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コラム・オピニオン 2017年8月1日

なぜ働き方改革には「定年制の見直し」が欠かせないのか~~人口ボーナス、人口オーナスの大いなる誤解

取締役会長
山本 謙三

人口ボーナス、人口オーナスをめぐる誤解

 「人口ボーナス」、「人口オーナス」という言葉は、しばしば誤用される。たとえば、「人口が増えれば、国民生活は豊かになる」、「人口が減れば、国民生活は貧しくなる」は、単純にすぎ、ミスリーディングだ。

 考えてもみよう。どの国も、出生率が高まり、人口が増える時こそが苦しい。より多くの子どもを一人の大人が支えなければならないからだ。

 日本も戦争直後はそうだった。戦争で貴重な働き手を失う一方で、団塊世代が多く生まれた。彼らをどう養っていくかが、国の大きな課題だった。1950年代には、中南米への移民も再開されている。移民は、戦前だけのものではない。

 重要なのは、総人口に占める働き手の人口の比率である。国民の豊かさ(国民一人当たりのGDP)は、この比率に比例する。同比率の上昇局面が本来の「人口ボーナス期」、低下局面が本来の「人口オーナス期」に当たる。

 簡単な例で確認してみよう。参考1は、働き手の年齢層を20~69歳(注1)とし、出生数が毎期減少を続ける場合の「働き手人口」比率の変化をみたものだ。

(注1)働き手を20~69歳としたのは、10歳単位で計算するための便宜上のもの。15~64歳(生産年齢人口)あるいは20~64歳としても、結論はほとんど変わらない。

 試算結果が示すように、少子化継続の仮定のもとでは、「働き手人口」比率は長期にわたり上昇し、ピーク到達後も高原状態が続く。すなわち、「人口ボーナス」期が長く続く。

 参考1にはないが、このモデルを前提に再計算すると、「人口オーナス」期は、むしろ出生率の低下が止まった時点から始まることとなる。

(参考1)少子化過程での「働き手人口」比率の推移

(参考1)少子化過程での「働き手人口」比率の推移

 (試算の前提)
1.人口ピラミッドは、1950年時点の死亡率を基に仮定。
2.出生数は10年ごとに5ずつ減少。
3.各年齢層の死亡率は当初の人口ピラミッドで一定(たとえば、20歳代に人口の5%が減少)。

 (出典)NTTデータ経営研究所が作成。

すべては「長寿化」が原因

 つまり、出生率の低下が、国民生活を貧しくするわけではない(注2)。人口問題の根源は、上記試算に織り込まれていない「長寿化」の方にある。より正確にいえば、長寿化にもかかわらず、その分一人一人が長く働いて「働き手人口」比率を維持しようとしてこなかったことに問題がある。

(注2)ここでは、あくまで「国民一人あたりの経済的な豊かさ」に焦点を当てている。これとは別に、「一国の国力」を考える場合には、人口規模と比例するとの見方が有力であり、少子化は依然大きな問題である。

 確認のため、参考1に「長寿化」の要素を付け加えてみよう。参考2は、各年齢層の死亡率が毎期5%ずつ低下すると仮定して、「働き手人口」比率の推移をみたものだ。

(参考2)少子化・長寿化過程での「働き手人口」比率の推移

(参考2)少子化・長寿化過程での「働き手人口」比率の推移

 (試算の前提)
参考1の前提に加え、すべての年齢層で10年ごとに死亡率が5%ずつ低下。

 (出典)NTTデータ経営研究所が作成。

 試算結果から分かるように、長寿化継続の仮定のもとでは、働き手人口比率のピークは参考1に比べ早く到達し、かつピーク後急速に低下していく。すなわち、一挙に「人口オーナス期」が訪れることになる。

 それほど長寿化のインパクトは絶大だ。こうした働き手人口比率の低下を避けるには、一人一人がより長く働く――すなわち、働き手人口を「20~69歳」から「20~70歳超」まで引き上げる――しかない。

少なくとも70歳代半ばまで働くこと

 以上を、実際の日本の人口構成にあてはめてみよう。日本の働き手人口(20~69歳)比率は、90年代半ばにピークの68%に達したあと、2015年には64%まで低下した。

 これを、仮にピーク時水準の68%のまま維持しようとすれば、働き手人口の定義上の上限年齢(69歳)を、2020年時点で73歳、2030年時点で76歳まで引き上げる必要がある。

 一方、直近時点(2013年)の健康寿命は、男71年、女74年とされる。したがって、上記の働き手人口の上限年齢引き上げは現実的かどうかという問題が残る。

 しかし、その意味するところは、経済社会のバランスを保つのが難しくなるほど、日本では長寿化が先行したということだ。手をこまぬいていられる話ではない。

 では、実際に、高齢層の就業はどう推移してきたか。70歳以上の労働力人口比率(注3)は、約50年前(1968年)の24%から、直近(2016年)は14%まで低下している。65歳以上全体をとってみても、34%から23%への大幅低下だ。

(注3)労働力人口比率とは、当該年齢層の全人口に占める、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)の割合。

 これには男性の比率低下の寄与が大きい。65歳以上男性の労働力人口比率は、約50年前は5割を超えていたのに対し、今は3割強にすぎない(2014年3月「長生きになって、むしろ働かなくなった高齢層」参照)。

 結局、寿命が伸びたにもかかわらず、それに応じた労働力の追加が行われてこなかったということだ。日本では、長寿の恩恵を、勤労の延長に使わず、引退後の時間の延長に使ってしまったということである。これでは、長寿化とともに老後の生活が圧迫されるのも道理だろう。

長く働くことを中心に据える社会制度を

 現役世代の負担をこれ以上増やすことなく、豊かな老後を維持するには、一人一人が長く働くしかない。社会制度を、長く働くことを中心に据えた制度設計とする必要がある。

 第一の課題は、定年制の見直しだ。平均寿命が80歳代半ばから90歳に近づくことを踏まえれば、「65歳定年」はいかにも無理がある。

 米国などでは、そもそも定年制がない。年齢差別として法的に禁止されているからだ。履歴書にも通常、年齢や生年月日の欄は設けられていない。

 企業経営の立場からみれば、定年制を廃止するには、給与やポストを全面的に能力に応じた体系とする必要がある。究極的には個々の会社の問題といえるが、抜本的な社会制度・慣行の見直しに関する国民の共通理解の醸成が不可欠だろう。

 第二の課題は、社会保障制度の見直しだ。同制度を、働き手を大切にし、一人一人が長く働くことを中心に据えたものに改める必要がある。年金制度なども、働くことへのインセンティブを高める制度設計が重要となる。

 政府は現在、働き方改革を推進している。現役世代の過重な労働を抑制し、健康な社会づくりを急ぐことは何よりも重要だ。そのもとで日本経済の成長力を確保し、国民の豊かさを維持するには、高齢の者ができる限り長く働き、社会全体のバランスを保つ必要がある。

 働き方改革には、高齢世代の勤労促進が欠かせない。

以 上