NTT DATA Global IT Innovator
NTTデータ経営研究所
English  お問い合わせ  サイトマップ
戻る サイト内検索
戻る

『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.51(2016年7月号)

特集:新たな一億総活躍のかたち

シェアリングエコノミーがもたらす政策課題(EUに学ぶ)

上瀬 剛
上瀬 剛
NTTデータ経営研究所 社会システムコンサルティング部門 社会システムデザインユニット長 パートナー

かみせ たけし
郵政省(当時)、外資系コンサルティングファームを経て現在に至る。専門は、IT政策、電子政府等の公共分野から、新規事業立案支援、アウトソーシング、情報システム構築に係る企業間取引、IT人材育成まで多岐にわたる。特に公共分野については、民間経営と行政の基幹となる法律等制度との接点に係るコンサルティングを多数手がける。

1 はじめに

 シェアリングエコノミーは、UberやAirbnb等、P2Pで行政が介入せずに、宿泊、タクシー配車等を中心に市場の裾野が広がってきているところだが、政府、行政機関としての政策課題としての認識といった点ではまたまだこれからといったところである。
 ただし、民泊という言葉が一定の市民権を得て利用者数が広がるに伴い、日本においても制度面、社会政策、経済政策面等で今後は行政にとって軽視できなくなることが予想される一方、世界的に見てもEUをはじめ、政策課題として技術、社会福祉から経済政策面まで多様なアプローチからの分析と今後の政策への示唆出しという点で進んだ国、地域も出現している。
 おりしも、EU議会のシンクタンク部門で本年1月にこうしたシェアリングエコノミーの行政、政策面での対応に関するレポートが取りまとめられた。同レポートである"The Cost of Non-Europe in the Sharing economy"(2016年1月)※1での課題認識、検討内容をひも解きつつ、今後の日本の政府あるいは地方公共団体レベルでの対応に関する考察を行うこととしたい。

  1. (1)定義

     本レポートでは、シェアリングエコノミーに関する一般的な定義をスタート台としつつ、公共政策面での示唆についての言及を付加的に考慮している。ここでの定義としては、シェアリングエコノミーが共有対象とするリソースは、人的資源から物理的資源等多岐にわたり、プロセス面でも生産、流通、取引、消費にいたる(人あるいは組織の)様々な活動を対象としている。その結果、シェアリング形態をとるビジネスモデルは交換(swapping)、共同購入、共同消費、共同所有、交換、レンタルその他非常に多様であり、また個々の取引、経済行為のみならず、集合体としての経済活動まで含めており、ファイナンスの一形態であるマイクロファイナンスもその一種とされる。ただし、従来のアカデミックな世界では十分な定義をできていないようである。

  2. (2)効果

     シェアリングエコノミーの効果としては、従来の所有等に伴う資源の過少利用の状態がレンタル等によって改善されるとともに、結果的に取引コストの削減やより多くの人に対する成果の共有可能性等がメリットとしてもたらされる。

  3. (3)対象となる財、資源

     シェアリングエコノミーが適用される代表的な財、資源については以下のようなものとされている。

    • 宿泊、収容施設
    • 輸送
    • 消費財
    • 労働、人的資源
    • 知的財産

     これらのうち、目に見える宿泊や輸送については、これまでもある程度存在が幅広く知られていたが、労働・人的資源の取引、知的財産等については、対象としての裾野が広い一方で、プレーヤーの特定や取引関係の可視化は必ずしも容易ではない。特に規模が大きくなってきたときには、課税や既存の法制度との整合性といった点での課題が生じる。

  4. (4)政策面での波及

     シェアリングエコノミーについては、以下のとおり市場の活性化という経済的観点以外にも様々な政策的なアプローチが必要であるとの見解にたっている。

    • 技術イノベーション
    • 経済活動、ビジネスモデルの高度化
    • 社会、都市政策
    • マクロ経済上の波及効果
    • (雇用、社会福祉等)社会保障上の波及
    • 環境保護

 EU加盟国では、大きくは、上記を取り込んだかたちでシェアリングエコノミーに前向きに取り組む国もあれば、どちらかというと禁止的、抑止的な制度措置を取る方向の国もある。現時点ではどちらが正しいというものではなく、(分野、業種等での)シェアリングエコノミーの展開を見定めたうえでのベストミックスでのアプローチとなるのではないかというのが同レポートの見解となっている。

2 今後のシェアリングエコノミーの進展と課題

  1. (1)今後への観測

     シェアリングエコノミーに対する定義、対象等を踏まえた上で、EUの社会、経済等にどのようなインパクトがもたされるかについて整理している。

    • シェアリングエコノミーの本質は範囲、規模の成長に伴い変化しつづける。特に注目すべき点として、従来のP2P型(個人対個人)での成長は、(経済全体に占める)シェアが25%前後に達した時点で頭打ちとなり、その後プラットフォーム全体を事業者の出現に伴いB2Cモデルに変化するという観測である
    • 消費者は、サービス価格の低下と品質の向上という恩恵を受ける。市民個人向けのカスタマイゼーション(マス・カスタマイゼーション)が実現する
    • シェアリングエコノミーへの新規参入機会の創出により、個人事業主にとっては新たなビジネス機会が創出される。ただし、従来の雇用型のような(福利厚生も含めた)恩恵がもたらされるわけではなく、P2P型(インターネットオークション等含め)で自立できるプレーヤーはごく一部に限定される
    • 従来型プレーヤーとシェアリング上でのプレーヤー間でのサービス市場での競争が激化するが、土地や道路といった限定的な資源上に関するビジネスへの影響は限定的にとどまる
    • 製品の取引、流通がより小口化、付加価値基準へとシフトしていくことにより、特に小口の発注や製造に対応できない業種、企業においては、生産能力過剰化リスクが高まる
    • 社会の不平等化との関係については両論あるが、シェアリングエコノミーにより、財へのアクセス可能性が増えれば、格差解消につながる可能性がある。そして、(流通等の小口化の進展により)資源の過少利用状態の解消が実現すれば、5720億ユーロもの経済効果があるとしている
  2. (2)解決すべき課題

     シェアリングエコノミーが社会に対してもたらすプラスの面に加えて、シェアリングエコノミーがつきつける課題についても明らかにしている。

    • デジタルでの利用、アクセス環境の普及が前提となり、スマートフォンの普及率が90%を上回った時に、デジタル環境が阻害要因でなくなるとしている。なお、90%の普及率はEUの主要国では早ければ2018年までに実現可能な数値としている
    • シェアリングエコノミーが効果を発揮するのは主に(人が集積する)都市部であり、いわゆる過疎、中山間地域でのシェアリングエコノミーの効果発揮については解決すべき課題があるとしている。また、(無形サービスや軽いものと比べて)重い消費財のシェアリングは難しく、モノ・サービスによって適不適がある
    • 「所有指向」がレンタル、シェアリング等の普及の支障となるケース (例:自動車、不動産)や、たとえば医療サービスのような、「必要なときに必ず手に入らないといけない」財、サービスについては、(必要なときに必ず入手可能となる)環境、基盤づくりが必要となる(例えば、緊急時向けのサービスプロバイダーが(他が利用中であっても)必ずいざというときに利用可能なできる環境が整備されている等)。
    • 労働市場のミスマッチがシェアリングエコノミーの支障となるケースがある。日本に置き換えると、保育園や介護の現場で指摘されるような賃金、労働需給等でのミスマッチがボトルネックとなる可能性がある
    • 「信頼の連鎖」の構築が必要である。すなわち、モノ・サービスを小口でレンタル、購入しようといった場合に、当該サービスが所定の価格で確実に提供されることについての信用と、安心して提供される環境・インフラが必要となる。今後はこうしたプラットフォームがどのようにして構築されるかがカギとなり、信用できる保険機能、スコアリング等のプラットフォーム機能の整備と普及が不可欠となる
    • 取引に伴って発生する所得の適切な把握に基づく課税に向けた基盤構築が税制上は必要となる。一方で、ボーダレス化する国際経済の下で、例えば米国、アジア等との競争環境も踏まえつつ、経済政策と課税対策のバランスをどうするかという問題に直面する(図1)

    図1:シェアードエコノミーを支える基盤

    図1:シェアードエコノミーを支える基盤

    出所:NTTデータ経営研究所にて作成

     総じて、知財面をはじめ従来の規制、制度をシェアリングエコノミー上の事業者等に全面的に適用することは難しく、国境を越えた取引が前提となる中での制度の設立、運営主体、そして監視機関のあり方等新たな課題に直面する。EUの現行規制であるEU指令(E-Commerce Directive (2000/31/EC)、The Services Directive(2006/123/ec)、消費者保護に関する指令であるthe Directive on Consumer Rights (2011/83/EC)等はいずれもシェアリングエコノミーを前提としていない。

  3. (3)観光分野での制度対応例

     具体的にシェアリングエコノミーを政策面で活用しているEUの事例として、観光産業を紹介する※2
     スマートフォン、ソーシャルメディアの普及によって、P2Pで観光(宿泊、食事、観光地等)に関するコミュニケーションが加速し、口コミを経由して一つの観光振興の原動力となっている点は言うまでもないが、EUのいくつかの都市では、短期間の家の貸出しを規制する例が出てきている。たとえば

    • ベルリンでは、事前登録のない短期の住居貸出を禁止し、当局による立ち入り検査権限も付与されている
    • ブラッセルでは(集合住宅では)、ビルのオーナーやコミュニティーからの許可が必要になっている

     一方で、規制が緩やかな都市もあり、パリ、マルセイユ、リヨン等のフランスの都市では比較的規制は緩やかで、ロンドン、アムステルダムではシェアリングエコノミーの発展を損なわないゆるやかな制度を探っている。なお、EU委員会、EU議会ではシェアリングエコノミーに対して公式なスタンスは固めていない

  4. (4)プラットフォーム機能の充実に向けて

     こうしたシェアリングエコノミーが抱える課題に対して、EUとして(加盟国も含めて)講じていくべき対応策についてまとめている。これらの中にはICTのプラットフォームに関する言及もあり、今後どのような国家横断的なプロジェクトが進んでいくか、注目される。

    • 現在のe-Commerce Directiveを頂点とする法制度、規制の見直しが必要となる。すなわち、オフライン・オンラインでの制度(税制等)のギャップが残る場合、規制逃れとして、両者の間の不公正性が高まり、規制の差異が抜け道として悪用される可能性があるため、EU全体としての制度面での整合性の確保が必要となる
    • 税制面の整備に加えて、個人情報、ビッグデータ取扱等での整備が必要となるが、対応負荷がユーザ、事業者側にとって大きくなればシェアリングエコノミーの成長が損なわれるリスクが生じる。したがって、これらの規制、制度対応を効率的に(cost efficient)に進めることが課題となる
    • シェアリングエコノミーから排除された人、地域への対応が課題となる。(提供者、利用者に対する)スコアリング機能は、シェアリングエコノミーのプラットフォームに参加にあたっての必須要件となるが、例えば悪意で(外部から)低いスコアリング評価を受けた場合に参加が排除されるリスクがある。また、支配的(dominant)なプラットフォーム事業者が出てきた場合には、当該事業者の判断如何で疎外される地域、コミュニティ等が増えるリスクがある。例えばスコアが低いプレーヤーに対しての回復・救済措置、独占回避策(競争促進策)等が必要でないかとの見解が示されている
    • 雇用面では、プラットフォームの成長に伴って、プラットフォーム自身が一つの企業体として、従来は個人事業主として参加していた個人が被雇用者に近くなるのではないかという見方がある
  5. (5)今後の対応策

     こうしたシェアリングエコノミーが抱える課題に対して、EUとして(加盟国も含めて)講じていくべき対応策についてまとめられている。これらの中にはICTのプラットフォームに関する言及もあり、今後どのような国家横断的なプロジェクトが進んでいくか今後も注目されるところである。
     我々としても、今後こうしたシェアリングエコノミーが「現象」から「経済」へとどの時点、レベルで転じるのかを見定めたうえで、

    • 産業施策としてのあり方
    • 個人情報保護、税制等の法制度上のインフラ面から見た「フィットアンドギャップ」分析の実施
    • 「プラットフォーム」化を前提に、プレーヤー・競争環境・独占禁止等に関して全体としてどのようなスタンスで臨むか
    • そしてICT基盤をどこがどのような形で運営するか、またそこへの政府の役割は何か

    等が議論となってこよう。(図2)
     幸い、日本ではマイナンバー、番号カードの基盤の構築がされたところであり、公的個人認証については幅広い分野での利活用拡大も提唱されている。これらが単に「点」としての取組に終わらず、今回のシェアリングエコノミーに関するEUの取組を参考に、税や競争施策も含めた、面としての検討まで広がっていくことを期待したい。

図2:政府、自治体等の役割

図2:政府、自治体等の役割

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

  1. ※1 http://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2016/558777/EPRS_STU(2016)558777_EN.pdf
  2. ※2 http://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2015/568345/EPRS_BRI(2015)568345_EN.pdf