に戻った者は4人に1人の割合であり、その大半は20歳代後半から30歳代にかけて戻った者である。残る4人に3人は、3大都市圏にそのまま定住し、老後を迎えつつある。

 この結果、年少期2:1の割合だった地方圏、3大都市圏の団塊世代の人口は、その後の人口移動を経て、現在はちょうど1:1となっている(参考2)。

(参考2)団塊世代の地方圏、3大都市圏人口比率推移

(出典)総務省統計局「国勢調査」を基にNTTデータ経営研究所が作成

孫の養育に参加してもらう

 このように、今では団塊世代の約半数が3大都市圏に居住するようになった。

 団塊世代の場合、親元から遠く離れて3大都市圏に勤務し、家庭を築いた人が多かった。子どもを育てる過程で、近くには孫の面倒をみてくれる親がいなかったため、多くの女性が家庭内にとどまり、子育てに専念した。

 しかし、団塊世代が3大都市圏に定住した結果、団塊世代、団塊ジュニア世代、さらにその子ども世代が近隣に住むケースが増えている。都市部なので、さすがに地方圏ほどの近距離に住む例は少ないだろうが、子ども夫婦や孫たちの生活を支援できる距離に住む団塊世代は少なくない。

 そうであれば、孫の養育に積極的に参加してもらい、子ども夫婦の共働きを側面からサポートしてもらうチャンスがでてきたとみることができる。昔であれば、祖父母が孫の面倒をみて、子ども夫婦が働くのは自然だった。典型的には農業がそうだろう。

 今後は、3大都市圏、地方圏にかかわらず、祖父母、父母、子どもの3世代を一つの単位として、養育から介護までの新たな流れが成立する可能性がある。どこまでを家族内で対応し、どこまで社会化するかは別途の難しい問題だが、高齢者の労働参加が日本経済の潜在成長力引き上げに貢献することを期待したい。

日本創成会議の「東京圏高齢化危機回避戦略」

 ところで、先日、日本創成会議が「東京圏高齢化危機回避戦略」を公表した(2015年6月)。当「戦略」では、今後東京圏全体で介護施設不足が深刻化することなどを踏まえ、対策の一つとして、「高齢者の地方移住環境の整備」を提案している。高齢者とは主に60歳代が想定されている模様であり、定年後の移住促進に加えて、定年前からの「老後生活の設計を支援する取り組み」(企業の勤務地選択制度の普及等)が重要とされている。

 創成会議の指摘は重要である。2020年代に入ると、わが国は、高齢者の数が減少しはじめる地域と増加を続ける地域に二分される(2013年8月「地域金融機関は、相続対象預貯金の地域間シフトがはじまる」 参照)。この結果、医療・介護サービスに対する需要と供給の地域間不均衡が拡大することは間違いない。

 しかし、上述のとおり、60歳代の人々には、むしろ子ども夫婦が仕事を続けていけるよう、孫世代の養育や家事の支援を期待したいところだ。60歳代の人々の孫は、多くの者がまだ幼少期にある。3世代の近隣居住が出生率向上のカギであることを踏まえれば、ここで、子ども夫婦や孫の住む東京圏から離れ、地方への移住が増えるようなことになれば、東京圏の出生率は抑制されかねない(実際には、個々の家庭はそうした選択をとらないだろう)。

 結局、医療・介護サービスにかかる不均衡の是正には、需給両面での対策~~高齢者の地方移住の促進と東京圏の施設・人材の強化~~を講じるしかない。

 その際、そうした需給の調整は、本来、市場(価格)メカニズムが得意とする分野であることを忘れてはなるまい。コストに地域差がある以上、それを自己負担額に反映させることが円滑な調整に寄与するはずだ。「地方移住論」は、ともすれば財政支出の議論や感情論に結びつきがちだが、需要と供給の効率的な地域間移動を促すには、医療や介護に市場メカニズムの視点を取り込むことが重要である。

【参考1の注】団塊世代人口の地域間移動は、以下の方法で推計している。

  1. (1)  国勢調査を基に、それぞれの時期における3大都市圏および地方圏の団塊世代人口を求める。
  2. (2)  上記(1)から5年ごとの人口増減を求める。ただし、人口増減には、地域間の移動だけでなく、死亡等の影響が含まれる。死亡等の影響として(「自然増減率」)、団塊世代人口全体の5年前対比増減率を計算する。
  3. (3)  上記自然増減率を、5年前の3大都市圏、地方圏の人口に乗じて、仮に地域間移動がなかった場合の3大都市圏、地方圏の人口を求める。これと実績の差を人口の地域間移動の規模とみなす。
  4. (4)  なお、3大都市圏、地方圏のそれぞれの圏内で生じる人口移動は、本推計には反映されない。また、地方圏から3大都市圏に移動した者とその後地方圏に移動した者は別である可能性もあるが、ここでは試算の便宜上、同一の者が地方圏に戻ったものと仮定して、地方回帰率を計算している。

以 上

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