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【緊急提言】『デジタル・ガバメント実行計画』を画餅で終わらせないためには ~実行者は「官」でなく「政」である~

社会システムデザインユニット
シニアマネージャー 大林 勇人

1. はじめに ~『デジタル・ガバメント実行計画』とは

政府は、2018年1月16日『デジタル・ガバメント実行計画』を公表した。本計画は、(デジタル)データ流通環境の整備や行政手続のオンライン利用の原則化など、各種デジタル関連施策の推進を政府の取組として義務付けた『官民データ活用推進基本法(2016 年12 月公布・施行)』、さらに、同法に基づいた『世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(2017年5月30日公表)』と同時かつ関連づけられ策定された『デジタル・ガバメント推進方針(2017年5月30日官民データ活用推進戦略会議決定)』に基づいた、政府ひいては日本全体の「デジタル・ガバメント」化の実行について規定されたものである(図1参照)。

図1 近年のデジタル・ガバメント関連政策

図1 近年のデジタル・ガバメント関連政策

『デジタル・ガバメント実行計画』は、『デジタル・ガバメント推進方針』が掲げている「本格的に国民・事業者の利便性向上に重点を置き、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直すデジタル・ガバメントの実現」を具体化・実行する計画である。対象期間は2018年1月16日から2023年3月31日までの約5年間であり、以下の事項から構成されている。

●本計画が目指すもの(To Be)

  • ◆目指す社会像
    • 必要なサービスが、時間と場所を問わず、最適な形で受けられる社会
    • 官民を問わず、データやサービスが有機的に連携し、新たなイノベーションを創発する社会
  • ◆目指す社会像を実現するために必要となる行政:デジタル・ガバメント
    • 利用者中心の行政サービス
    • 行政サービス、行政データ連携の推進

●利用者中心の行政サービス改革

  • ◆「サービス設計12箇条」に基づくサービスデザイン思考の導入・展開
    • 「サービス設計12箇条」
    • 「サービス設計12箇条」の導入と普及
  • ◆横断的サービス改革
    • 業務改革(BPR)の徹底
    • 手続オンライン化の徹底
    • 添付書類の撤廃に向けた取組
    • ワンストップサービスの推進
  • ◆個別サービス改革

●プラットフォーム改革

  • ◆行政サービス、行政データ連携の推進
    • 行政データ標準の確立
    • 行政保有データの 100%オープン化
    • API整備の推進
    • Webデザイン指針等の整理統合・拡充
  • ◆システム基盤の整備
    • 行政情報システムのクラウド化(クラウド・バイ・デフォルト)、政府情報システムの将来像の検討
    • 本人確認等の手法の見直し
    • 情報システムに関する技術トレンドへの対応
    • サービスデザイン思考の導入による e-Govの刷新
    • マイナポータルのAPI提供によるサービス連携の拡大
    • 法人デジタルプラットフォームの構築
    • 制度情報基盤の整備
    • 府省共通システムの推進

●価値を生み出すITガバナンス

  • ◆価値を生み出すITガバナンス
  • ◆サービス改革に対応した推進体制の整備
    • 政府CIOレビュー制度の確立
    • サービス改革支援チームによる支援
    • 各府省ガバナンスの強化
    • 各府省中長期計画
    • 人材確保・育成
  • ◆マネジメント及びプロセスの強化
    • 政府情報システム改革の着実な推進
    • 情報システム関係予算に係る府省横断の推進体制の整備.
    • 情報システム調達に係る諸課題の検討
    • 情報利活用と情報セキュリティの一体的推進
    • 標準ガイドライン群の充実・拡充・定着
  • ◆デジタル・ガバメントの推進に係るその他の取組
    • デジタル・ワークスタイルの実現
    • 広報・普及及び国際展開

●地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進

  • ◆地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進
  • ◆地方公共団体における官民データ活用推進計画の策定
  • ◆地方公共団体の行政手続のオンライン利用促進
  • ◆地方公共団体におけるクラウド利用の推進
  • ◆地方公共団体におけるオープンデータの推進
  • ◆地方公共団体におけるAI・RPA等による業務効率化の推進
  • ◆地方公共団体における適正な情報セキュリティの確保
  • ◆地方公共団体における地域情報プラットフォーム準拠製品の導入及び中間標準レイアウトの利用の推進
  • ◆地域におけるAI、RPA等の革新的ビッグデータ処理技術の活用推進

●フォローアップと見直し

2. 最新のデジタル・ITトレンドがもれなく反映されている『デジタル・ガバメント実行計画』

筆者は、「デジタル・ガバメント」が、「行政情報化」「電子政府・電子自治体」といった呼称をされていたころから、これらを支援するコンサルティング等の各種ビジネスに従事しつつ、関連する諸施策を継続的にウォッチしてきている。このような筆者による、今回の『デジタル・ガバメント実行計画』に対する認識は、従来のデジタル関連施策が直面した問題や課題としてきたことを幅広に考慮している、かつ最新のデジタル技術・ITのトレンドも適切に把握している極めてよく練られた計画であるといったものである。とりわけ秀逸で、特に高く評価する3つの点を、以下に列挙する。

⑴フロント(対国民・住民)及びバックオフィス(役所内部)を一体的に最適化

●本計画が目指すもの(To Be)

  • ◆目指す社会像を実現するために必要となる行政:デジタル・ガバメント
    • 利用者中心の行政サービス
      • ✓サービス改革に当たっては、デジタル技術を徹底的に活用し、行政のあらゆるサービスが、利用者にとって最初から最後までデジタルで完結する社会を目指す。この際、サービスのフロント部分だけでなく、バックオフィスの 業務における情報のフローを一から点検した上で、書面や対面の原則、押印 等のデジタル化の障壁となっている制度や慣習にまで踏み込んだ業務改革 (BPR)の検討を行う。

●利用者中心の行政サービス改革

  • ◆「サービス設計 12 箇条」に基づくサービスデザイン思考の導入・展開
    • 「サービス設計 12 箇条」
      • ✓第3条 エンドツーエンドで考える利用者のニーズの分析に当たっては、個々のサービスや手続のみを切り取って検討するのではなく、サービスを受ける必要が生じた時からサービスの提供後まで(エンドツーエンド)の、他の行政機関や民間企業が担うサービスの利用まで含めた利用者の行動全体を一連の流れとして考える。
  • ◆横断的サービス改革
    • 業務改革(BPR)の徹底
      • ✓具体的には、各府省は、サービスのフロント部分及びバックオフィスの業務の双方を対象に、利用者から見たエンドツーエンドで事実を詳細に把握した上で、各業務において、利用者がサービスを受ける際の最適な手法について検討を行う。

従来は、政府・行政のデジタル化・IT化の目的として、「国民(住民)サービス向上」(対フロント)と「業務効率化」(対バックオフィス)が、それぞれ個別に設定されており、前者については「国民(住民)の満足度」「手続の簡素化」、後者については「業務コスト」「業務品質」とそれぞれ異なる評価指標を用いて推進されていた。さらに、「行政サービス改革」については、専ら前者の改善のみ注視されがち、かつ予算も配分されやすい状況であったが、今回計画では前者と後者を一体として最適化を図るとしている。本アプローチは製造業のサプライチェーンの全体最適化のための理論の一つである、“TOC(制約条件の理論)”と照らし合わせても合理的で、筆者がこれまでコンサルティング等で提言してきたが中々採用に至らなかった「行政サービス全体の中で、ボトルネックとなりがちなバックオフィス業務にこそ、マイナンバーや最新のテクノロジーを適用する方が、フロント部分の改善よりも圧倒的に費用対効果が高い。」といった「職員のデジタル武装」ともいうべきデジタル投資戦略の実現性が高まることを期待している。

⑵「民―民」を含めた社会全体のデジタル化も範疇

●利用者中心の行政サービス改革

  • ◆「サービス設計 12 箇条」に基づくサービスデザイン思考の導入・展開
    • 「サービス設計 12 箇条」
      • ✓第3条 エンドツーエンドで考える 利用者のニーズの分析に当たっては、個々のサービスや手続のみを切り取って検討するのではなく、サービスを受ける必要が生じた時からサービスの提供後まで(エンドツーエンド)の、他の行政機関や民間企業が担うサービスの利用まで含めた利用者の行動全体を一連の流れとして考える。
  • ◆横断的サービス改革
    • 手続オンライン化の徹底
      • ✓民-民手続におけるオンライン化の推進
        民-民手続のうち、法令上、オンライン手続が認められていないものが存在する。そのような手続を所管する各府省は、オンライン手続を認めていない阻害要因の類型に応じて、以下の表を参考にしつつ、また、内閣官房において取りまとめた事例集を参考に、必要な法令等の見直しに係る検討を行い、 その検討結果を必要に応じて各府省中長期計画に反映する。

【表】阻害要因の類型と対応の方向

阻害要因の類型 対応の方向
①国際法上、現物を備え付けることが求められるもの 国際的なデジタル化の動きを踏まえて対応を検討する。
②証明書や認可書等の性質を有しており、書面で提示することが求められるもの スマートフォンやタブレットなどを 用いた、非書面での対応ができるかどうかを検討する。
③消費者保護の観点から、書面での手続が求められるもの 消費者被害の実態を踏まえ、書面に代えて、オンラインでの手続を認めることに伴う被害の拡大のおそれがないと認められる分野について、あらかじめ消費者の明確かつ個別の同意が得られる場合には、消費者の利便性も勘案し、書面に代えて、オンラインでの手続を認めることを検討する。
④①~③以外の要因で、手続のプロセスの中でオンラインには代えることのできない現物が介在するもの 現物が書面である場合、真正性の確保を前提としつつ、オンラインでの手続を認めることを検討する。
⑤出頭又は対面を要するもの 出頭又は対面の必要性を徹底的に検証した上で、必要性が認められないものは、出頭・対面を取りやめる。真に出頭・対面が必要であっても、テレビ電話など、先端技術の活用により、出頭・対面に代えることを検討する。
⑥手続をオンラインで実施する場合の情報システムの費用に対して、効果が低いと判断されるもの システム構築は、民間セクターで判断するものであるとの考え方に基づき、法令上の措置(緩和)を検討する。

一方、民-民手続のうち、法令上、オンライン手続が認められている場合 においても、押印を求める社会慣習などによって、デジタル化が進んでいない場面もある。 このため、内閣官房は、先端技術を活用して書面・対面なしで取引を完結させている取組を取りまとめた事例集に基づいて、民間事業者の取組を促す。あわせて、「デジタルファースト・アクションプラン」において示されている①株主総会プロセスの電子化、②不動産取引における重要事項説明のオンライン化など、行政機関において率先的に取り組むべき事項を取りまとめ、 順次、実施することにより、官民双方が社会全体のデジタル化に向けた意識改革を実現する。

筆者は職業柄、引っ越し関連の諸手続、住宅購入、自動車購入及び登録といった人生において発生する各種の手続を代理申請せず全て自身で対応している。先年、金融機関相手に住宅ローンの借り換えを行ったが、最初の申し込み後、手続きが完了するまでに半年近い時間を要する羽目に陥った。

  • ◆大量の紙書類を3回記載・捺印(実印及び銀行届出印)・署名・提出(1回あたり10枚程度)
  • ◆上記のたび、住民票、課税証明書、登記事項証明書等の公的証明書を添付
  • ◆上記証明書を入手するため、自治体(行政サービス窓口)、法務局等に出頭
  • ◆他にも法律事務所にも訪問

果たして、完全なペーパーレス化やワンストップ化が、このような民間相手の取引においても実現される日が来るのかと、夜間や休日、時には半日休暇を取得の上、作業時間を割きつつ慨嘆したものだが、本計画にて前表の③の通り、ついにデジタル化・オンライン化の検討の遡上にのせられたことは非常に大きな一歩を踏み出したものと、多大なる期待を寄せるものである。社会的にも、これら「民-民」間の煩雑な手続きのデジタル化は、国民の利便性向上及び手間暇(心理的な面も含めて)の削減については絶大な効果を見込めるであろう。

⑶行政自身のデジタル・トランスフォーメーションの推進

●価値を生み出すITガバナンス

  • ◆デジタル・ガバメントの推進に係るその他の取組
    • デジタル・ワークスタイルの実現
      行政サービスをデジタル化したとしても、行政内部の業務が従来の紙を中心としたやり方にとどまったままでは、デジタル化の便益を十分享受することができない。サービス改革の効果を最大限に発揮するためにも、行政内部の業務やワークスタイルをデジタルに対応したものに変革していくことが必要である。
      • ✓テレワークの推進
      • ✓デジタル・ワークスタイルを実現するための環境の整備(ペーパーレス 化、オフィス改革等)

中央官庁については、デジタル・ITを所管する府省が先導する形で、対外的な業務において、年々かつ確実ににデジタル化・オンライン化が推進されている。ただし、行政内部では未だに紙文化であることから、外部の業者等に対して「打ち合わせは紙資料を準備」「入札は電子化(電子入札)されている一方で(職員が閲覧する)提案書や成果物(報告書)は紙で提出」といった、民間企業の生産性やフレキシブルワークスタイルを損なうような要求が中々絶えることがないのも、また事実である。上記施策により、行政機関自身が「デフォルト・リモートワーク」「フル(完全)・ペーパーレス」といったデジタル・トランスフォーメーションを遂げることにより、行政のみならず、民間企業のデジタル・トランスフォーメーションも同時に後押しされることにつながり、日本全体の労働生産性向上や働き方改革が大幅に前進することが期待される。

3. デジタル・ガバメントの留意点 -特に「行政サービス」のデザインにおいて

かように、筆者は高く同計画を評価する一方、民間企業とは異なる、政府及び行政におけるサービス・システム固有の特質に関する配慮がやや不足しているのではないかと、同時に危惧もしている。実際は考慮されているが、諸事情により文面に表せていない可能性もあるが、あえて言挙げをするものである。

⑴サービス改革実行に要する行政コスト
対ユーザーという観点において、民間のサービスについては、「原則改善や満足度(ユーザー体験)向上」が目的である一方、行政サービスについては実は「手続き含めて廃止する方が満足度(ユーザー体験)向上」に資する可能性があるといったように、行政特有の原理・原則が存在している。同計画では、

  • ◆まず「業務改革(BPR)の徹底」を実施
  • ◆その次に「行政サービスの利便性向上」「法令の見直し」「情報システムの見直し」を順次ないしは並行して実施

といったプロセスでサービス改革実行を行うとしているが、これらを実行する際の行政コスト(職員の人件費及び諸費用)の視点が抜けているように見える。例えば、仮に5万の行政サービスについて上記を順次検討すると、改革コストも膨大なものとなってしまうが、まず「法令の見直し」を徹底し、BPRや利便性向上、情報システムの見直しを行う行政サービス数を(仮に)1万程度に抑え込むといった手順とすることで、当該コストの発生を大幅に抑制することが可能となる。

⑵行政の無謬性
筆者は、かつて官民交流人事制度の一環で、2年間国家公務員として奉職した経験がある。その折りに、民間企業と特に意識が異なっていると感じたのが、「行政の無謬性」すなわち、「行政のサービス・業務においてミスは基本ゼロ。そのためには職員の手間暇を惜しまない(業務品質を高めるために職員の時間を際限なく投入)。」といった原理・原則である。筆者自身も行政職員として、昨今の民間企業では得難い経験をさせていただいた。以下に一例を示す。

  • ◆文書の誤字脱字をゼロにするため、作成者とレビュワー(チェックする者)が、対象文書について声を出して順次読み上げるといったレビュー(チェック)手法
  • ◆1万以上の静的Webサイト(ホームページ)を作成(過去の文書をデジタルアーカイブ化)した際のテストについては、「何らかの品質マネジメント手法に基づくサンプリングチェック&ミスが発見された後に修正対応」といった費用対効果を勘案した方法ではなく、職員3名で分担し、本来業務の隙間時間を用いて約1カ月半をかけて全数確認といった方法で対応

従って、デジタル・ガバメントを推進していく際、「職員による審査プロセス」が、特にボトルネックとして、行政サービスのエンドツーエンドの流れの中で顕在化する可能性が高い。こちらに対しては(1)で述べた、「手続き自体をなくす。」に加えて、「将来的には、マイナンバーをキーとしたバックオフィス間(行政組織内部、行政組織間、行政-民間間等)連携により、手続きに必要な情報を流通させることにより、審査そのものをなくしていく。」といったアプローチを原則とすべきである。

4. 本質は「デジタルを武器とした社会制度改革」 -実行主体は「政」

前項で少し触れたように、「法制度見直し」「デジタルを前提とした国民の生命や財産に関する情報ライフサイクルの再構築」こそが、21世紀にふさわしいデジタル・ガバメントの、実現プロセスであると考えている。そして、これらの担い手については、行政職員が自ら「自分たちが提供しているサービスが、実は国民に対して価値を生み出せていない。」「常日頃全身全霊で誇りをもって取り組んでいる審査業務こそをなくすべき。」とは、中々公言したり、実行に移したりするのは極めて困難であることから、「政」こそが、主役としてふさわしいといえよう。2017~2018年は折しも明治維新150年の節目であるが、このタイミングで打ち出された『デジタル・ガバメント実行計画』が、わが国の「デジタル・レストレーション(維新)」に舵を切ったと、後世から評価されることを切に望む次第である。