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2019年 不動産テック(PropTech)の行方

情報戦略本部
ビジネストランスフォーメーションユニット
シニアマネージャー 川戸 温志

黒船上陸、不正融資、民泊、団体設立と盛り上がった2018年

 黒船、日本上陸。Softbank Vision Fund(ソフトバンク ビジョン ファンド)が44億ドル(日本円にして約4,800億円)の巨額投資で世界を驚かせたWeWork(ウィワーク)の日本法人が2018年2月に日本初の拠点をオープンした。WeWorkは、主にスタートアップやベンチャー向けにコワーキングスペースの開発・運営を行っており、世界23ヶ国77都市で約27万人のメンバーが利用するコミュニティビジネスである。2018年は働き方改革の潮流を受け、シェアオフィス・コワーキングオフィスが活況であった。

 5月には不動産不正融資が発覚した。女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営する不動産会社スマートデイズが経営破たん。スマートデイズとスルガ銀行は、組織的に融資資料の改竄などを行うなどの不正融資を繰り返し、多額の貸付を行っていたとして、10月にはスルガ銀行は金融庁より6ヶ月間の業務停止処分を受けた。また、8月には東証1部上場のTATERU(タテル:旧インベスターズクラウド)が、顧客の預金通帳を改ざんし、西京銀行に融資の申請をしていたことが発覚した。TATERUはクラウドファンディング事業者の中で唯一の東証1部上場企業であったため、そのインパクトは非常に大きい。不動産クラウドファンディングの領域は、6月にケネディクスと野村総合研究所が共同出資するビットリアルティが設立、7月に東証マザーズに上場したGA technologies(ジーエー テクノロジーズ)がRENOSYクラウドファンディングを開始、10月にFANTAS technology(ファンタス テクノロジー)が不動産投資型クラウドファンディングをローンチ、11月にブリッジ・シー・キャピタルが不動産投資クラウドファンディングCREAL(クリアル)を開始するなど続々と新サービスが登場しているが、一連の不正融資は同領域の成長への影響が懸念される。

 6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)がスタートした。民泊新法により、都道府県知事への届出を行うことにより、年間180日を上限とした民泊サービスの提供を行うことができるようになった。当初の目的としては、違法な無許可営業を行う「闇民泊」を無くし、新たな法制度のもとでシェアリング・エコノミーを推進しようとするものであった。しかしながら、実態としては消防設備の点検や周辺住民等の届出条件が厳しいため、届出状況は低調な状況である。

 11月には不動産テック関連の団体が設立。7月に発足が正式発表された一般社団法人不動産テック協会は、不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産に係る事業並びに不動産業の健全な発展を目的として、12月の時点で40社以上が入会している。情報化・IoT部会、流通部会、業界マップ部会、海外連携部会の4つの部会活動を行う想定だ。手前味噌だが筆者が関わっている国内不動産テックのカオスマップも不動産テック協会へ移管され、第4版まで発表されている。

 また、11月1日にADRE不動産情報コンソーシアムが発足。ADRE(アドレ)とはAggregate Data Ledger for Real Estateの略で、不動産情報の共有におけるブロックチェーン技術の活用を目的として、LIFULL、全保連、ゼンリン、ネットプロテクションズなどが参画している。

不動産テックのプレイヤーによる資金調達と主な提携の動き

 2018年の不動産テックを語る上で、Softbank Vision Fundは外せない。Softbank Vision Fundは、AIやロボットなどのテクノロジー企業へ投資する1,000億ドル(約11兆円)の超巨大ファンドだ。そのSoftbank Vision Fundは、冒頭のWeWorkへの44億ドルの出資にはじまり、2017年12月から2018年12月までの1年間で不動産テックのプレイヤーへ大型出資を行っている。

  • 2017年12月 テックを活用したスマートな不動産仲介会社Compass(コンパス)に4億5千万ドル(日本円にして約500億円)を出資
  • 2018年1月 テックを活用することでシームレスな建設サプライチェーンを提供するKATERRA(カテラ)に8.65億ドル(日本円にして約950億円)を出資
  • 2018年9月 買取再販のiBuyerのプラットフォームを展開するOpendoor(オープンドア)に4億ドル(日本円にして約450億円)を出資
  • 2018年9月 Softbank Vision Fundはカタール投資庁(QIA)と共にリードすることで、Compassに新たに4億ドル(日本円にして約450億円)を出資

 そして、WeWorkは更に30億ドルの追加出資をSoftBank本体から受ける予定とのニュースも出ている。2018年の国内の不動産業界は、WeWorkの日本進出に当たって大きなインパクトを受けた。前述の不動産テック協会設立イベントにおいて、エスクロー・エージェント・ジャパンの代表取締役社長の本間氏は、CompassやOpendoorの人間が日本進出に興味がある旨を講演の中で話していたが、SoftBankが出資した以上は、CompassやOpendoorが日本に上陸してこない保証は一切無い。実際、前述のエスクロー・エージェント・ジャパンも米国のRemine(リマイン)は国内で不動産データサービス事業を開始することを2017年10月に発表している。筆者自身も以前、Remineとは別の不動産データビジネスの某ベンチャー企業にインタビューした際、過去に日本上陸の本格検討をしていたことを聞いて驚いた記憶がある。このように不動産業界もテクノロジーの進展と共にグローバル化が進んでいる。

 2018年は国内の不動産テックのプレイヤーの資金調達も盛んに行われた。図表1は、筆者が2018年にTechCrunch Japan(主にスタートアップ企業のニュースを扱うメディア)上を中心にニュースリリースが掲載されたものを検索して収集したものである。2018年は、全20件で合計96億円以上の資金調達が行われた。当然、検索漏れや資金調達したものの公表されていないものも存在するため、実際は100億円以上の資金調達が不動産テックのプレイヤーによって行われたのではないかと推察する。100億円以上の資金調達は大きいように感じられるが、国内ベンチャーの資金調達額は年々増加しており2017年に約2,700億円、2018年はそれ以上の資金調達額が予想される点、不動産業界の市場規模は約40兆円規模、建設業界の市場規模は約50兆円規模と巨大である点を鑑みると、今後も不動産テックへの投資は盛んに行われることが予想される。

 買収や提携の動きも活発だった。7月に上場したばかりのGA technologiesは10月にイタンジを完全子会社化することを発表。11月にはスペースシェアを展開するスペースマーケットが東京建物と資本業務提携を締結している。他にも2017年に新中期計画でビジネスモデル革新を掲げる三菱地所、以前よりベンチャー投資を積極的に推し進め5月に新たにグロースステージのテック系ベンチャーに300億円の投資を開始する三井不動産、ベンチャー企業と積極的に不動産テック活用に取り組む東急住宅リースなど大手企業の動きも活発だ。

図表 1 2018年の国内不動産テック関連の資金調達ニュース一覧

図表 1 2018年の国内不動産テック関連の資金調達ニュース一覧

2019年以降のトレンド

 2019年以降の不動産テックが向かうトレンドについて予想してみたい。予想するトレンドは、2019年の単年というよりも数年先の今後を見据えて考察したい。

  • 《2019年以降のトレンド》
  • 1) ハードからソフトへ
  • 2) 賃料モデルからサブスクリプションモデルへ
  • 3) 日本版MLSの登場
  • 4) スマート仲介
1)ハードからソフトへ

 「建物はもはやコモディディ化している」。数年前より不動産関係者はみな口々に揃え、テクノロジーによるイノベーションを模索している。一方、WeWorkが急速に広がった理由の1つが、コミュニティマネージャーによる交流イベントや専用のSNSによるコミュニティづくりを重視した点である。昨今、海外ではオフィスビルにおいて、District(ディストリクト)やEquiem(エクイエム)といったオフィス統合アプリが広がり始めている。オフィス統合アプリは、オフィスビルで働くワーカーが、オフィスを効率的に利用できるサービスや働きやすくなるサービスを統合した新たな概念のアプリサービスである。例えば、建物施設や会議室の予約、ビル内のイベント予約、ビルに入っているワーカー同士のSNS、コンシェルジュの派遣などが同アプリから簡単に利用できる。また、オフィス清掃・設備の修理点検・スタッフ派遣・ITサポート・引越し支援などオフィス庶務のオンデマンドサービスを専用タブレット端末から簡単に利用できるプレイヤーも登場している。類似サービスとして国内では、コクヨ&パートナーズが提供するオフィス関連の総務アウトソーシングサービスのオフィスコンシェルジュも好調だ。このように、人々は建物や設備といったハードウェアの部分は、一定レベルのクオリティを当たり前のように求めた上で、加えてソフトウェアの部分に価値を感じるようになってきている。

 オフィスビルだけではなく、他業界に目を向けても「ハードからソフトへ」のトレンドが起きている。例えば、住宅と同様に高額商品である自動車は、燃費といったエンジンを中心とするハード面の競争から、自動運転やコネクテッド、ライドシェアなどCASE時代の到来によってソフト面の競争へと突入している。他にも音楽はCDやDVDのハードからストリーミングのソフトへ、携帯電話もガラケーのスペック競争からスマホ上のアプリやバンドルサービスの競争へとシフトしてきている。

 背景にあるのは、ミレニアル世代による“所有”から“利用”への価値観の変化である。1980年以降に生まれたミレニアル世代は、モノを持たず利用や体験を重視し、インターネットやスマホが当たり前のデジタルネイティブ世代である。こうしたミレニアル世代が今後更に経済のボリュームゾーンを担っていく大きな流れがある以上、ハードからソフトの流れが加速していくことだろう(図表2)。

図表 2 ミレニアル世代の特徴

図表 2 ミレニアル世代の特徴
2)賃料モデルからサブスクリプションモデルへ

 前述の「ハードからソフトへ」というトレンドにも通じるところがあるが、住宅やオフィスそして物流施設などにおける収益モデルが従来の賃料ビジネスに加え、オンデマンドサービス等の利用料ビジネス、即ちサブスクリプションへと多様化していくことが予想される。

 既に住宅シーンにおいて、その萌芽は現れ始めている。例えば、2017年10月にAmazon(アマゾン)がAmazon key(アマゾンキー)を発表した。Amazon Keyは、不在時でも配達員が玄関ドアを解錠して家の中に荷物を届けるサービスであり、自宅清掃サービスやペットシッターサービスなどのオンデマンドのホームサービスAmazon Home Services(アマゾンホームサービス)にも対応する。現在、デジタルビジネスの最先端を行く米国では、ホームサービス領域がホットだ(図表3)。ホームサービスとは、ホームクリーニング、料理、ベビーシッター、荷物の運搬、引越し作業、家具の移動・取り付け、庭掃除、小さなリフォームなどのあらゆる日常的な作業を代行するサービスである。日本で言う家事代行サービスに近い。米国では、ホームサービス業者をWebやアプリ上から簡単に検索・依頼することができる。ホームサービス業界のツートップの一角であるAngie‘s Listはホームサービス業界の市場規模を4,000億ドル (約40兆円)とも推定しており、このホームサービス領域に小売大手が参入してきている。TaskRabbit(タスクラビット)は2017年に家具大手のIKEA(イケア)に買収され、Handy(ハンディ)は2018年にWalMart(ウォルマート)と提携した。こうした動きを受け、ホームサービス業界のツートップであるHomeAdvisor(ホームアドバイザー)とAngie’s list(アンジーリスト)は2017年に合併している。Amazon、IKEA、WalMartなど小売がホームサービスと繋がることで、自社の商品をよりシームレスにより高頻度に購入してもらうことが可能となりシナジーが期待できる。例えば、IKEAは家具の組み立てや取り付けをホームサービスによって行うことが出来るだろう。また、WalMartは掃除や料理の代行をするホームサービス業者がWalMartで洗剤や掃除道具、食材を購入してもらうことが期待できるだろう。前置きが長くなったが、Amazon Keyはこうしたチャネルを広げる役割を果たすことが期待される。

図表 3 盛り上がる米国ホームサービス業界

図表 3 盛り上がる米国ホームサービス業界

 国内でもスマートロックを提供するライナフが、不在時にも荷物の宅配や家事代行などの各種サービスが家の中に入ってくることができる「サービスが入ってくる家」プロジェクトを開始している。プロジェクトには、宅配サービスの生活協同組合パルシステム東京、宅配クリーニングのホワイトプラス、買い物代行サービスのhonestbee(オネストビー)、家事代行マッチングサービスのタスカジ、家事代行サービスのベアーズと、クラウド録画型映像プラットフォームを提供するセーフィーの計5社が参加しており、スマートロックなどの初期導入費は不動産デベロッパーや管理会社が負担する。賃貸マンションからのスタートとなるが今後は分譲マンションへの導入も目指している。

 賃貸仲介のエイブルも面白い取り組みをしている。エイブルは、賃貸で暮らす独身女性の生活を応援するため、お得な割引クーポンやオンデマンドサービスを利用できる女性向け会員クラブMaison Able Club(メゾン エイブル クラブ)を展開。例えば、ヨガスタジオやスポーツクラブ、オンデマンド倉庫のminikura(ミニクラ)やファッションレンタルサービスのairCloset(エアークローゼット)などが無料または割引で利用することが可能である。開始2年間で約3.5万人の会員に達しており、独り暮らしの女性の大変好評だ。

 住宅の世界だけでなく物流の世界においても賃料モデルからサブスクリプションモデルへとシフトする動向が見られる。その先頭を切るのが大和ハウス工業だ。詳しくは別稿に譲るが近年、ECの爆発的な普及と共に宅配ドライバーや倉庫作業者の人手不足が大きな課題となっている。その解決策としてロボットやマテハン、ITソリューションの導入を検討するものの、ノウハウや実績が無く物量の波動もネックとなるため自前で大きな投資を行うのはリスクを伴う。そこで大和ハウスは、倉庫や設備の初期費用、オペレーションコストの全てを賃料などと同様に利用料として請求する従量課金制の実現を目指している。従量課金もサブスクリプションの一種だ。このように所有や占有することの対価が賃料モデルであるのに対して、利用することの対価がサブスクリプションモデルである。今後は住宅もオフィスも物流施設もサブスクリプションモデルが増えていくであろう。

 このように住宅の付加価値としてホームサービスやオンデマンドサービスが当たり前のように利用する時代が目の前まで来ている。今後は従来の賃料モデルに加え、オンデマンドサービスのサブスクリプションモデルへと多様化していくことが予想される。盛り上がりを見せるオンデマンドサービスの普及拡大の鍵が決済だ。オンデマンドサービスの決済はクレジットカード決済が多いため、シニア層の利用拡大のハードルとなっている。日本ではシニア層のクレジットカードの利用率が欧米と比べまだまだ低い。特にネット決済は顕著だ。そこでサブスクリプションの料金を賃料に上乗せして徴収することで、シニア層向けのオンデマンドサービスが利用拡大し、シニア層を一気に取り込むことも可能だろう。そういう意味で住宅におけるオンデマンドサービスの制空権は、賃料の収納代行にあるとも言える。

3)日本版MLSの登場

 日本の不動産テックの普及拡大のアキレス腱が、不動産情報基盤の整備遅れだ。米国で爆発的に不動産テック(海外ではPropTechやRealEstateTechと呼ばれる)が広がった背景にはMLSの存在がある。MLSとはMultiple Listing Serviceの略で、物件情報などの不動産データベースである。エリアごとに民間のMLS運営会社が運営しており、物件の成約価格や広さ、売買履歴や修繕履歴、固定資産税や課税評価額、ローン借入額、登記情報などを会員であれば誰でも閲覧することができる。物件情報だけでなく、周辺地域の情報や地盤情報、市場分析レポートなども入手することができる。

 日本でMLSに該当するのがREINS(レインズ)だが、REINSには課題が多い(図表4)。1点目として、日本中の不動産情報としての網羅性の欠如が挙げられる。REINSは、一般媒介契約の物件は登録義務が無いため物件情報が登録されていない。更に空き家、農地・森林、公的不動産などは登録されていない(別機関のデータベースにて管理されている)。2点目として、データ項目の不足が挙げられる。2016年より「性能」、「建物検査」、「住宅履歴」、「リフォーム状況」、「取引状況管理」の項目が追加されるものの、「ハザードマップ」、「学区情報」、「犯罪情報」、「周辺施設」、「町内会情報」、上下水道やガスなど「インフラ情報」などのデータ項目はない。更に固定資産税、都市計画税、相続税などの税金に関するデータ項目もない。3点目として、登録率の低さが挙げられる。これは、登録必須の項目が少ないという言い方もできる。登録時の入力項目は約500項目あるが必須項目は、「売り出し価格」、「占有面積」、「住所」、「間取り・部屋数」、「取引形態(専属、専任、一般)」の5項目だけだ。リフォーム費用を大きく左右する「建築工法」、「増改築歴」といった項目の登録率は50%未満という状況である。4点目が情報鮮度の低さが挙げられる。MLSが契約後24時間~48時間以内の登録義務なのに対して、REINSは1週間~2週間以内の登録のため、情報の更新頻度が低いためタイムリーな情報が取得できない。5点目として、公開APIが挙げられる。米国には約800ともあると言われるエリアごとのMLSのデータベースを集約・統合しているListHubと呼ばれるデータベース会社がある。ListHubは、不動産広告会社や不動産仲介会社などへ公開APIを通じて最新の物件情報などをほぼリアルタイムで提供する。これに対してREINSは外部公開されたAPIは存在しない。

図表 4 国内の不動産情報基盤REINSの課題

図表 4 国内の不動産情報基盤REINSの課題

 こうした不動産情報基盤に対する課題に対して、国交省はREINSに物件情報だけでなく住宅履歴情報やマンションの管理状況など多くの情報を紐づけ一覧できる不動産総合データベースを推進しているが道半ばである。

 国主導の取り組みよりも民間主導の取り組みのほうがスピード感もあり、先に実用化される可能性が高い。前述のADRE不動産情報コンソーシアムや不動産テック協会以外にも一般社団法人データ流通推進協議会(Data Trading Alliance:略称DTA)も存在する。データ流通日立製作所やオムロン、ソフトバンク、EverySenseジャパン、日本データ取引所など100以上の企業でつくるデータ流通推進協議会は、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室、総務省、経済産業省における各ワーキンググループの検討を経て2017 年 11 ⽉に設⽴された。企業やデータ取引会社の枠を超え、横断的にデータ検索・取引ができるガイドラインや具体的な方法の検討に着手している。

 不動産以外の業種でもデータの流通やオープン化が急速に進んでいる。2018年に入り、EverySenseジャパンやオムロンなどが取り組むデータ取引所事業には博報堂DYも参入を決定した。三菱UFJ信託銀行などをはじめ情報銀行の取り組みが盛んに行われるようになり、10月には総務省が情報銀行の事業者認定説明会を実施している。Yahoo! JAPANも検索やメディア・ECなど同社のサービスで蓄積したデータを、企業や行政のデータと組み合わせ、新商品開発などにつなげる取り組みを始めた。

 不動産業界でも各不動産会社は自社で大量のデータを保有しており、一定のルールや枠組みがあればデータの連携には前向きであると各社口を揃える。そういう意味で、ADRE不動産情報コンソーシアムも不動産テック協会の情報化・IoT部会もデータ流通推進協議会も目指すところはデータのオープン化と集約化であり、この潮流の先にある日本版MLSとも呼ばれる共通データベースの登場も遠い未来ではないだろう。

4)スマート仲介

 米国では不動産の取引プロセスは、既にデジタル化されている。一般的に仲介エージェントは、全米や各エリアの不動産協会、所属する仲介会社が提供する業務支援ツールを利用することで、対面でお客様の元に出向くことなくオンラインで契約締結を行うことが出来る。業務支援ツールは、MLSの物件データと連動して自動的に契約書を作成するzipForm(ジップフォーム)や電子署名のDocuSign(ドキュサイン)、他にもCRMシステムや案件の進捗管理を行うワークフローシステムなどが利用されている。

 前述のCompassも所属するエージェント向けに様々な業務支援ツールを提供している。例えば、完成度の高い提案書や物件紹介用のチラシ・パンフレットを簡単に作成できるMarketing Center(マーケティング センター)、リスティング広告やSNS広告などマーケティング分析ツールのCompass Insights(コンパス インサイト)、エリアごとの市場価格や物件価格などを把握できるCompass Markets(コンパス マーケット)などである(図表5)。

図表 5 Compassの業務支援ツール群

図表 5 Compassの業務支援ツール群

 このように仲介エージェントにとって、案件の確度を高め、効率的に行うことができる業務支援ツールの良し悪しは非常に重要であり、業務支援ツールやITサポート部門の充実度合いは仲介会社移籍の決め手となる。こうしたテクノロジーを武器にCopmpassは躍進し、米国の大手仲介会社Keller Williams(ケラー ウィリアムズ)はエージェントを中心に据えた不動産プラットフォームを提供するテクノロジー企業へと進化することを宣言し、変革に取り組んでいる。更に近年では、Redfin(レッドフィン)、REX(レックス)、Reali(リアリィ)、Purplebricks(パープルブリックス)など新興系のプレイヤーが登場。新興系のプレイヤーは、テクノロジーを活用することでエージェントの力量に大きく依存することなく、ローコストかつ高回転で案件をさばくビジネスモデルである。

 日本国内では2017年にIT重説が賃貸取引のみ本格開始したばかりで、IT重説に対応している不動産会社はまだ一握りだろう。ただ、賃貸だけとはいえIT重説が解禁したことで、賃貸取引プロセスのオンライン化が実現可能となる。不動産ポータル上で物件を検索し、VR内見もしくはオンライン内見予約・スマートロックによる内見自動化、気に入った物件があればWeb会議システムで重要事項説明、後は電子契約と取引プロセスを一気通貫でオンライン化することが可能だ。実際、VR内見のNURVE(ナーブ)は2017年2018年頃より急速に拡大し約5,400店舗以上へ導入している。電子契約ではクラウドサインやDocuSign(ドキュサイン)、IMAoS(イマオス)、申込から契約締結の一連のプロセスを電子化した業務プラットフォーム「キマRoom! Sign(キマルームサイン)」などが広がり始めている。

 現在、消費者が不動産物件を探す際、まずはインターネットを利用するという人は8割とも9割とも言われている。前述のミレニアル世代は、非対面の内見やオンラインのやり取りに違和感が無い。こうした世代が既に不動産取引のボリュームゾーンであり、今後も増加していく。今はAmazonで欲しい物を見つけ、ワンクリックで決済すれば、当日のうちに商品が届く時代だ。そう考えると国内でも賃貸だけでなく将来的には売買契約の完全オンライン化となる時代も遠くないだろう。

さいごに

 「経営視点で俯瞰すると、不動産取引にITツールやシステムを導入することも、オフィスの付加価値としてソフトウェア部分を強化することも、住宅の付加価値としてオンデマンドサービスと連携することも、誤解を恐れずに言えば難しくはない。ある程度の失敗への覚悟、一定の投資リスクなどに対するマネジメントのもとPDCAをクイックに何度も回せば、きっと実現できるであろう。課題は戦略とヒトだ。

 戦略面の課題とは、多くのビジネスチャンスのある不動産テックの世界において、「どの領域に注力して攻めるべきか?」、「その領域でどう戦うか?」である。特に「どう戦うか?」とは、「自社の強みとして何を活かすのか?」、「既存事業とのカニバリをどう乗り越えるのか?」、「他社とどういった面で差別化するのか?」、「新たな付加価値として何を提供するのか?」、「付加価値の対価としてどのような収益モデルを描くのか?」など戦略的に明らかにすべき論点は多い。更に、不動産テックの世界はもはや不動産業界のプレイヤーだけでなく、異業種のプレイヤーも競合であり提携先ともなり得るため、アライアンス戦略も今後重要になってくるだろう。

 ヒト面の課題とは、「ビジネスや業務が従来から大きく変化する中で、社員や組織・制度がついて来ることができるのか?」である。例えば、取引プロセスをIT化した場合、従来その業務に割かれていた人的リソースを別の業務へシフトしなければ、本来の狙った費用対効果は出ない。シフトされる社員もシフトされない社員も仕事のやり方を大きく変えていく必要があるだろうし、当然、組織評価や人事評価も変えていく必要があるだろう。こうしたドラスティックな動きに対して、これまで貢献してきたベテラン社員であればあるほど抵抗は大きい。多くの反発や抵抗があるなか、如何にシームレスかつスピーディーに推進できるかが経営陣の腕の見せ所だろう。