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【緊急レポート】
デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)実現に向けた3つの原則 ~バルセロナでのワークショップ等視察を通じて

株式会社NTTデータ経営研究所
社会システムデザインユニット シニアマネージャー
大林 勇人

はじめに

 筆者は、今年(2016年)神戸市とバルセロナ市が共催している“WORLD DATA VIZ CHALLENGE 2016(WDVC2016)”の第一ラウンド”The First International WORKSHOP on advance ICT and Community Development”を、縁あって視察する機会をいただくことができ、同年の6月14日(火)から17日(金)の期間、バルセロナに出張した。貴重な体験をさせていただいた旨を、主催者ならびに関係者、そして参加者の皆様に、この場を借りて御礼申し上げる。

 本レポートは、今回の視察における多数かつ濃厚な経験を通じて垣間見ることができた、これからの日本での実現が望まれる、新しいまちづくりの姿「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」について、最初の一歩となる提唱をするものである。

1. 今回のバルセロナ視察の概要

  1. (1)WDVC2016開催の背景

     ITの進化は、我々の社会に多くの変革をもたらしてきた。その流れが今、「まちづくり(Urban design※1)」のあり方にも影響を及ぼそうとしている。現在、世界の都市では「まちづくり」の分野で、IoTと呼ばれるセンサーを含む物理デバイス等多種多様なハードウェアのデジタルネットネットワーク形成、とどまることを知らないオープンソースやオープンデータの深化や多様化、SNSや各種P2Pプラットフォームといったソーシャルテクノロジーを徹底活用したコミュニティマネージメントやオープンガバナンス※2の推進といったような、いわゆる「デジタル化」を梃子とした新しいチャレンジが競うように展開されている。同時に、これらのアプローチを自由自在に駆使できる新しいタイプの人材に対するニーズもまた、世界中で高まっている。

     このような潮流を踏まえ、神戸市とバルセロナ市は協力して、これからの時代を切り拓く新たな才能の発掘及び育成を目的とした、データビジュアライズの国際ワークショップを企画及び開催した。

    図表1 WDVC2016のサイト

    図表1 WDVC2016のサイト 図表1 WDVC2016のサイト 出典:World Data Viz Chllenge 2016(http://kobe-barcelona.net/
    • ※1 この対訳に違和感を持つ読者もおられると思うが、筆者は「都市計画(Urban planning)」「都市開発(Urban development)」「コミュニティ育成(Community development)」等を包括する概念として、”Urban design”をあえて用いている。
    • ※2 一般的には「オープンガバメント」といった呼称が使われることが多いが、筆者は「ガバメント=政府=形態」ではなく、「ガバナンス=統治=各ステークホルダーの主体的な行為」を指す響きのある本用語を好んで使っている。
  2. (2)The 1st International WORKSHOPの日程

     WDVC2016は、2つのラウンドが順次開催されるが、今回のバルセロナでのワークショップは第一ラウンド(The 1st International WORKSHOP)にあたり、第二ラウンドは同年10月15~16日に神戸にて開催予定である。The 1st WORKSHOPの日程を図表2に示す。

    図表2 今回視察のスケジュール

    プログラム種類 日程 主なプログラム
    移動 1日目(6月14日(火))
    • 現地集合、事務局による各種説明
    • ウェルカムパーティー
    ワークショップ 2日目(15日(水)) 【ワークショップ1日目】
    • 開幕
    • オープニングトーク
    • キースピーチ
    • 日本のオープンデータ推進における産官学連携モデルの紹介
    • コーヒー/ティーブレーク(交流の時間)
    • グループ1による発表(6チームまたは個人)
    • カジュアルランチ(交流の時間)
    • 1日目終了
    3日目(16日(木)) 【ワークショップ2日目】
    • 開幕
    • 「ジュピストプロジェクト」(日本と欧州の機関を対象とした研究資金等の助成プロジェクト)の紹介
    • グループ2による発表(7チームまたは個人)
    • コーヒー/ティーブレーク(交流の時間)
    • グループ3による発表(7チームまたは個人)
    • カジュアルランチ(交流の時間)
    • カンファレンス「スマートシティからコラボレーションエコノミーへ」
      • プレゼンテーション(3名)
      • パネルディスカッション
    • 総括
    • グッドバイパーティの後、ワークショップ終了
    バルセロナ市関連機関の見学 4日目(17日(金)) 貸し切りバスで移動しつつ、各所を見学。
    • Barcelona Activa、22@Barcelonaにて、IMI(Institut Municipal d‘Informatica de Barcelona:バルセロナ情報局)からプレゼンテーション
    • BCNEcologia(Barcelona Urban Eclogy Agency:バルセロナ都市生態庁)の職員(複数)から実務の様子を説明
    • バルセロナ市内のファブラボ(Ateneus de Fabricacio)を見学&管理者からの説明
    解散 5日目(18日(土)) 事務局による挨拶

     次項及び次々項では、2~3日目のワークショップと、4日目のバルセロナ市関連機関の見学についてのあらましと様子を述べる。詳細については主催側(神戸市等)が、今後実施する予定の報告会に譲り、本レポートでは筆者にとって印象深かったものや、興味深かったものについて記述する。

  3. (3)ワークショップ実施

     2日間のワークショップは、世界遺産サン・パウ病院において開催された。

    図表3 会場の光景

    図表3 会場の光景
    出典:筆者が撮影
    1. 1)ワークショップ1日目

       オープニングトークでは、アジア太平洋プログラムディレクター・バルセロナ市議Miquel Mateu氏、神戸市企画調整局創造都市推進部ICT創造担当 課長 松﨑太亮氏、在バルセロナ日本大使館総領事 牧口博幸氏等からのコメントがあった。

       キースピーチでは、バルセロナ情報局(IMI)コーポレートインフォメーションディレクター Lluis Sanz氏によるプレゼンテーションが行われた。同氏は、これまでのバルセロナ市のオープンガバナンス及びオープンデータの取り組みを踏まえた上で、これからのオープンデータには高品質のデータが求められること、そのために最低限の信頼性を保証するためのストラテジーが重要であること、街のあらゆるステークホルダー(一般市民、起業家、ジャーナリスト、研究者等)が互いにデータを出し合うと共に、それをあらゆる人々が利用していくことで、データの付加価値が高まっていき、イノベーションの促進力になるといった「オープンシティ」をバルセロナ市は2020年までに実現していくといったことを述べた。

      図表4 Lluis Sanz氏によるキースピーチ

      図表4 Lluis Sanz氏によるキースピーチ
      出典:筆者が撮影

       続いて、日本のオープンデータ推進における産官学連携モデルの紹介として、神戸市、国立大学法人神戸大学、地元企業(株式会社フェイスクリエイツ(http://www.faithcreates.co.jp/))によるこれまでのオープンデータ関連の取り組みを紹介するプレゼンテーションが順次行われた。

       その後は、6つのチームまたは個人による発表が行われた。発表者は、様々なプロジェクトに取り組んでいるバルセロナの建築家・アーバンプランナー、ヤフージャパンから参加したチーム、ESRI等であった。今後の社会に特に有益だと思われたのが、街に対する提案及びコメントや提案者を可視化する「デジタルプラットフォーム」といったものである。具体的には、提案や提案者をソーシャルグラフ化して、ある提案に対する賛成数や反対数、提案者やコメントした者の距離感といった概念をビジュアライズ化したものであり、さらに特筆すべきは、このビジュアライズにはオンラインコミュニケーションだけではなく、オフラインコミュニケーションの情報も含まれていることである。日本を含む先進国では、社会階層やグローバル資本主義に対する態度等に基づく価値観の分断化や対立といったビッグイシューが顕在化しつつある※3ため、このようなプラットフォームを用いることにより、理性的な社会認識や対話が実現されることが望ましいであろう。

    2. 2)ワークショップ2日目

       「ジュピスト※4プロジェクト」(日本と欧州の機関を対象とした研究資金等の助成プロジェクト)の紹介が、参加機関であるAGAUR(大学・研究助成管理庁)※5、神戸大学の双方から行われた。

      図表5 ワークショップの模様

      図表5 ワークショップの模様
      出典:筆者が撮影

       その後は、14のチームまたは個人による発表が、コーヒー/ティーブレークをはさんで行われた。発表内容は、神戸市やバルセロナ市のオープンデータや公開データを用いたデモグラフィックのデータビジュアライゼーションや、観光、防災、防犯、通勤や空き家問題といった社会課題をデータにより可視化することをテーマとしたプレゼンテーションといったものであった。特にユニークだと感じたのは、神戸大学や同大学院の学生によるアイデアで、すれ違い通信を用いたものや、大樹の養育といったビジュアライズで成長を表現するもの等があった。

       ランチ後は、「スマートシティからコラボレーションエコノミーへ」と題するカンファレンスが実施された。具体的には、モデレーターで今回視察のコーディネーターでもあるlaboratory urban DECODE共同代表、マサチューセッツ工科大学SENSEable City Lab Research Affiliate 吉村有司氏、バルセロナ市都市生態庁 Salavdor Rueda氏等からのプレゼンテーションが行われた後、発表者によるパネルディスカッションが行われた。

      図表6 パネルディスカッションの模様(一番右が吉村有司氏、左から二番目がSalavdor Rueda氏)

      図表6 パネルディスカッションの模様(一番右が吉村有司氏、左から二番目がSalavdor Rueda氏)
      出典:筆者が撮影

       Salavdor Rueda氏のプレゼンテーションでは、バルセロナ市が近年推進している、「スーパーブロック」及びその推進施策が紹介された。「スーパーブロック」とは、400m × 400m程度の区割りのことであり、現在同市では市内の区割りを、このブロックを基本単位として再編成するといったまちづくりを推進しているといった説明がなされた。

      図表7 「スーパーブロック」の概念図

      図表7 「スーパーブロック」の概念図
      出典:当日のSalavdor Rueda氏の説明資料を元に筆者が作成

       「スーパーブロック」の区内では、時速10km以内での移動(徒歩、自転車、小型車)を前提にデザインされ、最終的に時速50km以上のモビリティはスーパーブロック内を通り抜けできないように段階的に規制を設けていく予定である。そして、「スーパーブロック」施策の目的(アウトカム)は、「街に住んでいる人間の権利=自分で移動できる権利の保証」であり、目的達成に向けた中間指標(KPI:Key Performance Indicator)としては、「大気汚染度、騒音、人の移動時間、憩いの場(の有無)」といったもので、これらは「都市の品質」だといえるとのことであった。

    • ※3 本稿執筆中である6月24日に、英国の国民投票にてEU離脱が多数となった旨が報じられた。
    • ※4 JEUPISTE(Japan-EU Partnership in Innovation, Science and Technology)
      http://www.jeupiste.eu/ja/About%20the%20project
    • ※5 Agency for Management of Universities and Research Grantsが正式名称。
  4. (4)バルセロナ市関連機関の見学

     ワークショップ終了後の翌日は貸し切りバスで、Barcelona Activa、22@Barcelona、BCNEcologia(Barcelona Urban Eclogy Agency:バルセロナ都市生態庁)、バルセロナ市内のファブラボ(Ateneus de Fabricacio)※6を訪問し、現地の見学を行いつつ、各機関の職員によるプレゼンや説明を受けた。

    図表8 貸し切りバスによるバルセロナ市関連機関の見学

    図表8 貸し切りバスによるバルセロナ市関連機関の見学 出典:筆者が撮影
    1. 1)スマートシティ・バルセロナのITアーキテクチャ

       22@Barcelonaでは、バルセロナ情報局(IMI)から、バルセロナ市におけるスマートシティ構想のアーキテクチャの説明をうけた。まずは、2015年以降の街のベースデザインともいうべき、「スマートエコシステム」が紹介された(図表9)。

      図表9 バルセロナ市のスマートエコシステムのイメージ図

      図表9 バルセロナ市のスマートエコシステムのイメージ図
      出典:当日のIMIによる説明資料を元に筆者が作成

       中央にある「街の資源」を、右側にある「知識」を駆使して、左側の「有効性」を発現していくことにより、中央上の街のステークホルダー(行政、研究機関、企業、市民)の便益を向上させるといった道筋のイメージが表現されていた。

       さらに、IMIでは、市内に設置した約12,000のセンサーが測量しているデータを収集管理するネットワークシステム “Sentilo※7”を構築、運用することで、上記の「スマートエコシステム」を実践している。具体的には、これらのセンサーで、市内の電気消費量、騒音、温度、駐車状況、大気質、水位、交通量(二輪車、人、自動車)、そしてゴミ箱(横2m、縦1.5m、高さ1.5m程度のコンテナ)の状況についてセンシングしているとのことである。特に筆者が興味を感じた、ゴミ箱のセンシングについて詳しく尋ねたところ、ゴミの量や内部の温度等をセンシングしており、ゴミ収集の効率化や、放火された際の迅速な検知といった活用をしているといった回答が得られた。

       最後に、”Sentilo”を包含するトータルのITアーキテクチャである“CityOS※8”といった概念が紹介された。

    2. 2)スマートシティ・バルセロナの日常のオペレーション

       続いて、バルセロナ都市生態庁では、「スーパーブロック」施策の進捗に関するデータ分析について、現場の実際の実務を見学した。具体的には、Salavdor Rueda氏からレクチャーを受けたほか、複数のチームの職員の方からデスクトップPCの画面で日々用いているGIS、3次元CAD、交通量のダイナミックシミュレーションといったツールを説明いただくといった珍しい形式をとった。ここで、正直、大変な衝撃を受けることとなった。その理由としては、

      「STEM※9の素養に溢れた職員が、サイエンスベースの事前調査・研究に基づき策定された長期都市開発戦略に沿った、2年以上かけて策定した市固有の評価フレームワークやメソドロジーが記されたマニュアル(センスの良い教科書のような装丁の冊子)を片手に、・GISや3DCAD等の専用ツールを駆使してビジュアルデータアナリティクスに励んでいる。」

       といった姿が正に眼前で繰り広げられていたためである。まさに「スマートシティのオペレーション」そのものといえよう。

    3. 3)新しいエコシステムへの挑戦

       最後に見学したファブラボでは、管理者の方から、同ラボの利用状況や利用者の特徴に加えて、設立の背景やミッション等、幅広い説明をいただくことができた。

      • 現在3つある市営のファブラボの一つで、「社会的弱者のQOL改善」をミッションとしている。したがって、全ての機器が無料で使える。材料は持ち込みとなる。
      • 子どもたちも利用している。むしろ大人たちよりも自発的かつ積極的に色々なものを生み出している。
      • 運営はコンペで受託した企業から派遣されたマネージャーが担うが、給料は市から支給される。
      • 他の2つは、「環境・エネルギーに関するファブラボ」「失業者が職を得るためのファブラボ」といったようなミッションとなる。
      • 来年には現在ファブラボがある場所が図書館となり、その一部となる。図書館とFabといったケミストリーを狙っている。
      • さらに、「テキスタイル専門のファブラボ」「ベンチャーインキュベーションのためのファブラボ」も新規に開設される。
      • 新しく設営するファブラボにどのようなミッションを割り当てるかは、バルセロナ市内の地区(ローカルガバメント)の職員とその地区の住民とが協議して決める。そのため、ファブラボの存在が、その地区をどのように特色づけるかといったまちづくり戦略と直結する。
      • 革新的な取り組みなので、地域住民に対しては何度も説明を実施した。正直骨が折れた。
      • そのお陰もあって、今では地域住民にパブリックスペースと認知され理解を得られており、イレギュラーな使い方をされるといったこともない。

       特に興味深かったのは、まちづくり戦略と直結しているといった点である。このことにより、ファブラボがまさに街のスマートエコシステムの一部として位置付けられた上、有機的に機能する可能性に期待できると考えられる。

    • ※6 訪問先の各機関の詳細については、”World Data Viz Chllenge 2016(http://kobe-barcelona.net/)“を参照のこと。
    • ※7 「センサー」のエスペラント語表記。
    • ※8 ここでいう”OS”とは、個々のコンピュータマシンを制御するオペレーティングシステムではなく、多種多様な「デジタル」コンポーネントやオブジェクト等を統合し、最適化するといった抽象的なシステムを指す。偶然にも、筆者がリーダーを務める「先端IT活用推進コンソーシアム(AITC)ビジネスAR研究部会」では、世代を超えたホームインテリジェンスを実現するためのIT基盤である「空間OS」(http://www.slideshare.net/aitc_jp/201624-osit)を数年前から開発しているが、類似した発想のように見受けられた。
    • ※9 Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の略称

3.視察を通じて見えてきた、「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」の輪郭

 本項では、視察結果を踏まえて、今後の日本における議論や発展が望まれる「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」の概念を提唱する。

  1. (1)デジタル化とデータビジュアライゼーションの本質を踏まえた、これからのまちづくり

     近年、筆者が所属するIT業界(情報通信産業)では、「デジタル(化)」といったキーワードが流行っている※10。デジタル化がもたらす効用については、特に一つをあげると一般的には「エンゲージメント(つながりの創造や強化)」とされることが多い。具体的には、世の中のあらゆる概念が「デジタル化」されることにより、「ヒト」「モノ」「コト」が低コストでつながることが可能になるといったものである。(紙幅の都合で詳しい説明は別の機会に譲りたい。)

     さらに、データビジュアライゼーションがもたらす効用については、筆者は「人々のエンパワーメント」だと、あえて断言したい。すなわち、現時点では残念ながら、ナマの数値(ローデータ)や、それに伴う文字ベースのドキュメント(テキストインフォメーション)からでは、あらゆる全ての人が行動のための知見や示唆(インテリジェンス)を得るといったことは難しいが、巧みなデータビジュアライズを施されたグラフィカルインフォメーションを示されることにより、一人でも多くの人が有益なインテリジェンスを獲得できるようになると考えられるためである。

     やや抽象的だが、これらの本質を勘案した、これからの「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」のあり方を以下に示す。

    図表10 「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」の概念図

    図表10 「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」の概念図
  2. (2)視察から得られた3つの原則

     さらに、今後の日本で「デジタル活用共創型まちづくり」を的確に推進するためには、以下にあげる3つの原則が欠かせないと考える。

    1. 1)人間中心思想

       今回のワークショップや各機関の見学で、バルセロナを含む欧州のまちづくりの一端に触れることができたが、所々で強く感じたのが、政策や施策の最終目的として、「人間、特に個人の自由や幸福の向上」を徹底的に指向していることである。すなわち、日本のまちづくりにおいて、とかく目的化されやすい「経済成長」「所得の向上」「若者の雇用の確保」等も、全て上記の最終目的を達成するためのマイルストンに過ぎないということでもある。

       今後の日本におけるまちづくりにおいても、政策実施主体が、このような「人間」を見据えた最終目的を、まずは自分たちで熟慮した上で※11設定することを期待したい。

    2. 2)サイエンス起点

       例えば、バルセロナ都市生態庁では、「街における人間の快適度」の指標として、生態学の専門的な知見を踏まえて「地面から1.5m地点の気温が24℃~26℃程度」と設定している。このように、サイエンス(特に理系)の理論をベースとして、現状分析及びまちづくりのためのモデル構築を伴うことが望ましい。

       そのためには、まちづくりには大学を初めとする研究機関が参画すること、さらに研究機関においても文理融合・学際的なフォーメーション※12を構築していくことが欠かせないと考えられる。

    3. 3)コーポレートシティズンシップ

       まちづくりのプレーヤー・ステークホルダーは、住民、行政機関、研究機関、NPO、そして企業があげられる。特に(良し悪しは別として)大多数の人々が人生の多くの時間を職場で過ごす現状がある日本においては、企業やそこに勤める従業員一人一人がまちづくりの主体となるのが本来あるべき自然な姿ではないだろうか。ただし、企業に勤める一人一人の従業員が日々の業務を通じて何らかの形でまちづくりに貢献するといったことは、中々具体的に想像することは難しいのが2016年時点の現実ではある。

       しかし、最近、社会貢献のための副業を従業員に許可するといった取り組みを行う企業が注目されつつある上、今回の視察で日本から参加したメンバーには、(自分も含め)企業からの参加者が多く含まれているといったように、コーポレートシティズンシップの萌芽が現れつつあると筆者は認識したい。

    • ※11 「個人の自由」は西欧的な価値観であるため、そのまま日本に適用できるとは限らない。従って、各地域が各々の特色を踏まえた「人間をターゲットとした目的」を設定するのが望ましい。
    • ※12 まちづくりにおいては、当然数値指標一本槍では円滑に回らないため、コミュニティデザイン論やコミュニケーション論といった文系(社会学等)的なアプローチも併用されるべきである。

おわりに

 本稿で提唱した「デジタル活用共創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」は、2016年現在における日本の状況を鑑みると、実現はおろか、その必要性が広く認められ、本格的に着手され始めるまでにも幾ばくかの時間を要しそうだというのが、筆者の偽らざる考えである。その一方で、今回の視察に参加したメンバー一同は、本稿ではその一部しか触れられなかった濃厚かつ貴重な体験を経ていることから、必ず各々が何らかの変革を今後の社会で手掛けていくのではないかとの期待を抱いているのも、また事実である。

 最後に、今回のチャレンジを企画・運営している神戸市 企画調整局 創造都市推進部 ICT創造担当 松崎課長がワークショップを総括したコメントをもって、結びとしたい。

 「今回のワークショップに参加したすべての人がインスパイアされたと思う。さらに、私も含まれる全ての行政職員は、日本の自治体のオープンデータ推進がいかに遅れているかを反省しなければならない。具体的には、使う人の身になったニーズに基づくデータを提供できていない、CSVデータさえ出していれば達成といった安直な思考が蔓延しつつある、スタティックデータで良しとせずにバルセロナ市のようにダイナミックデータにこだわっていかなければならない、といったものである。

 そもそも、「数値」を言葉の中に出して説明したり、社会全体で共有・活用することが、我々日本人は苦手だとも思えるが、今回のイベントはそのような意識改革のためのファーストステップとなったのではないか。ここに、バルセロナとスペインの皆様にお礼を申し上げるともに、変革を宣言したい。」

図表11
出典:cc Iwao Kobayashiを筆者が一部加工