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大企業によるデジタルイノベーションはなぜ上手く行かないことが多いのか?

情報未来イノベーションセンター
エクゼクティブコンサルタント 山下 長幸

破壊的イノベーション

 近年、様々な業界・業務においてX-TECHと称されるベンチャービジネス事例の増加とともに、再び、破壊的イノベーションという言葉を耳にするようになってきた。破壊的イノベーションとは、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場が、新たな技術やビジネスモデルによって破壊され、既存の業界構造が劇的に変化し、場合によっては新規商品サービスに代替され、既存市場規模が急速に減少してしまうイノベーションのことである。例えば、銀塩写真フィルム市場は、デジタルカメラの進化・普及による破壊的イノベーションにより8年間程で代替され急速に衰退し、そのデジタルカメラ市場は、スマートフォンの進化・普及による破壊的イノベーションにより、これも8年間程で代替され急速に衰退した。
 現在起きている様々な業界・業務におけるデジタルイノベーション・破壊的イノベーションは、スマートフォンの進化・普及によるものも多いと感じられる。今では多くの人々がスマートフォンを当たり前のように利用しているが、歴史的にみれば日本では2010年から2013年の4年間で急速に普及しており、ごく最近の事象である。伝統的な既存ビジネス側からすると、突然、浦賀に現れた黒船に対する徳川幕府のような感じなのだと思われる。逆にベンチャービジネスを志す人たちからすると、絶好の事業機会が突如出現したという状況である。スマートフォンという通信機能付きの小型コンピューターを日本では千万人単位で携帯しているため、ベンチャービジネス側の視点からは、スマートフォンを活用するサービススキームであればコストをかける必要がなく顧客接点が確立されている上に、クラウドコンピューティングの進化・普及で新商品・新サービス提供のための情報システムの構築も早く安価にできるため、アイデアと実行力があれば、大きな投資を必要とせず、かつ、スピーディーにデジタルビジネスを立ち上げることができる。
 スマートフォン利用サービスによるデジタルイノベーション・破壊的イノベーションは、20世紀的なサービススキームだけでなく、パソコンベースで市場を席巻したサービスが、スマートフォンベースの新たなサービスにより、その勢力図に大きな影響を与えている事例が存在していることは興味深いものがある。例えば、チャットアプリはパソコンをベースとしたものが2000年代には既にいくつかあったが、LINEがスマートフォンに最適なサービス形態を2010年代の初めに素早く構築したことにより、数年で市場に急速に普及した。個人同士の売買プラットフォームであるフリーマーケットサービスもパソコンをベースとしたものがいくつかあったが、メルカリがスマートフォンに最適なサービス形態を2013年に構築したことにより、既存有力プレーヤを脅かす存在となっている。料理レシピサイトも2000年前後からパソコンをベースとしたものがいくつかあったが、2015 年設立のDELISH KITCHENなどによるスマートフォンに最適な料理動画でのサービス形態を構築したことにより、急速にユーザーを獲得している。
 ちなみに、インターネットの進化普及により、市場衰退が進行中の業界の1つとして、雑誌出版業界がある。紙媒体の雑誌の市場規模は、1997年のピーク時の1兆5,630億円から20年間、基本的には減少トレンドで、現在、市場規模はピーク時からほぼ半減したと言われている。デジタルイノベーション・破壊的イノベーションといっても、雑誌の場合、既存の紙媒体の商品・サービスに慣れ親しんだ顧客層がいて、インターネットやスマホアプリを活用した新商品・サービスにすぐに代替するわけでもないため、長い時間をかけて市場規模が減少しているものと考えられる。商品特性によって破壊的なイノベーションが起きる期間は当然大きく変わると考えられるが、時間的な余裕があったとしても、自社の売り上げが半減したとしたら、企業経営的にどのようなことが起きるのかは想像に難くない。

大企業によるデジタルイノベーションに見受けられる諸問題

 このような事業環境に危機感を感じざるを得ない大企業において、近年、デジタルイノベーションを推進するための担当組織を立ち上げたり、デジタルイノベーションアイデアの具現化を加速化するためにイノベーションラボ施設を立ち上げたりして、自社としてデジタルイノベーションを推進する動きが見られる。さらに自社内だけではなく、外部のベンチャービジネスと協業するオープンイノベーションなどの動きも見受けられる。
 このような部署を担当する方々と話をしてみると、内情はなかなか厳しいものであることが多い。デジタルイノベーションに関して、大企業に共通的に見受けられる問題点としては以下のようなものが挙げられる。
 「自社社員は現場経験があり、改善活動は得意だけれど、突然、デジタルイノベーションを考えろと言われても、これはすごいというビジネスアイデアは簡単には思いつけない」
 「仮に有望そうなビジネスアイデアを考えられても、自社社員ではビジネスプランを市場検証したりするノウハウに乏しい」
 「新規事業に関する社内審査基準は、非常に細かい項目が厳しい基準で設定されており、それらをクリアするレベルまで調査検証するには、膨大な労力と時間がかかる」
 「社内で新規事業を立ち上げようとしても、有望な人材を集めることが非常に難しい。優秀な社員ほどリスクを取りたがらない」
 「新規事業は、推進している最中に別の方向に転換した方が良いと感じることが時にあるが、一度承認を受けたビジネススキームを変更することは容易ではない」
 ベンチャービジネスなどによるデジタルイノベーション・破壊的イノベーションが進行していく中で、既存事業サイドとしては、場合によっては業態転換するなどで企業の生き残りを図ることが可能であるとも考えられるが、現実には、上記のような諸問題に起因する「イノベーションのジレンマ」により、その実行は容易でない。「イノベーションのジレンマ」とは、伝統的な企業においては、企業内において規模が大きく歴史のある既存事業に対して、新興の技術やビジネスモデルは、取るに足らないものと感じられたり、既存の事業を侵食するリスクもあるため、新興市場や新興技術への参入が遅れがちとなることである。既存の主力事業の成功体験が豊富にある企業にとって、業態転換に近いような新たな発想での新たなサービススキームにチャレンジするのは容易ではないと言える。

大企業によるイノベーションのジレンマ克服の方法

 イノベーションのジレンマを克服して企業として勝ち残りを図るにはどうしたらよいか。
 組織論として、既存主力事業の企業体の内部組織として、デジタルイノベーション組織を設立することはよくあるパターンである。しかし、デジタルイノベーション事業における事業計画策定、要員配置、案件承認などの権限が、既存主力事業を管理する歴史と伝統のある強固な枠組みに引きずられがちで、デジタルイノベーション事業推進のスピード感は思ったほど出ないし、案件承認も容易ではないことが多い。デジタルイノベーション組織向けに各種の優遇措置を取ったとしても、既存の仕組みから大きく逸脱させることは難しい。
 多くの大企業における新規事業候補案件の審査、承認する案件を絞りに絞り3戦3勝の勝率10割を狙いがちで、万一うまく行かなくて損失を最小化しようとしがちである。そのため、目先確実に収益が上がりそうで、小粒な投資案件を承認しがちである。また既存事業の売り上げを侵食するような新規事業案件もほとんど審査をパスしない。さらには自社の既存事業と相乗効果がでるような新規事業アイデアを求められることも多い。これではベンチャービジネスによる破壊的イノベーションに対抗していくことは難しい。
 全社の経営会議で既存事業とデジタルイノベーション事業との月次業績を横並び比較しようものなら最悪である。既存主力事業サイドの経営幹部からすると、デジタルイノベーション事業に対して、小規模の売上で赤字続きの事業なのに経営資源を投入して継続するのか疑問という気持ちになりがちである。逆に、デジタルイノベーション事業サイドの経営幹部からすると、たとえ赤字の事業計画が承認されている場合であっても、既存主力事業の業績との比較感で非常に肩身の狭い思いをせざるを得ない。
 この意味で、組織論としては、既存主力事業の企業体からは分離した新会社を設立した方が良いと考えられる。その上で、新会社には潤沢な運営資金の提供、案件承認基準やプロセスなどの新会社への権限移譲、既存主力事業への侵食可能性のある事業案件の容認などの組織運営枠組みの整備も必要となろう。
 そのような新組織体の最大の難関は、デジタルイノベーションアイデア創出であろう。市場ニーズの検証や事業計画の策定などは、確立された各種の方法論が既に存在し、自社社員には十分な活用ノウハウがないのであれば、ビジネスコンサルティング会社などに委託すれば実施可能である。案件審査基準や事業計画変更プロセスも、別会社であれば、既存主力事業とは別のものを設定することもそれほど難しくはないであろう。人材確保に関しては、自社社員では難しいとなると、中途採用に注力する必要があるが、別会社であれば、既存主力事業の企業体とは異なるポジション、給与体系、業績評価基準などが設定しやすくなるので、有能な人材を惹きつける条件を提示し、人材確保することは可能であろう。
 これに対して、デジタルイノベーションアイデア創出に関しては、こうすれば確実にアウトプットが出せるという方法は存在せず、様々な方法論を試行錯誤するしかない。そのような状況であるが、アイデア創出の確率を向上させる手段はいくつか存在する。
 取組み人材に関しては、新事業企画発想力が豊かな人とそうでない人は確実に存在する。3時間ほど、新規事業アイデアのブレーンストーミングを実施すると如実にそのことが理解できる。発想力が非常に豊かな人は、「こんなのはどうか、あんなのはどうか」といろいろアイデアが湯水のように湧き出てくる感じであるが、発想力に乏しい人は、3時間参加してもほとんど何の貢献もできないということがよくあるものである。その意味で、自社社員であろうと、外部委託会社社員であろうと、発想力が豊かな人がチームメンバーにいることは非常に重要である。その上で、デジタル技術に強い人、現場オペレーション経験が豊かな人、事業計画立案スキルのある人など様々な分野の異質な人材を集め、様々な化学反応が起きやすいようにチーム編成しておくことが重要である。
 様々な分野の異質な人材でチーム編成ができたとしても「さあ、皆さん、アイデア出しのブレーンストーミングです。どんどんアイデアを出してください」と言っても思いつきで優れた事業アイデアを創出するのは容易でない。弊社では、これまでの試行錯誤からデジタルイノベーションアイデア創出を効率的・効果的に実施するための事前インプットの方法論や検討の枠組みなどを10個程度保有していて実施している。絶対確実にアウトプットが出せるとは言えないが、それなりにデジタルイノベーションアイデアが創出できている。これらの手段を利用をすることにより、アイデア創出の確率を上げることができる。具体的な内容は弊社に問い合わせて頂ければ幸いである。

最後に

 現在、人工知能、ブロックチェーン技術、IoT、オープンAPIなどデジタルイノベーション・破壊的イノベーションを起こしうる技術進化・普及が進行しており、20世紀的な産業構造が大きく変革していくうねりが感じられる。ベンチャービジネスを興したいと考える方々にとっては更なる事業機会がもたらされることであろう。伝統的な既存ビジネス側としては「イノベーションのジレンマ」を克服することは容易ではないが、その対応の仕方の巧拙により将来の企業業績の差は大きく出るものと考えられる。

図1 大企業によるデジタルイノベーションはなぜ上手く行かないことが多いのか?

図1 大企業によるデジタルイノベーションはなぜ上手く行かないことが多いのか? 出所:NTTデータ経営研究所にて作成