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(社団法人 商業施設技術者・団体連合会/機関誌「商業施設」10年4月号より)

商業施設士が活かす新しい商店街(5)
―ほんものの商人がいる街―

NTTデータ経営研究所
アソシエイトパートナー 村橋 保春
 

商人がいなくなった

商店街について連載の機会をいただき、今回で6回目、最終回である。本連載を通して訴えたいテーマは商店街こそが地域振興の原動力となるべきであり、その推進において商業施設士が果たす役割は大きいということである。商店街こそが地域振興の原動力であるということは、原稿だけでなく、講演などでも繰り返し訴えてきた。

私が商店街原動力論を唱えると、必ず反論、反撃を受ける。全国に散在する商店街はいずこも同じ、郊外店の勢いに押され閉店が相次ぎシャッター通り商店街となってしまっているではないか。自らの店すら続けることができないのに、どうして原動力の役割を果たせるのか。地域のお荷物でしかないだろう。

確かにかつての賑わいを維持している商店街は数少ない。商店街全体での業種業態構成や個別店舗の品揃えを見ても、とてもショッピングを楽しむ雰囲気ではない。店主、店員も店の奥から街路を歩く人たちを眺めるだけで、商売に取り組む覇気がない。表面的に見るととても原動力になりえない。
もともと商店街は往来が多く、そこに商機(ビジネスチャンス)を見出して、チャレンジャーとしての商人が競って店を構え店舗集積度を高めていった。商店街は自然発生的に成立した商業集積である。つまり、商店街は潜在的な商業ポテンシャルを持っているエリアである。残念なことにこのポテンシャルを顕在化させていないから、表面的に賑わいを感じさせないのである。

商業ポテンシャルを掘り出し、これを活かして商売(ビジネス)に変えるのが商人である。商店街の現状を考え、再生を進めるうえで、最も重要な要素は商人の存在である。逆にいうと、商店街衰退の元凶は、商人がいなくなったことである。

商人はなぜいなくなったのか。店舗があり、そこには相変わらず店主がいる。しかし、商人でなくなっている。商人とは、他の商人と競争しながら、お客様のニーズやワォンツを見極め、自らリスクを負って商品を仕入れ、お客様に納得いただいて販売し、差益(儲け)を得る者である。儲けの源泉はお客様にある。またお客様は移ろいやすく、競合する商人よりもふさわしい商品やサービスを提供して、長いお付き合いを求めることが大切である。商いに既得権はない。

今、商店街で店を構える人たちの多くは、残念ながらお客様に目を向けず、最盛期の賑わいを既得権として不満と不安を語る人たちであり、こうした人たちを商人とは呼べない。お客様は商人のいる商店街を望んでいるのである。大手流通企業のサラリーマン従業員が接客する大型商業施設に負けてしまっているのに、商店街は細やかな顧客対応をし、地域コミュニティの核であるなどとうそぶいてはいられないのである。

変化がメシの種、陳腐化が万病の元

商人に必要なのは柔軟な発想力と機敏な実行力である。時代の変化は常に新しい商業の機会、商機を与える。変化の頻度と振幅は激しさを増している。変化の“変化”を戯画的にまとめてみると次のとおりとなる。昔の変化の速さは「歩く速さ」程度であった。変化が起こったとしても後から追いかければ追いつける速さであり、こうした変化に対しては意識する必要がない。しかし変化の速さが一層速まり、「馬の速さ」を経て「乗り物の速さ」となる。一応、変化を読み取ることができるので、考えて自ら変化することは可能である。現在は「光の速さ」となった。もうどこに変化するか読み取ることができない。そうすると、変化の先を予想し、先んじて変化することが求められる。商人のリスクテイカーとしての真骨頂といえる時代である。

<変化の図>

変化の図

変化は商人にとってメシの種である。しかし、変化から勝ち取った商機は、次なる変化の影響を受ける。陳腐化である。アパレルファッションの移り変わりに見られるように、変化を商機とするアイテムほど、つまり流行に乗って売れるアイテムほど、流行のピークは高くてもピークを維持することは難しく、ピーク後の落ち込みは激しいものがある。変化から商機を得るものは、すぐに陳腐化の危機にさらされると捉えることがふさわしい。ややきわどい表現になるが、商人は当たり馬券を求めて、馬券を買い続けるようなものである。仮に商機をつかみ儲けを得たとしても、当たり馬券の交換が1回かぎりである。引き続き馬券を買い続けない限り、更なる儲けを得ることはできない。

陳腐化はアパレルファッション業界にとどまらない。定番商品である生鮮三品についても、差別化をはかり、消費者の変化を商機に変えようとしている。陳腐化は商品そのものにとどまらない。陳腐化は店舗構成、接客方法、付帯サービスなど、商業のあらゆる分野に忍び込み、体力を弱め、体質を悪化させる。これをきついと捉えるか、面白いと捉えるか。商人でありつつけるためのリトマス試験紙である。

商人魂をたぎらせる

商人に資格はない。しかし、資質は求められる。商品を仕入れ店を構えれば、商業者の真似事はできる。なりわいとして自立するためには、積極的にリスクを取り、お客様への貢献をモチベーションの源として日々の努力を重ねなければならない。

江戸時代の心学者石田梅岩は商人のあり方を『都鄙問答』に著した。その中の一節に以下のような文章がある。

「わが身を養わるる売先を粗末にせずして真実にすれば、十が八つは、売り先の心に、合うものなり、売り先の心に合うように商売に上を入れ努めれば、渡世なんぞ案ずること有るべし」

まさに顧客志向に基づく商業の社会的機能をまとめたものである。商業とは商人とお客様が商品やサービスを間において、お互いの価値(生活の豊かさ、ビジネスとしての利益など)を高めあうものである。「こちらが儲けさせていただいているのに、お客様からありがとうと感謝の言葉もいただける。なんともありがたい仕事である。」と語る商人の方もいる。こうした経験や考えが商人魂をたぎらせるのであると考える。

商業施設士はコンセプターになる

商店街関係者が再び商人になるために、商業施設士は何をすればよいか。

 もし、商業施設士であるあなた自身が、商店街関係者以上に商業を熱っぽく語ることができれば、直接「商人再生」に関わってもらいたい。ただし、これはけっこう難しい。店主などは、一国一城の主できた人達である。部外者から、商人としてのあり方についての指摘は頭では分かっていても心では対応できない。

 商業施設士の方々には、「ほんものの商人がいる街」を商店街コンセプトとして取りまとめ、商店街に提案し変えていくことをお願いしたい。ほんものの商人でなければ成立しない商店街コンセプトをまとめ上げ、当該コンセプトを受け入れた商店街関係者は否応なく自ら商人へと変わっていくこととなる。高度で、「老獪」な手法であるが、商業施設検討で培ったノウハウを凝縮して、新しい商店街時代を推し進めていただきたい。

商店街コンセプト構築の視点を取りまとめると次のとおりとなる。商業施設士の方々が得意とするストアコンセプトを商店街全体に展開すると捉えればよい。顧客志向に基づき、顧客ターゲットを明確にし、ニーズ、ウォンツ、提供方法を検討する。検討結果をお客様の言葉で取りまとめることにより、商店街のコンセプトをまとめることが大切である。

図:商店街コンセプト

商店街は地域振興の原動力となりえる。しかし、商人のいない、商店街関係者だけの活動では前に進まない。商業施設士の方々は商人以上にリスクテイカーとなり、時としてリスクラヴァーにもなって、ぜひ商店街振興に力を貸していただきたい。そこにはビジネスチャンスが数多く埋まっている。多くのチャレンジを期待しつつ、本連載の筆を置くこととする。

以上


村橋 保春(むらはし やすはる)
株式会社NTTデータ経営研究所ソーシャルイノベーション・コンサルティング本部 アソシエートパートナー
ディベロッパーを経て現職。専門は地域振興、商業活性化、資産活用等。
商業施設士、中心市街地活性化アドバイザー、一級建築士、中小企業診断士、SC経営士、不動産コンサルティング技術登録者ほか。経済産業省 中心商店街再生研究会委員、国土交通省 PFI選定有識者会議委員等。