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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.51(2016年7月号)

特集:新たな一億総活躍のかたち

テレワークが牽引する働き方改革
~全員参加型社会へのシナリオ~

小豆川 裕子
小豆川 裕子
NTTデータ経営研究所 社会システムコンサルティング部門 社会システムデザインユニット 上席研究員

しょうずがわ ゆうこ
金融系、ITサービス企業のシンクタンク等を経て現職。テレワークをはじめとするワークスタイル&ワークプレイスの調査研究・コンサルティング業務等に従事。博士(学術)。日本テレワーク学会副会長、テレワーク月間実行委員会副委員長、一般社団法人日本テレワーク協会アドバイザー、内閣府、総務省、国土交通省委員(2015年度)。

多くの企業で「働き方改革」への挑戦がはじまっている。その有力な手段の1つがテレワーク。ICTを活用し、どこでも、いつでも仕事ができる環境整備は、個人の仕事・生活の充実と企業(組織)の持続的な成長を実現する。そんな価値共有が民間企業のみならず中央官庁・自治体にまで拡がっている。
本稿では、「働き方改革」の意義を確認した上で、テレワークの普及・拡大による全員参加型社会へのシナリオを描き、「就労継続」「活躍支援」への実効策としての期待、さらに「働く、が変わる」、働き方改革の強化月間として11月を制定して取り組む、「テレワーク月間」について紹介を行う。

1 何のために「働き方改革」を行うのか

 本年6月2日に発表された『日本再興戦略2016 ―第4次産業革命に向けて―※1』は、人口減少や世界経済の不透明感が高まるなか、GDP600兆円の達成のための新たな使命として、3つの課題①新たな「有望成長市場」の戦略的創出、②人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する「生産性革命」、③新たな産業構造を支える「人材強化」に向けての更なる改革を提示している。  このうち、③においては「成長制約打破のための雇用環境整備、多様な働き手の参画」を掲げ、「働き方改革」は生産性向上に対して貢献できると説く。そして鍵となる施策に①長時間労働の是正に向けた取組強化と②女性の活躍推進と高齢者の活躍推進がある。
 弊社がNTTコムリサーチと共同で実施した調査「働き方変革2016」によると、働き方変革に取り組む企業は3割を超え(32・1%)、前年調査(22・2%)より約1割増加している※2。では、何のために「働き方改革」を行うのか。現在、働き方改革を推進する企業の経営層には以下の3つの課題意識がある。

  1. 1「イノベーションの創出」

     グローバル化の推進に伴い、多様なバックグラウンドを持つ従業員の価値観や思考を事業の根幹に取り込む「ダイバーシティ経営」を推進し、事業発展のためにイノべーションを創出したい。そのためには、一人一人がパフォーマンスを最大限に発揮してもらうための環境づくり、「働き方改革」が重要である。

  2. 2「生産性の向上」

     労働力人口の減少とともに、確実に到来する労務構成の変化(若年層の減少、組織の高齢化)を見据え、在籍する一人一人の従業員の生産性を向上させ、長く働き続けてもらう柔軟なワークスタイルを実践して総戦力化に着手する。あわせて現在非労働力化している女性、高齢者などを労働力化することが喫緊の課題である。

  3. 3「BCP(事業継続計画)」

     地震、台風などの自然災害、インフルエンザやパンデミックなど、有事の際にBCP(事業継続計画)を速やかに実行に移すためには、平時よりICTを徹底して活用し、どこでも、いつでも働ける環境整備が必要である。
     その課題解決に向けた経営戦略の一つとして「働き方改革」が位置づけられる。

2 持続可能な全員参加型社会へのシナリオ

 テレワークをはじめとする「働き方改革」の普及・拡大にあたっては、大きく(1)「組織風土の革新」(2)「業務プロセスの革新」(3)「労務管理制度・ルールの整備」、そして、それを支える(4)「情報通信環境の整備」の4つの要素が重要である。筆者はその実践を通じて個人の持続的な成長(個人の豊かな人生の実現)と組織の持続的な成長(企業の競争力の確保・発展)が相乗効果をもたらしながら全員参加型経営、ひいては「持続可能な全員参加型社会」が実現できると考える(図1)。

図1:持続可能な全員参加型社会へのシナリオ

図1:持続可能な全員参加型社会へのシナリオ

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

  1. (1)「組織風土の革新」

     「ダイバーシティ経営」「働き方改革」の鍵は、トップのビジョンづくりと管理職層の意識改革である。管理職層の意識が変わり行動に移すことで、一般社員の自律性・主体性が根づき、あわせて性別や国籍等に関わらないチームづくりが可能となる。一方、就労継続に影響を与える様々なライフイベントに遭遇する職場のメンバに対しては、個別の状況を理解し、他者配慮・相互支援の組織風土を醸成することが重要である。

  2. (2)「業務プロセスの革新」

     日々、多層化・多重化するプロジェクトにおいて、オフィス勤務者とオフィスから離れたところでの勤務者がチームワークを成功させるためには、無駄な業務プロセスの削減や短縮を行い、効率化を図っていくことが重要である。あわせて業務の可視化、知識・情報の共有を行うことが求められる。

  3. (3)労務管理制度・ルールの整備

     オフィスから離れた勤務者がオフィス勤務者と比べて不公平にならないよう、目の前にいない部下の勤怠を適正に管理するとともに、働きすぎを防止することも重要である。また、適正な人事評価・業績評価の制度・ルールの整備を行うことで、管理職層も部下も安心して、仕事を行うことができる。

  4. (4)情報通信環境の整備

     今日、(1)(2)(3)を強力に支援するのが情報通信環境である。
     テレワーク環境(リモートアクセス方式)には、リモートデスクトップ方式、仮想デスクトップ方式、クラウド型アプリ方式、会社PCの持ち帰り方式などがある。
     コミュニケーションツールには、Eメール、電話関連システム、チャット(インスタントメッセンジャー)、TV会議システム、Web会議ツールやグループウエア等情報共有ツールがある。
     管理ツールとしては、勤怠管理ツール、在席管理(プレゼンス管理)ツール、業務管理(プロジェクト管理)ツールがある。
     これらを、自社にあったソリューションで構成する。
     4つの要素を整備することによって、企業に対しては「コスト削減」「貴重な人的資源の確保・離職防止」「生産性の向上」「イノベーションの創出」に効果をもたらし、これらを通じて組織の持続的な成長(組織の競争力の確保・発展)を実現する。
     個人に対しては、「過剰労働の抑止・健康維持・向上」「地方創生、地域社会との連携が強化」「自己啓発の時間が増える」「育児・介護期だけでなくライフステージの様々な変化も対応できる」等が期待でき、これらを通じて「個人の持続的な成長(個人の豊かな人生の実現)」につながっていくものと考える。

3 テレワークは「就労継続」「活躍支援」の実効策

 「働き方改革」は男女を問わず、多くの参加者で取り組むことが重要である。
 日本の労働政策はこれまで労働者保護の観点と長期的な就労継続への期待から、育児・介護休業制度、看護休業制度など、結果的に女性労働者が取得することになる「休む支援策」に取り組んできた。しかしながら、未だ約6割の女性が出産・育児により退職、出産後の継続就業率は38・0%に留まるという状況から抜け出せていない※3。両立できない理由としては「勤務時間の問題」「両立支援の雰囲気のなさ」が上位にあがり、共働き家族の多くは、男性ではなく女性が離職を余儀なくされる。また、管理職に占める女性の割合は先進国のなかで韓国と並んで極端に低い。その要因としては、離職による知識・経験不足や在職年数要件の不足、さらに「女性が希望しない」という女性側の意識の未成熟もあげられる。
 一方、高齢社会を迎え、介護理由による離職者は16万人※4に及ぶという。年代では40~50代、企業における男性の管理職層でも介護問題を抱えている人は少なからず存在する。この年代で離職した場合、長期に渡る経済的な困難や再就職の難しさなど、その後の人生に多大な影響を与えることとなる。
 弊社が担当した総務省委託「平成27年度総務省テレワークモデル実証事業」では、テレワークによる育児・介護等の就労継続への効果の認識を尋ねている。※5「育児休職からの早期復帰」および「短時間勤務制度等特別勤務制度からフルタイム勤務への早期復帰」について、テレワークが「早期復帰に役立つと思う」と回答した割合は、テレワーク推進担当者、テレワーク実施者、上司、同僚、それぞれ6割以上を占めた。一方、「介護離職の回避に対する効果」に対して、「離職の回避に役立つと思う」と回答した割合はこれを上回り、それぞれ7割以上を占める結果であった。
 組織の様々な層で、働き続ける支援策としてのテレワークの価値が共有されつつあることがうかがえる。
 我々は、職業人生のなかで、就労継続に影響を与えるようなさまざまなライフイベントに遭遇する。出産・育児、配偶者の転勤、老親・配偶者の介護等々。男女を問わず就労を継続し、活躍をサポートできるような制度・環境づくりが求められる。

4 『テレワーク月間 ー働く、が変わる』
産官学連携のテレワーク普及推進の国民的運動

 働き方改革への関心が高まるなか、2015年より、産官学で構成するテレワーク推進フォーラム※6の主唱により、11月がテレワーク月間として制定された(図2)※7・8
テレワーク月間では「働く、が変わる」を掲げてロゴマークを作成した(図3)。国民一人一人が未来につながる働き方の一つであるテレワークについて考え、参加する社会的な運動の強化期間として位置づけている。公式サイトでは幅広く知ってもらうため、手持ちの写真や名刺にロゴを組み込んだりSNSやシールなど利用できるよう、ロゴ・ジェネレータ機能も搭載している。  公式サイトでは、テレワーク月間に賛同する企業・団体の取組みを①試みる、実践する、②学ぶ、議論する、③応援する、協力する、の3つのカテゴリに分類して、登録を呼びかけ、活動の主体や活動の内容の見える化を行っている。

図2:テレワーク月間の公式サイト

図2:テレワーク月間の公式サイト

出所:http://teleworkgekkan.org/

図3:テレワーク月間のロゴマーク

図3:テレワーク月間のロゴマーク

  1. ①「試みる、実践する」

     テレワーク強化月間として、普段以上の頻度でテレワークを行い、その結果をレビューするような取組みで、多くの企業・自治体で登録が行われた。

  2. ②「学ぶ、議論する」

     勉強会・研究会、シンポジウムやセミナーなどを企画し、組織や地域でテレワークについての理解を深めたり、ディスカッションを行ったりする取組みである。

  3. ③「応援する、協力する」

     2015年にはテレワークに関わる厚生労働省や日本テレワーク協会の表彰制度、厚生労働省のテレワーク実施のためのコンサルティング支援事業や職場環境改善助成金(テレワークコース)、民間が実施するテレワーク推進による地域活性化などが登録された。

 2016年、テレワーク月間活動は2年目となる。テレワークに関わる各種表彰や、普及啓発のための動画の公開※9もあり、テレワークを見て、実践し、実感する年として多様な取組みが拡がっていくだろう。さらに今後は、個人ベースでも「遠隔介護をしている従業員が金曜日と月曜日を実家でテレワークを実践し、介護を充実させながら仕事が継続できた」「地方の自宅を離れて東京に単身赴任する従業員が金曜日と月曜日に自宅でテレワークを行い、家族と楽しく過ごし、絆を深めることができた」「共働き夫婦がそれぞれの企業のテレワーク制度を利用して、週1日ずつテレワーク(在宅勤務)を実践し、仕事と育児・家事が楽しくなり、仕事も生産性が上がった」「生活習慣病等を保有する従業員が、訪れた温泉地に設置されたサテライトオフィスでテレワークを行い、治療をしながら仕事ができた」などさまざまな好事例が上がり、一人一人が活躍の場が拡がっていくことに期待したい。

  1. ※1「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(2016年6月2日閣議決定)
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_hombun1.pdf
  2. ※2「 働き方変革2016」弊社ニュースリリース(2016.0520)
    http://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/160520/supplementing01.html
  3. ※3(出典)国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」
  4. ※4総務省「労働力調査」2014
  5. ※5総務省「平成27年度テレワークモデル実証事業」における後半Webアンケート調査結果による。
  6. ※6テレワーク推進フォーラムは、テレワーク関係4省(総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省)の呼びかけにより設立され、産学官協働でテレワークの円滑な導入に資する調査研究や普及等の活動を行うことにより、テレワークの一層の普及促進を図ることを目的としている。
  7. ※7テレワーク月間の公式サイトhttp://teleworkgekkan.org/
  8. ※8一般社団法人日本テレワーク協会編『テレワークで働き方が変わる』テレワーク白書2016、インプレスR&D
  9. ※9総務省「働く、が変わる。TeleWork」テレワーク普及啓発動画https://www.youtube.com/watch?v=DZZFDvVD-0E&noredirect=1