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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.56(2017年11月号)

特集:事業変革と経営改革の新潮流  ~来るべきデジタル時代の海図と航路~

変革期を迎えたeコマース進展の軌跡と今後の展望
~躍進するアマゾンの驚異と脅威~

加藤 賢哉
加藤 賢哉
NTTデータ経営研究所 法人戦略コンサルティング部門 事業戦略コンサルティングユニット長 パートナー

かとう けんや
大手システムインテグレータを経て、1994年NTTデータ経営研究所入社。主に生産財、サービス財の事業戦略、製品市場戦略、顧客戦略の立案などマーケティング・マネジメント分野のコンサルティングに携わる。ECビジネス事業化や流通業における次世代ソリューションの戦略策定、ワイヤレスソリューションを用いた新規事業開発などに取り組む。また、グループ経営改革や管理会計などの経営管理分野でも実績をもつ。

1 変革期を迎えたeコマース

●国内消費財流通ビジネスは「競争」から「争奪」へ

 国内市場が縮小するなか、消費財流通ビジネスを取り巻く環境は厳しさを増し、「競争」から限られたパイを奪いあう「争奪」の様相を呈してきている。

 日本の総人口は平成17年(2005年)に戦後初めて前年を下回った後、平成20年(2008年)にピークとなり、平成23年(2011年)以降平成28年(2016年)まで6年連続で減少している。

 人口減少はこのまま進み、26年後の2053年には1億人を割り込み、これからの36年間で総人口は約20%減少すると予測されている。また、少子高齢化も進み、2040年には65歳以上が35%以上を占め、75歳以上の後期高齢者の割合は20%に達するなど高齢化社会のディープ化が進行する一方、15歳未満は11%を割り込むと予想されている。

 国内市場の縮小を受け、2017年1ー3月期の国内家計最終消費支出総額も294・3兆円(内閣府「国民経済計算」)と伸び悩むなど、国内市場の傾向をマクロ的に見る限り、消費財流通ビジネスの未来は決して明るいものとはいえない。

 これを消費財市場の大半を占める「食料品・飲料カテゴリー」の視点でみれば、人口減少という ”胃袋の数の減少 “に加え、少子高齢化による ”胃袋の容積の縮小 “というダブルパンチを受ける形になる。

 また、実店舗を構える小売業者に代表される既存の消費財流通プレイヤーにとっては、従来のチェーン間やエリアでの店舗間という ”リアルの競争 “に加え、ネットプレイヤーの台頭による ”ネットとの競争 “も加わり、これが「争奪」にさらに拍車をかける形になっている。

●BtoCーEC市場は堅調な伸び

〈国内〉

 国内消費市場全体が伸び悩む一方で、BtoCーEC(以下、eコマース)市場は堅調な伸びを示している。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、国内の2016年eコマース市場規模は、15兆1358億円(前年比9・9%増)となった。その中の物販分野をみても、伸び率は10・6%と前年に比べて倍増し、8兆43億円規模にまで成長しており、EC化率は5・43%(対前年比0・68ポイント増)となっている(図 1)。今後も市場は確実に伸びると想定され、2020年の市場規模は約20兆円にまで拡大するという予想もある。

 主要プレイヤーの動向をみても、2016年度において大手小売の半数が減収であるなか、Amazon.co.jp(以下、アマゾンジャパン)の売上げが1兆1747億円(前年度比17・5%増)となり、国内小売ランキングで6位になるという記事が日本経済新聞の一面を飾った※1。また、双璧である楽天も国内流通総額は、16/12期で3兆円を突破し(前年比12%増)、Yahooショッピングのそれも1兆5000億円に達するなど、主要プレイヤー3社は流通総額ベースで国内の小売りランキングのトップ10に入っている。

 言うまでもないことではあるが、縮小する市場のなかでの競争激化は、他のパイの奪い合いということである。

  1. ※1 日本経済新聞 2017年6月28日朝刊

図1| BtoC ECの市場規模およびEC化率の経年推移

図1| BtoC ECの市場規模およびEC化率の経年推移

出所:経済産業省「平成28年度我が国におけるデータ駆動的社会にかかる基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」を基にNTTデータ経営研究所が作成。尚、2012年以前は、調査手法が変わったためこの調査での物販系分野EC市場規模のデータは入手できない。

〈グローバル〉

 eコマース市場の拡大は日本国内に限った話ではない。むしろグローバルレベルでみれば日本よりもEC化のスピードが速く、世界平均では2017年中にEC化率が10%を突破すると予測されている。(図2)

 主要プレイヤーとしては、やはりAmazon.com(以下、米国アマゾン)の飛躍的な成長に陰りはみえず、2010年以降30%を超える年平均成長率を達成し続けている(図3)。国内でもアマゾンジャパンの勢いが注目されるが、グローバルでみればそれを凌駕する指数的な勢いで急拡大していることがわかり、今や世界の消費財流通プレイヤーにとっての共通の脅威になりつつある。

図2| 世界におけるEC販売額と小売販売額全体に対するEC化率(2015-2020年)

図2| 世界におけるEC販売額と小売販売額全体に対するEC化率(2015-2020年)

出所:eMarketer「Worldwide Retail Ecommerce Sales Will Reach $1.915 Trillion This Year」

図3| Amazon.comの売上推移

図3| Amazon.comの売上推移

出所:米国証券取引委員会への提出資料・ダイヤモンドチェーンストア(2016/4/1)を基に、Principal Global Indicatorsの為替レートを参照しNTTデータ経営研究所が作成

●eコマースの競争ステージが大きく変わろうとしている

 市場規模(量的側面)では拡大の一途をたどるeコマースも、現在に至るまでには様々な変遷をたどってきた。そして今、従来とは競争のステージが大きく変わろうとしており、まさに変革期を迎えたともいえる。

 これは、eコマースのビジネスモデルがある意味行き着くところまで高度化したともいえ、今後は従来の延長線上ではない競争に突入することを示唆している。

 本稿では、前半の「eコマース進展の歴史は ”顧客直結 “競争の軌跡」でeコマースがどのようにビジネスモデルを高度化してきて現在に至ったのかを振り返り、後半の「 ”生活密着 “競争ステージの鍵を握るエンゲージメント」で、それが今後どのように進展していくのか、その際の競争ステージと成功要件はどのようなものになるのかについて考察する。


2 eコマース進展の歴史は”顧客直結 “競争の軌跡

2・1 消費行動に大きな変革をもたらしたeコマースの出現

●「進化」と「深化」の融合と連鎖

 消費者は、生活において発生する様々な需要を、商品やサービスの購入によって充たしているが、eコマースの出現以前は、通信販売や訪問販売を除けばその役割のほとんどを店舗(店頭)が担ってきた。

 しかし、90年代のインターネットの急速な普及に伴う高度情報化社会の到来により、ネット空間を活用した新種のビジネスモデルが開発され、オンラインショッピングによって消費行動に大きな変革がもたらされた。

 アマゾンや楽天に代表される(当時の)新興プレイヤーは、ITを中心としたテクノロジーの進展をうまく取り込む形でビジネスモデルを矢継ぎ早に開発し、生み出される顧客体験が消費者のニーズ(心理変容や行動変容)をうまく取り込む形で支持を集め、それに呼応する形でビジネスモデルを更にブラッシュアップさせるという好循環を生んできた。

 消費行動に大きな変革をもたらしたものの、リアルでの接点をもたないeコマースにとって最大の課題は、 ”いかに消費者の需要や要求に直接つながっていく(リーチする)か “、すなわち「顧客直結」であり、eコマースのビジネスモデル高度化の歴史は、「顧客直結」競争が繰り広げられてきた軌跡であるといえる。

 この競争は、「充たす需要の対象の広がり」という ”進化 “と、「要求の充たし方のレベル」という ”深化 “の二軸で捉えることができる。前者は主にDemand Chainサイドの高度化であり、後者は主にSupply Chainサイドの高度化である(図4)。

 ある需要を充たす形でビジネスモデルを進化させ、そこから生まれる要求を高度なレベルで充たすように深化させながら、並行して次の需要へ・・・と、深化と進化の融合と連鎖によって顧客へより直結しながら成長してきた。

 現状のEC化率は、現時点でeコマースが充足している需要の範囲を示しているのであって、言い換えれば今後どこまで伸びるかは ”進化 “と ”深化 “のカバレッジによるともいえる。

図4| eコマース高度化(=「顧客直結」競争)の軌跡

図4| eコマース高度化(=「顧客直結」競争)の軌跡

出所:NTTデータ経営研究所にて作成


2・2 ビジネスモデルの「進化」 ~充たす需要の対象の広がり~

●第一ステージ:買い回り品の単品買い需要

 eコマースが最初に充たした需要は、いわゆる「買回り品」の単品買い需要である。欲しい商品やサービスが特定できる、または商品群やサービス群が明確な財をカバーしてきた。

 この場合、消費者サイドとしては、いかに有利で便利に購入するかに重点が置かれることになる。いわゆる「ショールーミング」によって、ネットで事前に情報収集をし、リアル店舗で手に取りながら購買対象を絞り込み、最も有利で便利な条件のネットショップで購入するスタイルが出現したのもこれらが背景である。言い換えれば、消費者サイドもリアルとネットを都合のいいように使い分けてきた。

 一方で、eコマースのプレイヤーサイドも、品揃え、価格、スピードにおいてリアル店舗よりいかに優位性のある顧客体験を提供できるかに焦点をあて訴求してきた。

 アマゾンは「お客様は、最安値、幅広い品ぞろえ、そして素早く商品を手に入れることを重要視している。我々はお客様が何を欲しがっていて、それをいかに届けるかを考えている」と、CEO自ら顧客体験こそがアマゾンの基本であると訴えている。

 また、初期のころは商品の真贋への疑心暗鬼や、ネットでのクレジットカード決済への抵抗などもあり、消費者に対する安心・安全を担保することが課題であったが、プレイヤーサイドの努力や消費者サイドの慣れも相まって、現在では懸念について払しょくされつつある。

 また、従来のメディアに比べて情報提供が容易にできるようになったため、ネット上には様々な情報が氾濫した。消費者は信頼性の担保のひとつとして、いわゆる口コミが消費者の選択や行動に大きな影響をもたらすようになり、この消費者起点の情報発信の定着が次の進化に結び付いていったと考えられる。

●第二ステージ:趣味性の高い需要

 次にeコマースが充たした需要は、「趣味性の高い」需要である。消費財流通プレイヤーサイドの課題も、喚起された需要を迅速に捉えるだけでなく、需要そのものを喚起するところに軸足が移っていく。消費者の購買行動プロセスでいえば、より上流にしみだしていくことであり、高いレベルで顧客に直結することが競争軸になる。

 この流れの背景には、1990年代後半に登場したスマートフォンの普及と2000年代初期に登場したソーシャルネットサービスによって、消費者の情報武装化が急速に進み、人とのつながりが強くなりコミュニケーションの距離が縮まったことに加えて、生まれたときからネットに親しんできた(生活のあらゆるシーンで使いこなしてきた)リテラシーの高い世代である、いわゆる「ミレニアル世代」が消費市場において台頭してきたことが挙げられる。

 デジタルネイティヴとも呼ばれるこの世代は、高額の消費に価値観を置かない(コスパを重視)、「倹約は美徳=賢い消費行動」との価値観が根付いており、消費財流通プレイヤーからの広告といったアプローチによって提供される商品やサービスそのものの情報よりも、SNSなどの同世代が発信する情報、特にライフスタイルや価値観、さらには商品やサービスそのものよりもそれにまつわる物語(ストーリー)に反応し、消費者同士が刺激しあい、それへの共感という形で需要が喚起され、その連続で購買行動をとることが特徴である。

 電通総研の調査※2によると、「約4人に3人がSNSのシェアコミュニケーションによって何らかの購買行動や体験消費についての影響を受けている」とされ、もはやSNSは、当初の ”人とつながる交流ツール “から ”消費を促す情報ツール “に変貌を遂げつつある。

 これに呼応する形で、消費財流通プレイヤーサイドのマーケティングも高度化してきた。一方的な商品やサービスの魅力の訴求や、機能性などの説明ではなく、消費者同士のコミュニケーションの中にできるだけ自然な形で溶け込みながら需要を喚起し、購買行動に結び付けるような形になっていく。

 その代表的なものが「SNSマーケティング」であり、大きく「消費財流通プレイヤーによるスタイル提案型」と「消費者によるスタイル提案型」がある。

 前者は、商品やサービスの説明ではなく、スタイルやシーンを訴求する中で、消費者の行動や心理を変化させ購買に結び付ける手法である。まず興味や関心の強いコンテンツを用意してそれを十分に楽しんでサイトを回遊してもらい、そこから新商品やキャンペーンの情報に誘導していく流れをつくる。

 後者は、消費者目線の投稿写真や動画が他の消費者をひきつける効果が大きい点に着目し、消費者自らが発信する商品やサービスの利用シーンへの共感を巧みに組み入れながら行動や心理を変化させ購買に結び付ける手法であり、商品やサービスを使ったスタイルそのものをインスタグラム等で拡散してもらい(インフルエンサー)、それを広告として活用する。

 もうひとつの代表例が、「コ・クリエーション」であり、従来の「顧客へ価値を提供する」から「顧客とともに価値を創り出す」へマーケティングをシフトさせ始める消費財流通プレイヤーが出現してきた。これは、ソーシャルメディアの普及により顧客がパワーを持つようになってきている一方で、企業主導での製品・サービス開発や提供による差別化は困難になってきていることが背景にある。そこで、顧客パワーの活用に着目し、顧客と共に価値を創り出すことに着目しはじめた。コ・クリエーションで先取的な取り組みをしているのが無印良品であり、消費者の声を反映した商品の開発に力を入れており、商品化を決めるのにインターネット投票の導入、新商品の機能やデザインなど消費者ニーズを一段と取り入れる仕組みを作りながら、ニーズにあった商品を外れなく迅速に投入している。

  1. ※2 若年層のSNSを通じたビジュアルコミュニケーション調査(電通総研)
●第三ステージ:最後のフロンティアである食品(生鮮品含む)

 現在、そしてこれからのeコマースの主戦場は、普段の生活になくてはならないもの、いわゆる日常需要、最寄品である。その中でもeコマースの最後のフロンティアと言われるのが食品であり、それも、いわゆるお取り寄せ品ではなく、日常の食事に必要な材料、特に生鮮品である(図5)。

 食品、特に生鮮品は温度帯など配送時にデリケートな管理をしなければならないこと、商品が手に入るまでに時間がかかること、品質や鮮度が確認しにくいことなど、クリアすべきことが多いものの、特にミレニアル世代は、食品のネット購入に抵抗がないと言われ、日常需要のネットショッピング市場のイノベーターとして市場形成を牽引していくと考えられる。

 前出の「電子商取引に関する市場調査」をみると、2016年の「食品・飲料・酒類」カテゴリーのBtoCーEC市場規模は1兆4503億円となり、対前年比で10・2%成長した。約60兆円以上ともいわれる市場において、EC化率は2・25%に過ぎないが、伸び率は高い。

 一方で、米国の食品マーケティング協会が発表したECに関する最新レポートでは、生鮮や飲料を含む食品がネットで購入される比率は2025年までに20%となり、市場規模は1000億ドルに達すると予測されている。

 現在市場拡大を牽引しているのは、リアル事業者のネットスーパーであるが、ネット専業事業者も好調といわれる。

 このネット専業事業者で日常需要の取り込みをグローバルレベルで牽引しているのは、やはりアマゾンである。米英ではアマゾンフレッシュでフルカテゴリーサービスを鮮度保証制度で返金対応まで行っており、近い将来に米国の食品・飲料市場でトップ10に入るとの予想まである。

 日本ではアマゾンパントリーで食品・日用品を1個から販売し、アマゾン定期おトク便、おまとめ割引などサービスを拡充しつつある。また、楽天も楽天マートの全国展開を開始し、ロハコは普段使いの食品や日用品に加え、生鮮品の取り扱いを検討しはじめている。

 今後も、生鮮品分野を狙うeコマース企業は増えるとされ、競争激化は避けられない状況である。

図5| 食品EC販売額の推移および予測(2006-2018年)

図5| 食品EC販売額の推移および予測(2006-2018年)

出所:富士経済「通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2017」を基にNTTデータ経営研究所が作成(注:予測値は上記レポートに基づく。2016年の値はレポート発表時の見込値を掲載)


2・3 ビジネスモデルの「深化」 ~要求の充たし方のレベル~

●需要の質的変化に伴う「深化」

 eコマースが充たす需要が ”節目需要 “から ”日常需要 “へと広がるにつれて、消費者の要求レベルも変化し、それをSupply Chainサイドの高度化によって、より「顧客直結」すべく競争が繰り広げられてきた。つまり、消費行動における「時間と空間の自由度」をどれだけ提供できるかである。

●時間の自由度

 まず挙げられるのは、注文から受け取りまでの速さである。需要の緊急度にもよるが、日常生活に必要なものであればあるほど、早く手に入れられるに越したことはない。CVS(コンビニエンスストア)がここまで成長してきた要因のひとつに、「いざという時に必要なものがすぐに買える」という利便性が寄与したことに疑いの余地はない。この点については、eコマースも既に来るところまで来ているといっても過言ではない。アマゾンプライムナウは、百貨店とドラッグストアの商品の取り扱いを新たに開始し、東京都内の対象エリアにおける取り扱い商品7万点を注文から一時間以内に届けるサービスの対象地域を急拡大しており、ヨドバシエクストリームは最短二時間で配送料無料、楽天の楽びんは飲食店の料理や日用品を20分で届ける。

 次に挙げられるのが、受け取るタイミングのきめ細かい指定、すなわち自分の都合にどれだけきめ細かく配送サービスが対応してくれるかである。調査では、当日配送や即日配送といった速さよりも、日付指定・時間指定といったきめ細かさの方がニーズとしては高い。注文した品物が、仮に翌日届くにしても、届いたときに不在で受け取れなければ再配送依頼や再配送されるまで待つストレスが生じる。

 いわゆる「物流のラストワンマイルの攻防」であり、プレイヤーがしのぎを削っているところである。国内の宅配個数は増え続け、2015年度は宅配便取扱個数が過去最高となり、宅配の2割は再配達、のべ9万人分の労働力が再配達に割かれるなど効率化が課題となっているなかで、昨今のドライバー不足も相まって限界まで到達している(宅配クライシス)。昨今では相次ぐ宅配事業者のサービス見直し(価格・当日配送・時間指定)に、消費財流通事業者も合わせる動きが活発である。

 当然、時間の自由度を高めるということは、その分コストアップにつながる。特に食料や日用品では配送コストが高くなり構造的に利益が出にくい。

 そこで注目されるのが、いわゆるシェアリングエコノミーであり、Uberに代表される、空いている資源の有効活用をクラウドで行うサービスである。日本ではライドシェアで物議を醸しているが、むしろ「物流ラストワンマイル」での活用の方が速く進むのではないか。

 この分野で先行する米国をみても、ウォルマートはUberと提携、ここでも米国アマゾンは自前主義を貫こうとしているのか独自でアマゾンフレックスというシェアリングエコノミーの仕組み(アマゾンと契約した個人が荷物を配達するプログラム)を構築しはじめている。また、米国ではいわゆる買い物代行サービスのInstacartなども成長しており、配達の内製化からこれら新興企業にアウトソーシングされることが増えていくと考えられる。

 現状は、どうしても人手を介したデリバリーになるが、将来的には機械に代替されていく(無人化・自動化されていく)と考えられる。まだまだ技術レベルが達していない、規制がクリアできない(むしろ、規制を作らなければならない)などの理由で、実証実験段階ではあるが、ドローンを使った配達ではアマゾンプライムエアが先行するなか、USセヴンでは完全無人操作での実験に成功している。また、Googleは無人トラックの研究を進め、米国アマゾンでも自動運転技術の研究に着手しはじめた。

●空間の自由度

 時間の自由度の次に深化しているのは受け取れる場所の多様さである。

 日常に必要なものだからといって、必ずしも自宅で受け取りたいというニーズばかりではない。何かのついでに、真夜中など時間的に宅配は避けたい、一人暮らしの若い女性に多い防犯上の理由などで、自宅外で受け取りたいというニーズは少なからずある。

 これについても欧米では ”クリックアンドコレクト “という、ネットで注文したものを店舗やドライブスルー型受取拠点、駐車スペースなどでピッキングできるサービスが浸透している(図6)。

 ウォルマートは、Save money Save Timeを掲げシームレスショッピングという顧客体験の提供に力を入れている。もちろん、狙いは食品のネット販売とストアピックアップを組み合わせることによる来店動機を喚起することであり、最近ではピックアップディスカウントを導入してストアピックアップの利用促進とコスト削減によって米国アマゾンとの差別化を図ろうとしている。

 一方、米国アマゾンは、アマゾンフレッシュピックアップによってネットで注文した生鮮品や日用品を新業態のリアル店舗でドライブスルー形式で受け取れるサービスを検討しており、注文から15分でピックアップの準備を完了するという。

 よくリアル事業者(店舗型小売業)は、オムニチャネル化に対する懸念(来店が減る)が言われるが、英国テスコでは、予め買うことが決まっているもの(加工食品や日用品)はネットで注文しておき、それを店頭でピックアップする際に、それ以外のもの、例えば生鮮品などを店頭で選んで買うといった消費行動(ストアピックアップ)によって店舗売上が増えた。

 宅配クライシスの日本においても、ピックアップポイントの多様化は今後進んでいくと考えられ、そこで有力視されるのは、はやりCVSであろう。

 東京23区においてはCVS店舗から500m圏内の人口カバー率が99%、関東1都6県では81%、日本全体では68%とも言われる。しかし、省スペースで蔵置しておくスペースが少ない、パート・アルバイトの店舗オペレーションの負荷増大などの課題も多く残っている。

 他にも、受取ロッカーの設置も急ピッチで進んでいる。楽天は一部郵便局に、ヤマトは東京メトロと組んで駅構内に、東北のスーパーマーケットのアークスは日本郵政のはこぽすを店内に設置している。

図6| 過去一年間におけるクリック&コレクト利用率(2016年)

図6| 過去一年間におけるクリック&コレクト利用率(2016年)

出所:JDA「インターネットショッピングに関する消費者意識調査2016」を基にNTTデータ経営研究所が作成


3”生活密着 “競争ステージの鍵を握るエンゲージメント

●”顧客直結 “競争の帰結としてのオムニチャネル

 前半で述べたとおり、eコマースは、「充たす需要の対象の広がり」という ”進化 “と、「要求の充たし方のレベル」という ”深化 “の二軸でビジネスモデルを高度化させながら「顧客直結」競争を繰り広げてきた。

 また、それはリアルとネットの垣根をなくすことにつながり、 ”融合 “すなわちオムニチャネルに帰結する。今や消費者にとってリアルとネットといった二元論はまったく意味をなさず、消費財流通ビジネスプレイヤーにとってオムニチャネルは成長に必要なごく当たり前の活動となり、既に ”どのようにサービスを高度化するのか “という段階に突入している。

 では、eコマースは次にどのようなステージに進み、そこでの競争軸は何になるのだろうか。これは、インターフェースとしてのコンピュータが今後どのように進展していくのかということと関係がある。

●消費者の情報武装の進展 ーコンピュータのインターフェースレス化(透明化)ー

 かつてはネットショッピングで消費者が用いる端末はパソコンが中心であったが、今やスマートフォンにその座を奪われつつある。これは、端末の進化に伴う急速な普及が背景ではあるが、それだけ消費行動にネットショッピングが浸透してきている、つまり当たり前になっている。

 前出の「電子商取引に関する市場調査」によると、2016年において物販系BtoCーEC市場規模の31・9%がスマートフォン経由で購入された。また、富士経済のレポートでは、その比率は今後も高まると予想している(図7)。スマホ経由のECサービスの利用が、PCのそれを大きく上回ったという調査結果も散見されるようになった。

 では、スマートフォンの次に来るものは何であろうか。ひとつは「ウエアラブル」であり、さらには「アンビエント」であると言われる。テクノロジーの進化によってあらゆるところにコンピュータが存在して生活に溶け込んでいくということだけでなく、人間が意識せずにコンピュータを使いこなすようになる、いわゆるコンピュータのインターフェースレス化(透明化)が確実に進んでいくのである。

図7| ECの受注チャネル別構成比推移と予測(2006-2018)

図7| ECの受注チャネル別構成比推移と予測(2006-2018)

出所:富士経済「通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2017」を基にNTTデータ経営研究所にて作成

●AI音声アシスタントの出現 ー「顧客直結」から「生活密着」へー

 ”ポストスマホ “、すなわち市場が成熟したスマホの次の成長分野の本命と目されるのが「AI音声アシスタント」である。米国では家庭に急速に浸透(市場が急拡大)してきており、様々なプレイヤーの市場参入によって競争が激化している。

 ここでも米国アマゾンが先行し、2014年に発売されたアマゾンエコーはこれまでに1100万台も販売されており、米国でのシェアは70%とも言われている。

 AI音声アシスタントは、家の中、特にリビングなどの生活の中心の部屋においておき、声をかけながら様々なサービスをコントロールする音声インターフェースである。AIが搭載されていることからもわかるように、単なるインターフェースではなく収集した情報をもとに学習を重ね、かなり高度なコミュニケーションがとれるようになる。また、あらゆるものがネットでつながるIoT時代に身の回りのデジタル機器をつなぐハブとしての期待も高い。

 現時点では、音楽をリクエストしたり、天気予報を確認したり、タクシーの配車やピザの注文など、意図してサービスを受けたり、商品を注文したりする際のインターフェースでしかない。しかし、消費財流通ビジネスへの真のインパクトは、検索や購入データだけでなく日常生活の何気ない会話などから生活全般の情報を収集し、そこから意味のあるインサイト(需要情報)を抽出し、さらに最適な自動購買によって需要を充たすような段階まで進化する可能性を秘めていることである。それを許すか否かは別としても、テクノロジー的には可能となる日も遠くないのである。アマゾンが、消費者が注文する前に商品を配送するという予測出荷を真剣に検討していることも、この競争ステージでも圧倒的なアドバンテージを築くことを見据えてのことであろう。

 これは、ネットショッピングで需要を充たす行動自体が、生活の中に自然に溶け込んでいくことを示唆しており、それまでの「顧客直結」競争から「生活密着」競争のステージに突入していくことを意味している。

●「生活密着」競争ステージにおけるeコマースの成功要件 ーエンゲージメントー

 「生活密着」競争ステージにおけるeコマースの成功要件は何になるのだろうか。もちろん、これまでの「進化」と「深化」によるビジネスモデルの高度化はさらに進展するであろうが、それだけでは「生活密着」ステージでの競争優位を確立することはできない。

 ポイントになるのは、AI音声アシスタントに代表されるコンピュータのインターフェースレス化に伴って、消費者の購買行動がどのように変化するのかである。現在は、消費者が需要を認識してから、その需要を満たす商品やサービスを検索し、最適なプレイヤーへ注文をするという、消費者が意識的に購買行動をとっているが、今後はこの行為自体がなくなっていくと考えられる。つまり、消費者は需要を認識するだけで、もしくは認識すらする前に、商品を購入したりサービスを受けたりするようになる、”購買行動レス化(買うものが決まっている食品や日用品のショッピング自体が不要になる)“が進むのではないだろうか。先に述べたように、eコマースの主戦場は既に日常需要(最寄品)なのである。

 実際に、真新しいサービスではないものの、米国のダラーシェイブクラブやアマゾンダッシュリプレニッシュメントなど、サブスクリプションコマースという形で生活の中に購買行動が溶け込むビジネスモデル、すなわち ”売る “ビジネスから ”使い続けてもらう “ビジネスへの転換がここにきて改めて注目されている。

 しかしながら、生活に溶け込んで需要を察知して購買まで自動で済ませてくれるというのは一見理想的であるように思えるが、一方でプライバシーを含めて自分の生活をさらけ出すということでもある。また、購買した商品やサービスが、自分の欲しているもの(ニーズと合致している)かという不安もある。

 ここで重要になるのが、消費者側が「どのプレイヤーに生活密着を許すのか」という点である。自らの意思で購買行動を起こすのであれば、使い勝手と条件がよいプレイヤーで十分かもしれないが、いつでも生活に密着して自分のことを十分理解した上で需要を充たしてくれるプレイヤーとなると、何よりも重要なのは信頼感や安心感、それに裏打ちされた合意がなければありえない。加えて、生活のパートナーとしてというもう一段階高いレベルの関係、すなわち ”取引 “ではなく ”エンゲージメント “という関係でないと、自らの行動やそこに付随する思いを安心して打ち明けることはできない。つまり、たとえどんなに高度なビジネスモデルで利便性の高いサービスを提供できても、「都合のいいときにあればいい」から「常に寄り添っていてほしい」とのポジションを獲得できなければ、「生活密着」ステージの競争に勝ち残れないのである。

●アマゾン・プライムにみるエンゲージメントの脅威

 アマゾンのプライム会員が急速に増加している。配送スピードが速くなり、配送料が無料になるといった特典からスタートしたサービスであるが、インパクトの大きな無料のサービスを矢継ぎ早に打ち出し、それがさらに会員増につながるという好循環を生んでいる。米国では、この数年プライム会員数が毎年5割増で増え続け、最近では世帯数の3割から4割超に達しているという推計もあり、目標の5割に近づきつつある。

 アマゾンはプライム会員制によって、有利な配送条件、映画や電子書籍見放題など、単に ”お得感 “によるロイヤルティを高めるだけでなく、生活のあらゆるところで消費者とのコンタクトポイントを最大化する(あらゆるところにアマゾンが現われる)方策を模索し、実現しようとしているのではないか。サービスの中には採算が合わないものもあるといわれるが、これもプライム会員の魅力を上げながら、同時により強固なエンゲージメントを結ぶことを狙っているではないか。

 実際に、米国世論調査会社のブランドイメージ調査の2017年版のランキングでは2年連続でアマゾンが首位となっており、また日本におけるブランドジャパンの調査でも、アマゾンが初の首位となり、プライムナウをはじめとする会員向けのサービスの進化がランキングに如実に現れたとされている。

 アマゾンは「生活密着」ステージにおいてプライムサービスを軸に、着々と会員とエンゲージメントを構築することによってゲームを有利に進めながら覇権を狙っているのではないか。

●消費財流通プレイヤーにとっての今後の展望

 eコマースにおけるビジネスモデルの高度化は、新しく繰り出される個々のサービスにばかり焦点が当てられ、それを個別に研究し対抗軸を打ち出すという形で競争が進められてきた側面が強い。これが、一部のネットプレイヤーからばかり新サービスが繰り広げられ、既存のプレイヤーがフォロワーの戦略で追随するという構図から脱却できない理由でもある。しかしながら、競争から争奪の段階に突入した時代においては、これらの個別機能的なサービスの追随競争には限界がある。

 eコマースは、消費者の需要喚起・需要認識・情報収集・注文・受け取りといった一連の購買プロセスを一気通貫でサービスを提供するビジネスモデルがほとんどであるため、これから品揃えやサービス面で圧倒的であるアマゾンや楽天といったメガプレイヤーに、これから「顧客直結」競争に勝つことはきわめて難しいといえる。

 しかしながら、「生活密着」ステージにおいては、アマゾン以外の消費財流通プレイヤーにとっても今まで完全にブラックボックスであった家の中に入り込むチャンスの到来といえる。また、消費者とエンゲージメントを結ぶプレイヤーと、実際に商品やサービスを提供するプレイヤーとが分化していくことも十分考えられる。格安スマホにおけるキャリアとMVNO事業者の関係のように、消費者とエンゲージメントを結んだプレイヤーが、マーチャンダイジングやフルフィルメントについてはメガプレイヤーの機能を活用しながらサービスを提供するという構図も十分考えられるのではないか。

 つまり、アマゾンの脅威にどのように対抗していくのかがメインテーマであったが、これからはそのチャネルやフルフィルメントをどう活かすかに変わっていくのである。

 こうなると、安心感や信頼感をベースにすでに生活に密着して家の中に入り込んでいる業界や事業者に優位性が出てくる。すでに家の中でそのポジションを占めている、電力・ガスといったエネルギー系や、通信系などである。「生活密着」ステージを見据えて、アマゾンや楽天を戦略的なアライアンスの枠組みの中で活用し、既に強みである ”エンゲージメント “に集中していく方が戦略として正しいかもしれない。競争の軸が、顧客直結=「軒先を制する者がビジネスを制する」から、生活密着=「家の中を制する者がビジネスを制する」にシフトしていく流れを先駆けて捉える、しかるべきタイミングで訪れるであろう市場の成長期に向けて今からイノベーションのイニシアティヴをとるといった大胆な発想も求められる。

 消費財流通ビジネスはeコマースの出現とその高度化によって大きく様変わりしてきた。今実現されていることの多くが、かつては ”難しい “”非現実的だ “といわれてきたことであることに鑑みれば、5年後10年後は現時点で想像できない世界になっていてもおかしくない。ますます予測が難しくなる事業環境において生き残り、そして勝ち抜くためには自らが未来を作っていくことしかないのではないだろうか。

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