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再生医療のビジネス化動向

事業戦略コンサルティングユニット
産業戦略チーム
1.再生医療産業の起こり
  • 再生医療は、病気やけが、障がいによって失われたり、損傷したりした人体組織の修復促進及び補綴(ほてつ)を目的として行われる医療行為である。遡ると、1970年代に治療法が確立された白血病に対する骨髄移植や輸血療法などの、機能を失った細胞を補充する細胞治療も再生医療の一部といえる。本邦においては1990年代後半から再生医療に関連するベンチャー企業が興り、京都大学の山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の樹立によるノーベル賞受賞、政府による大型研究開発プロジェクトの推進がマスコミに大きく取り上げられ、広く国民の注目を集めるようになった。最近では国内の大手製薬企業が再生医療の研究開発をスタートさせるなど、再生医療産業が活発になってきている。本稿では国内における再生医療の実用化に向けた動向を調査し、海外の再生医療製品の開発状況と比較したうえで今後の再生医療に対する取り組みについて考察していく。

2.再生医療技術の実用化領域
  • 再生医療に用いられる細胞ソースには、ES細胞、iPS細胞や骨髄、脂肪組織や皮膚組織など生体の様々な組織に含まれている体性幹細胞がある。これらを原料として細胞培養技術や細胞加工技術、分化・精製技術を総動員し、製品を作り上げる。再生医療技術の実用化領域としては、①疾患や障害の治療、②創薬プロセスの効率化、③治療と創薬プロセス効率化を支えるバンクビジネスの3つが想定される(図1)。

    図 1 再生医療技術の実用化領域

    図 1 再生医療技術の実用化領域

    出所:各種資料よりNTTデータ経営研究所作成

  • 2.1.国内の治療を目的とした再生医療ビジネス化動向

    国内では再生医療ベンチャー企業を中心に①疾患や障がいの治療及び②創薬プロセスの効率化を目指した研究開発が進められている。2015年7月時点で、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)社による皮膚と軟骨の再生医療製品2製品が承認を受けて製造販売されているほか、ヘリオス社やツーセル社などのベンチャー企業が再生医療製品の開発を進めている。J-TEC社は2014年に富士フイルム社のグループ会社となり、富士フイルム社の開発した足場材料「セルネスト」を使った次世代の再生医療製品の開発に取り組んでいる。大手製薬企業もベンチャー企業との提携や開発のライセンス契約並びにアカデミアとの共同研究の契約を締結し、再生医療市場に参入している(表1)。

    2014年11月に施行された医薬品医療機器等法(改正薬事法)により、早期承認制度が導入され、日本は世界で最も再生医療製品の開発が行いやすい国となった。法律改正後にはテルモ社が、重症心不全を対象とした心筋細胞シートの再生医療製品の製造販売承認申請を行っており、これは早期承認制度を前提として申請されたものと考えられるが、早ければ年内にも承認が下りる見込みとされる。大手製薬企業の参入も続き、日本で開発される再生医療製品が今後増えることが予想される。

    表 1 大手製薬企業による取組み事例

    表 1 大手製薬企業による取組み事例

    出所:各社プレスリリース、有価証券報告書などをもとにNTTデータ経営研究所作成

  • 2.2.製薬会社の再生医療に対する姿勢

    再生医療製品は製造する際の細胞のソースに着目すると、患者自らの細胞を用いる自家細胞製品と他人の細胞を用いる他家細胞製品に分類することができる。自家細胞製品は完全オーダーメイド製品なので高コストになりがちであるが、他家細胞製品は原料となる細胞をバンクにストックしておくことができ、製造段階のスケールを大きくすることで製造コストを抑えられる。またこれは従来の製薬企業のビジネスモデルに近い。表1にもあるように、大手製薬企業の再生医療に対する姿勢としては、他家細胞を用いたビジネスモデルを想定しつつ、不確実性が高い再生医療市場において治療目的よりも有望視されている、iPS細胞を活用した創薬プロセスの変革を目指した研究で先行投資のリスクヘッジをしている状況であると考えられる。

    また、現時点では商業ベースで成功している幹細胞バンクは存在しないが、将来的に他家細胞を用いた再生医療が広がれば、③幹細胞バンクの市場も拡大すると予想される。さらに、バンクビジネスの拡大には遺伝子検査など細胞の品質管理に関する統合データベースの構築も必要になるためビジネスチャンスは大きいと考えられる。

3.グローバル市場における再生医療の開発動向
  • 3.1.アンメット・メディカル・ニーズに応える製品開発

    図2はグローバル市場における再生医療製品を開発ステージ別に適応疾患領域を調査したものである。承認済み/上市済みを見ると、現時点では皮膚領域(培養皮膚)や筋骨格領域(培養軟骨)の製品が多数を占めているものの、次に上市が期待されるPhaseⅡ&Ⅲでは心臓血管領域(橙色部分)が多くなり、さらにPreclinical/PhaseⅠでは中枢神経領域(黄色部分)の試験が多くなっており、次世代の再生医療製品は重症心不全やパーキンソン病を適応とした再生医療製品が多くなることが予想される。従来は技術的に可能な再生医療製品が開発されてきたが、再生医療市場が発展するための条件の一つとして、従来の医薬品では満たせなかった治療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)に応える製品の開発が必要である。日本においても心臓血管領域や中枢神経領域での臨床試験を目指した研究開発が進められている。

    図2 グローバル市場における再生医療製品の適応領域(開発ステージ別)

    図2 グローバル市場における再生医療製品の適応領域(開発ステージ別)

    出所:ARM Regenerative Medicine Annual Industry Report 2014をもとにNTTデータ経営研究所作成
    注:再生医療製品の範囲としては幹細胞製品、初代培養細胞由来製品を対象として集計。癌免疫療法などの免疫細胞療法と遺伝子治療は含んでいない。

  • 3.2.再生医療製品開発における細胞ソース

    山中教授のノーベル賞受賞以降、国内ではiPS細胞を用いた再生医療に対する期待が高く、多額の研究予算が充当されているが、再生医療に用いる細胞ソースとしてはiPS細胞だけではなく、ES細胞や体性幹細胞もある。むしろグローバル市場ではES細胞や体性幹細胞の一種である、間葉系幹細胞の利用の検討も同等程度進んでいる。国内でのES細胞を用いた臨床研究は、その作成過程における倫理的側面から制限が課せられた。海外でもES細胞の利用には慎重な向きがあるものの、表2にあるように、ES細胞を用いた臨床試験が実施されている。

    また、2014年9月に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーによって、世界で初となる加齢黄斑変性症に対する自家iPS細胞を用いた臨床研究が開始された。第一例目の患者への移植が行われたことは大きく報道され、iPS細胞を用いた治療が安全に実施されうることを実証した点で意義深い。しかし自家iPS細胞を細胞ソースとした場合は、第二例目の移植中止に見られるように、ドナーの細胞によって品質が必ずしも一定にならない可能性もあり、他家iPS細胞バンクを用いた開発方針にシフトするものとしている。

    再生医療製品の原料細胞としてES細胞、iPS細胞や幹細胞があり、細胞ソースとして自家細胞と他家細胞もある。対象疾患ごとに最適な選択を行うという前提のもと、今後の再生医療市場において、どの技術が覇権を握るのか先行き不透明であるからこそ、国も企業も自社のポジショニングを明らかにし、ポートフォリオを組んで研究開発を進めていく必要がある。

    表2 海外におけるES細胞を用いた臨床試験

    表2 海外におけるES細胞を用いた臨床試験

    出所:Cell Stem Cell 17 Alan Trounson et al ,July2,2015 ”Stem cell Therapies in clinical Trials: Progress and Challenges “

* 文中に記載する商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

  • 参考文献

    1.Alan Trounson et al “Stem Cell Therapies in Clinical Trials: Progress and Challenges” Cell stem cell Volume 17, Issue 1, p11–22, 2 July 2015

    2.Alan Trounson et al ” Clinical trials for stem cell therapies” BMC Medicine 2011, 9:52

    3.国際医薬品情報 2015年1月26日 1026号 p28-p33.再生医療特集

    4.Alliance for Regenerative MedicineRegenerative medicine Clinical and Financial overciew 2014

    5.アステラス製薬2014年7月10日発表資料「創薬研究への取り組み」https://www.astellas.com/jp/ir/library/pdf/rd_2_drugdiscovery_jp.pdf

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