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人材不足時代に向けた働き方改革のNextStep
~社員「採用」からパートナー「協業」へ~

企業戦略事業本部
事業戦略コンサルティングユニット
シニアコンサルタント 井上 知洋
シニアコンサルタント 大石 智史

1. 人材の流動化・スキルの流動化による人材不足の脅威

 政府が主導している一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジとして、2017年に「働き方改革実行計画」が立案された。本計画のひとつの狙いとして、「人材流動性の促進」がある(生産性の高い産業や企業に人々が移る、という前提)。
 多くの業界で労働力不足が顕著となり、売り手市場が継続する中で、「人材の流動性」の向上は働き方改革の効果を待たずして実現してきているが、企業側にとっては諸刃の剣であり、人材の獲得・流出防止がこれまで以上に大きなトピックになってきている。事実、新規求人倍率は右肩上がりであり(図1)、また、帝国データバンクのプレスリリース*1によれば、『正社員不足は 51.1%、企業の半数超に』とあり、半数以上の会社が正社員の不足を感じているという調査結果もある。

【図1】求人倍率・完全失業率の推移

【図1】求人倍率・完全失業率の推移 出所:中小企業庁『平成28年度中小企業の動向』*2

 また、経営者や人事担当者にとって更に厄介なのは、「量」の人材不足に加え、「質」の担保も困難になっている点であろう。RPAやAIなどのテクノロジーの進化が加速化する中で、必要となるスキルも流動的になり、5年前に持てはやされていたスキルや知識があっというまに陳腐化してしまう状況である。
 このような状況のなか、企業は人材不足に対してどのような打ち手を考えるべきだろうか。

2. エンゲージメント&EVPから語る働き方改革

 本稿では、実現のためのひとつの解として、「エンゲージメントの向上」を挙げたい。エンゲージメントとは、ここ3-4年で日本でも唱えられるようになった用語で、「(社員が)会社に持つ愛着心・思い入れ」として定義する。
 モチベーションエンジニアリング研究所と慶應義塾大学ビジネス・スクール(以下 KBS)岩本研究室の調査*3によると、エンゲージメントと売上・純利益が比例している可能性が高いとの調査結果が出ており、エンゲージメントの高さと企業業績については相関があると見て取れる。
 一方、AONの調査によると、日本は諸外国と比してエンゲージメントが群を抜いて低い(『世界平均:65%、日本40%弱』との調査結果あり)*4。この2点の調査を掛け合わせると、景気動向や株価からみて、全体として好調とされる日本企業の業績は更に伸ばすことができると考えられる。逆に言えば、社員のエンゲージメント向上が果たされない場合には、いい人材を獲得・維持できず、業績が伸び悩む可能性が高いといえる。

 では、エンゲージメントを向上させるためにはどうすればいいだろうか。企業側からみて「エンゲージメント」を向上させる要素を言語化していくと、「EVP(Employee Value Proposition)」が出来上がってくる。日本語訳でいえば、「企業が従業員に提供できる価値」となる。あまりなじみの無い言葉かもしれないが、直近では、2017年8月にソニーが導入を発表している*5
 EVPの要素としては、報酬や福利厚生、役職などの目に見える要素のほか、魅力的な仕事、会社のブランド力、キャリア形成への寄与度、企業のカルチャーなど多岐にわたる要素がある(図2)。
 冒頭で触れた「働き方改革」も実はこれらの要素を向上させるためのひとつの要素である。立ち止まって考えると、各社の採用サイトに記載されている項目の羅列ではあるのだが、これを会社として言語化し、「社内の人間に対しても」適用すること、人事観点だけではなく経営としてコミットメントしていくことが重要であるといわれている。

【図2】

【図2】会社と従業員の関係性 ~エンゲージメントとEVP~ 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

3. EVPからPVPへ

 EVP(Employee Value Proposition)の概念は、2005年に発表されたものでそこまで古いものではないが、あくまでも「従業員」に向けた考え方である。冒頭でも言及したとおり、正社員の不足感は年々増しており、各社横並びで対応を強化してくるであろう。その場合、EVPの要素として強い割合を占める「報酬」や「会社のブランド力」の差で人材争奪戦の勝敗が決まってくることが多く、中小企業にとっては別の強いEVPを提示することが重要となってくる。
 その中で、筆者は、「PVP(Partner Value Proposition)」を向上させる、という考え方を提唱したい。ここでいうPartner(パートナー)は、開発ベンダーやフリーランス、派遣社員、アルバイト、パートなどの「EVP」の恩恵を受けられない方々を指す。
 図3に示すように、人材・スキルの流動化が更に進むことにより、人事戦略についても大きな変化が必要になってくると想定しており、場合によっては無理に正社員を採用するよりも、よきパートナーを探すことに力を注ぐことが有効になってくるケースがありうる。例えば、「開発ベンダーが契約を更新してくれない」、「建設会社が発注を受けてくれない」、「派遣社員さんの応募がない」などは全てPVPを意識していないことで起きている問題である。確かにベンダーや建設会社、というレベルであれば契約金額や納期などの「交渉」であり、これまでも発生した話ではあるが、その背景が変わってくる可能性がありうる。「ベンダー内に人はいるが、誰もやりたがらない」や「派遣社員業界で(SNS等で)評判の悪さが出回っている」などは現時点でも大いにありうる話だ。一方で、「契約金額が安くても、今後のスキル向上に役立つ案件」や「時給が安くても社員さんと同等の扱いが受けられる」など、これまでとは異なる要素で人材確保できる可能性もある。

【図3】

【図3】人材・スキル流動化時代における人事戦略の考え方 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

4. PVP向上のコアドライバーとは

 では、PVPを向上させるためには、具体的にどのような取り組みを検討していくことが近道になるだろうか。

 「PVP」につながる可能性がある要素を図4に示す。

【図4】

【図4】EVP/PVP向上の要素 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 パートナーにとって、報酬は大前提でありながら、「キャリアアップへの寄与度("いい”履歴となるか)」、「人的ネットワーク」、「嗜好にあった契約形態」といった要素は今後のコアドライバーになると考える。彼らはいわゆる「正社員」と違って、ひとつの会社に属さない働き方(≒自由度の高さ)を求める一方で、人材・スキルの流動性が高まる中で、常に「次」を強く意識したアプローチをしていく必要があり、自身のスキルアップはもちろんのこと、守秘義務の範囲でこれまでの経歴をより詳細に「アピールできる」ことが重要な要素になる。
 また、昨今実施している働き方改革も社員だけでなく、パートナーに対しても適用していくことで、PVP向上の一施策になりうる。現時点であまり事例は多くないが、Apple社は「在宅勤務アドバイザー」という職種でカスタマーサービス部門の人材募集をかけているし*6、ZOZOTOWNで有名なスタートトゥデイ社は業務委託募集の形で「成果報酬型の在宅ファッションコーディネーター(EC上での販売員)」を募集している*7
 これらのコアドライバーをもとに、今後の人事戦略を考える上でのポイントを2点言及しておきたい。
 1点目は、正社員とそれ以外の社員の境目があいまいになってくることを強く意識することである。人材の流動性が高くなってきたことをふまえると、正社員が同じ企業にとどまる可能性は減少していく。セキュリティ事故に最大限に注意しながらも、可能な限り同じ環境を整えていくことが望ましい(PVPの向上にもつながる)。
 2点目は、いわずもがな全社の取り組みすべてがEVP/PVPに繋がっていることを意識することである。「大企業ブランド」がない会社にとっては、企業のブランドが正しく理解されること、場合によってはテレビやSNSで「バズる」ことも大きなポイントになってくる。人材確保の観点でいえば、マーケティング5割、広報・ブランドマネジメント3割、人事2割程度だろうか。ある種、この現実自体が「スキルの流動化」を物語る最たるものでもある。

5. おわりに

 本稿では人材不足の脅威への対応として、EVP/PVPの観点を用いながら、特にパートナーの活用を論じた。年々増加しているフリーランサーはもちろん、「副業」「シニア」「主婦」「学生」等、多様な人材を活用していくことが求められてくると想定される。「副業」については、受入はもちろん、社員が取り組みたいといっているケースもありうる。
 「人材不足は人事の責任」、「人事の仕事は社員の採用と管理」という昔ながらの論理を見直すべきときである。人材の流動性を意識した上で、従業員のみならず、パートナーにどのようにリーチしていくか、が企業の生命線になりうる。
 特に社員獲得が喫緊の課題になっている場合には、EVP/PVPの観点で今一度自社の取り組みを振り返り、そもそも社員が必要なのかどうか振り返り、パートナーの生かしどころ、及びそれぞれに提供できる価値を見直してみてはどうだろうか。

参考資料