NTT DATA Global IT Innovator
NTTデータ経営研究所
English  お問い合わせ  サイトマップ

戻る サイト内検索
戻る

『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.53(2017年1月号)

特集:ヘルスケアの未来 ~再生医療と次世代の健康・医療・介護~

医療介護連携に関する7つの誤解と1つの処方箋

繁本 将憲
繁本 将憲
NTTデータ経営研究所 法人戦略コンサルティング部門 情報戦略コンサルティングユニット ビジネスソリューション コンサルティンググループ シニアマネージャー

しげもと まさのり
SIer、外資戦略ファームを経てNTTデータ経営研究所に参画。技術の出口探し、R&D組織改革や知財戦略など、技術と事業を結びつけるコンサルティングに強み。近年は特に、個々の事業開発にとどまらない企業全体の変革に向けたコンサルティングに注力。

医療介護連携の目的

 高齢化問題に関しては誰もが知るところとなったが、その影響は様々な見方がある。今回のテーマである医療介護連携が必要とされる背景は、高齢化の直接的な影響である病床数不足によるものである。
 地域ごとにどの程度の病床が必要かという計算はマクロ的に行うことができる。その計算によると、高齢者数がピークとなる2025年には、地域によって違いはあるものの療養病床の不足が特に顕著となることが明らかになっている。厚生労働省は長期的に病床の機能分化と転換を進めてきたが、それでも十分な療養病床は確保できていない。ということは、本来療養病床に入院すべき患者さん、すなわち長期的に医療サービスを受けなければならない患者さんが入院できず在宅生活を送らなければならないということであり、その結果としてさらに病状が悪化したり、家族が疲弊して介護離職を余儀なくされたりといった事態がこれから更に増えていくことが予想される。
 そうならないように、たとえ在宅生活を送っていても医療・介護が互いに連携し地域全体をバーチャルな病棟のようにしよう、というのが医療介護連携の目的である。

医療介護連携の現状

 物理的に離れた場所にいる医療・介護職が連携をする上でICTは不可欠な要素である。しかしこのICTの導入・活用がうまくいっていない地域が非常に多い。そういった地域の行政、医師会等の担当者から話を伺うと「ICTを地域で導入したが利用する人がいない」「利用しても効果が出ない」「負担ばかりで継続した活動にならない」などの声が共通して聞こえてくる。
 お金のかかるICTを導入して使われないというのは社会の無駄であるし、何より連携がスムーズに進まないのはその地域で暮らす患者さんやその家族にとって不幸なことである。冒頭のとおり、入院したくてもできない時代に我々はもう突入しているのである。
 では何故うまくいかないのだろうか。その原因を考察したい。

医療介護連携ICTに関する7つの誤解

 うまくいかないというのはどういう状態だろうか。1つの分かりやすい例を示したい。図1は架空の2つの地域で医療介護連携ICTに登録している職種の割合を示したものである。A地域は約半数が介護系(ケアマネージャー、訪問・通所介護)となっている。医療介護連携を進めようと思えば、本来このような割合になるはずだ。一方でB地域は「医療介護連携」という名目であるが医療・看護が9割近くを占めており介護系がほとんど参加していない。これでは日常の情報を吸い上げることはできず、医療介護連携の目的は果たせないだろう。人数だけが問題ではないが、B地域のような割合では連携が活性化されていないことは明らかだろう。
 筆者はこれまで各地域で医療介護連携の推進支援を行ってきた中から、ICTによる連携がうまくいかない原因として、ICT、進め方、使い方について合わせて7つの誤解があると感じている。この誤解と原因について以下共有したい。

図1:2地域における医療介護連携に参加した職種の割合

図1:2地域における医療介護連携に参加した職種の割合

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

ICTに関する3つの誤解
  1. ①ICTを入れれば連携は進む。
  2. ②ICTはシンプルなSNSが良い。
  3. ③医療連携システムの拡張で対応できる。

 まずはICTそのものに関する誤解がある。ここで挙げた3つの誤解で共通して言えることは、医療と介護の言語の違いという要素を無視していることである。医療職同士の会話は多くの介護職には理解困難であるし、介護職の中で重要な会話が医療職にとって意味の無い話であることも多い。ただICTで繋ぐだけで効果的な連携が可能になるというのはICTに対する過剰な期待と言っていいだろう。
 次のような具体例がある。SNSで医師、看護師、ケアマネ、訪問介護が繋がっていたが、訪問介護からの入力のほとんどが「鍵はいつものところに置いておいた」「いつものお皿が割れたので割れ物として捨ててきた。そのために時間を何分使った」など、介護職同士の連絡事項やケアマネへの報告が多くを占めるようになってしまった。それがサービスのたびに長々と書かれるため、読むのが嫌になった医師がICTの利用を止めてしまった。別の例として、医療連携(病診連携)システムの利用をケアマネなど介護職にも拡張しようとしたある自治体では、ケアマネから「検査データを流されても介護側はどうしようもない」という反対の声があがった。医療従事者同士であればその検査データが何を意味するのかがすぐに理解できるだろうが、介護側はそれを見ても日々の行動で何をすればいいのか分からないことがほとんどだろう。
 SNSや検査データ共有のようなシンプルな仕組みで連携するには、そこに参加する多職種が同じ目標を持ち互いを理解しながらコミュニケーションできる場合に限る。医療介護連携ICTは、医療と介護の言語の違いを吸収するための仕組みが何らかの形で具備されなければならない。

進め方に関する2つの誤解
  1. ④医療側にメリットがない/介護側にメリットがない。
  2. ⑤他の地域の成功事例をそのまま取り込めばいい。

 次に地域ごとに医療介護連携の検討を始める段階での誤解がある。
④に関しては医療・介護の両方から「自分たちにメリットがない」という意見を聞いたことがある。医療側からは「介護は医療と連携して安心したいだろうが、医療には何のメリットがあるのか」という意見が出ることがある。しかし冒頭の話のとおり、今後は地域をバーチャル病棟化していかなければならない時代である。病棟の中で、日々患者に接している看護・介護と連携できなければ、医療側もその役目を果たすことは難しいだろう。ICTで連携しなくても介護・看護から医療への情報はあがってくるので不要である、という意見もある。確かに看護から医師への報告義務はあるし、何かあったときにはケアマネ、看護を経由して医師にも情報が届くだろうが、それは本当に必要十分な情報がタイムリーに届いているだろうか。筆者らが支援している連携の中で、大半の医師が患者の病状悪化の兆候をつかむなど新しい発見があったと言っている。

 一方で介護側、特に直接介護職からも同様に、自分たちのメリットがないという声が出やすい。介護の現場と経営者とでは意見も違ってくるが、現場の介護職からすると、「言われたとおりにケアをしているし定期的な報告もしているので連携など余計な仕事である」という意見が出ることはやむを得ない部分もある。だが介護事業所の経営者にとってはどうだろうか。介護の仕事はこれから身体介護と生活介護に分かれていき、身体介護ができる介護職を確保・育成できなければ経営はどんどん苦しくなっていく。適切なICTを使うことが前提だが、医療介護連携によって介護職が医療職と接することは介護職の質の向上に繋がるため、介護の経営者にとっては大きなメリットと言えるだろう。
 また⑤に関しては、地域包括ケアについて厚生労働省が説明している資料を改めて見ていただければ、「地域ごとのPDCA」という言葉が頻繁に使われていることが分かるだろう。医療介護連携は地域包括ケアの1要素であり、PDCAを回しながら作っていかなければならない。地域にどれだけの医療・介護資源があるのか、どのような疾患が多いのか、介護職を取りまとめられる人は誰か、顔が見える関係はどこまでできているのか、など、地域ごとの違いを考慮しながら進めていく必要があり、他地域の成功を待っていては到底間に合わない。今すぐにでも各地域で検討を始めなければならない。

使い方に関する2つの誤解
  1. ⑥二重入力を避けるためにレセプトや日報と自動連携したい。
  2. ⑦患者全員を対象に使いたい。

 適切なICTを地域特性にあわせて導入したとしても、正しく使われなければ意味がない。⑥の二重入力に関しては「ICTに関する誤解」で触れたことと関連するが、他の職種との連携で使う情報と各職種がそれぞれの業務で使う情報とは異なる。レセプトや日報の情報の多くは「患者さんに何をしたか」であり連携すべき情報は「患者さんに何がおきていて、他の職種に何をしてもらいたいか」である。この2つは日記と手紙ぐらい意味が異なるものである。「日記を書いているから、手紙は日記から自動生成してほしい」と思う人はいないだろう。
 最後の⑦に関しては、①~③のICT、④のメリットとも関係する話である。医療介護連携という話をすると、「要介護、訪問診療の患者さん全員を対象にしたら連携の負担が大きすぎる」などの発言が多いが、これは目的を間違えていると言わざるを得ない。医療介護連携は、患者に関わる多職種が共通の目標を持ち、問題解決型でコミュニケーションをとらなければ決して効果は得られない。対象とするべき患者については、要介護や訪問診療の対象になっているかどうかではなく、「連携しなければ悪化する」「連携することで改善できそう」という視点で患者を選ぶべきである。

図2:医療介護連携を成功させる要素

図2:医療介護連携を成功させる要素

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

ただ一つの処方箋

 ここまでで医療介護連携の失敗原因である誤解について説明してきたが、大切なのは「成功させるために何が必要か」である。必要な要素は3つ、「医療介護の言語の壁を解消するICT」「顔の見える関係」「地域ごとのリーダーシップとコンサルティング」である。(図2)
 ICTについては先ほどの裏返しになるが、医療と介護が同じ目標を意識しながら、誤解のないようにやり取りする仕組みが何よりも重要である。その上で「顔の見える関係」があって初めて効果を生むベースができる。中にはICTが「顔の見える関係」を代替してくれると思う人もいるようだが、ICTは関係性を作るきっかけにはなるが代替することは決してない。
 最後の「リーダーシップとコンサルティング」に関しては、全国の動きを学びながら地域の特性に合わせた仕組みを作り、さらにその仕組みの中で医療介護に従事する専門職に対するアドバイスを行うなど多くの役割を担うことになる。この役割は誰かが単独で行えるものではない。自治体、医師会の他、企業・団体が連携して取り組んでいくことが重要である。当社も地域包括ケアの支援という形で様々な自治体、医師会に対してコンサルティングを行っており、その支援ができればと考えている。

おわりに

 異なる職種の連携は、医療介護連携が注目されるよりずっと前からビジネスの世界で課題になっていた。メーカーと小売業、研究開発職と営業職など連携して効果を生んできた事例も失敗した事例も数多くノウハウとして蓄積されている。このノウハウを医療介護連携の推進のために通じて体系化・実践していくことが、ビジネスの世界で経験を積んできた我々の役割である。