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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.51(2016年7月号)

特集:新たな一億総活躍のかたち

一億総活躍を促進させるシェアリングエコノミー
~地方自治体に期待されるシェアリング・シティ構想~

石上 渉
石上 渉
NTTデータ経営研究所 社会システムコンサルティング部門 ライフ・バリュー・クリエイションコンサルティングユニット マネージャー

いしがみ わたる
日系コンサルティング会社を経て現職。主に地域経済活性化と知的財産の戦略的活用をテーマに政策提言、調査研究、事業開発コンサルティングに従事。

杉崎(原田) 茉莉絵
杉崎(原田) 茉莉絵
NTTデータ経営研究所 社会システムコンサルティング部門 ライフ・バリュー・クリエイションコンサルティングユニット コンサルタント

すぎざき まりえ
国内農業機械大手メーカーを経て現職。地方自治体における子育て支援事業や地方創生案件に携わる。

シェアリングエコノミーにより期待される経済波及効果とQOLの向上

 「シェアリングエコノミー」とは、乗り物・場所・技術・サービスなどを多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みであり、供給者は遊休資産の活用による収入、需要者は所有することなく利用ができるというメリットがある。
 総務省「平成27年度版 情報通信白書」によるとシェアリングエコノミーの市場規模は、グローバル全体で2013年に約150億ドルの市場規模が2025年には約3350億ドル規模に成長する見込みであり、様々なシェアリングサービスが誕生している。(図1)
 世界的に急成長しているシェアリングエコノミーとしては、宿泊シェアリングの「Airbnb」が有名であるが、2015年11月、同社は同社サービスが日本にもたらした経済波及効果について、年額約2220億円、雇用に対する波及効果は約2・2万人とする調査結果を公表した。
 共同で調査を実施した早稲田大学根来教授によると、日本は現在、訪日外国人の増加などで宿泊施設が不足しているため、Airbnbは新たな宿泊施設の供給に貢献し、同サービスの経済波及効果は日本にとって ”真水 “の効果になると説明している。
 シェアリングエコノミーについては、既存事業が取り込んでいた需要を奪うといった見方もあるが、急激な訪日外国人の増加による宿泊施設、移動手段などのインフラ需要に ”既存事業者の供給が追いついていない地域でのサービス “に限っては、既存事業者が取り込んでいた需要を奪うことなく、新たな需要を創造し普及していくことが期待される。
 また、経済的な側面だけでなく、シェアリングエコノミーはICT技術を用いた現代的な手法で異なる分野の人たちの交流を促進し、失われたコミュニティを再生する側面もあり地域住民の生活の質(Quality of Life)を高めることが期待される。

図1:海外におけるシェアリングエコノミー型サービスの例

図1:海外におけるシェアリングエコノミー型サービスの例

出所:総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242110.html

ソウル市が取り組むシェアリング・シティ構想

 経済波及効果とQOL(Quality of Life)の向上が期待されるシェアリングエコノミーであるが、韓国のソウル市では世界で初めて大都市の政策として取り入れた。これを「シェアリング・シティ」と名付け、「シェアリング・シティ・ソウル推進計画」というプロジェクトを2012年に始動させている。
 ソウル市では、以下の3点のような取組みを積極的に推進している。

  1. ①シェアリングサービス提供者の起業や進出を支援

     起業や進出に係るコストの一部を補助するとともに、コンサルティングを実施。シェアリングサービスを新規で立ち上げる事業者に対し、事務所スペースの提供も行っている。

  2. ②シェアリングエコノミーに対する市民の認知度向上

     個々のシェアリングサービスの提供者(企業やNPO等)やサービスの内容やサービス提供者を調査・評価し、信頼に値するサービスを指定し、市民に紹介する。また、ソウル市内の中学校・高校においてシェアリングエコノミーに関する知見を深めるためサービス提供者による講演を実施する。

  3. ③シェアリング・シティとしてのソウル市をPR

     ①、②の取組み等を国内外にPRすることで、シェアリング・シティとしてのソウル市を認知させ、シェアリングエコノミーの起業や進出を促し新たな産業と雇用の創出を図る。

 ソウル市が実施するこれらの政策にはシェアリングエコノミー先進国からも注目されている。欧米諸国からの視察もあり、既にオランダのアムステルダムやイタリアのミラノもシェアリング・シティ宣言を行っている。
 ソウル市におけるこれらの取組みは、初期的段階でありながら、シェアリングサービスという新しい産業と雇用を創出し、ソウル市でも空いている土地や部屋をシェアするなどにより新たな財源確保に繋がっている。

国内における市場動向

 国内においても子育てシェア(子育てを地域で頼り合えるようになるために、支援したい人と地域の親子が出会うリアルな場づくりや、インターネットを活用した頼り合いの仕組み)といった子育てを支援し、女性の就労を促進させるようなサービスが展開され始めている。
 本年1月、奈良県生駒市では、子育てを応援する親子交流イベントの運営と、地域の顔見知り同士で登録して、1時間あたり500円~700円で子どもを預け合える「子育てシェア」の環境づくりを事業の柱とする株式会社AsMamaと「子育て支援の連携協力に関する協定」を締結した。
 今後、両者は子育て情報の発信、子育て支援事業や子育てシェア周知イベントの実施、子育て世代のコミュニティづくりなどにおいて協力し、取り組んでいくことになる。
 国内におけるシェアリングエコノミーの普及には様々な業法規制の緩和が必要となる場合が伴うものの、政府の動向について見ると、シェアリングエコノミーを意識した規制緩和を目指す動きもある。
 本年1月、東京都大田区では、一般住宅の空き部屋を宿泊施設として活用する「民泊」を認める条例を全国で初めて施行した。
 シェアリングエコノミーは、個人間での取引が中心となることから、事故やトラブル時の対応に漠然とした不安からサービスの利用に躊躇する人も少なくなく、信頼性の向上が課題となっているが、東京海上日動火災保険は本年7月から「シェアリングエコノミー」に対応した保険商品(事故が起きた場合の賠償額を補償)を販売する予定であり、今後、国内においても、シェアリングエコノミーの市場が成長する見込みである。

高齢者や女性の就業促進など社会課題を解決

 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、訪日外国人の増加に伴い民泊を中心とするシェアリングサービスの需要拡大が予想されるが、2020年以降はどうか。
 2030年には、日本国民の3人に1人が65歳以上に、20年後の2040年には、団塊ジュニアが高齢期を迎え1500万人の働き手が消える。
 2050年には日本の総人口が現在より約3100万人減少し約9500万人に、高齢化率は約40%となり、働く世代1・7人で1人のお年寄りを支えることになる。
 我が国をめぐる労働力人口減少問題を背景に、女性や高齢者等の就業促進は、日本社会が取り組むべき重要課題であるが、海外ではシェアリングエコノミーが結果的に高齢者や女性の就業促進など社会課題を解決した事例がある。
 PwC Japanの調べによると、米国では、人口の7%がサービス提供者(うち16%が65歳以上)と、多くの高齢者がシェアリングエコノミーを通じて働く機会を得ている。
 また、子育てシェアは、求職中の子育てママが子どもの送迎や託児子育てのプロである高齢者に依頼することが結果的に高齢者と子育てママの就業促進に繋がっている。
 さらに、シェアリングサービスは、インターネットやソーシャルメディアなどのICT技術を利活用していることから、特に地方に散見される「空き家の有効活用」、「移動交通手段の整備」や「省エネルギー・環境保全」等の課題を解決することが期待される。

https://www.pwc.com/sg/en/publications/assets/the-sharing-economy-jp.pdf

地方自治体における取組み

 今後、生駒市や大田区のように社会課題を解決する一つの手段として、シェアリングエコノミーに取り組む地方自治体は増えるのではないか。
 ソウル市などの先進的な事例を参考に、効果が上がるであろうと考えられる地方自治体の取組みについて考えてみたい。

  1. ①自自治体で効果が出やすいシェアリングサービスの内容を明らかにする。
    地域の地理的要因や産業構造、就労状況、企業の集積状況等により有効なシェアリングサービスが異なる。シェアリングエコノミーの普及拡大に向けては、地方自治体において地域課題を明らかにし、どのようなシェアリングサービスが有効なのか明確にすることが重要である。

  2. ②シェアリングエコノミーの起業や進出を支援する。シェアリングエコノミーを一民間企業の事業と捉えるのではなく、地域の産業活性化や雇用促進、生活者のQOL向上に向けた施策と捉え、当該事業者に足りないリソースを明らかにし、ヒト、技術、情報、カネを複合的に支援することが重要である。

  3. ③シェアリングエコノミーの有効性を周知・啓発する。特に地方においてはシェアリングエコノミーの地域住民における認知度は低く、シェアリングエコノミー提供者を招いたイベント等の開催により、サービスの内容や利便性を紹介し、シェアリングエコノミーの周知・啓発を図る必要がある。

  4. ④業法規制の適用を除外または緩和する。シェアリングサービスの内容によっては、旅館業法の民泊や道路運送法のライドシェアのように業法規制がなければ実現しないサービスも存在する。東京都大田区では、外国人旅行者の増加に対応するため、個人宅やマンションの空き部屋を宿泊施設として営業できるよう特例として認めるよう求め、民泊の解禁にこぎつけた。まずは、自自治体でニーズのありそうなサービスを展開する上でどのような業法規制が阻害要因となっており、規制の適用を除外または緩和した場合のリスクや代替措置を検討し、必要に応じて他自治体と連携しながら規制緩和に向け国に要望することが重要である。

  5. ⑤規制緩和が伴うシェアリングエコノミーの実証フィールドとして地域を開放し、国内外のシェアリングエコノミーサービス提供者を呼び込む。

まとめ

 知り合いとそうでない人の接し方に大きな差がある日本人の社会において、シェアリングエコノミーは馴染まないといった意見もあるが、地方自治体がシェアリングサービスの提供に参画することで、信頼性が向上しシェアリングサービスの利用は促進されるだろう。
 また、地域の課題を熟知する地方自治体がシェアリングサービスに企業と連携し取り組むことで、既存事業者の供給が追いついている地域においても、新たな需要を創造することは可能だと考える。