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各業界のプレイヤーが狙う戦略的要所『スマートホーム』
― スマートホームのデータから生まれる次世代マーケティング ―

情報戦略事業本部
ビジネストランスフォーメーションユニット
マネージャー 川戸 温志

スマートスピーカーの登場とスマートホーム

 「Googleの「Google Home(グーグルホーム)」、Amazonの「Amazon Echo(アマゾンエコー)」、Appleの「Home Pod(ホームポッド)」、LINEの「クローバウェーブ(Clova WAVE)」。昨年から、スマートスピーカーが続々と登場している。スマートスピーカーにはそれぞれAI音声アシスタントが搭載されており、「Google Home」にはGoogle Assistant、「Amazon Echo」にはAlexa、「Home Pod」にはSiriといった具合だ。

 スマートスピーカーの登場と共に、スマートホームがにわかに大きな注目を浴びている。スマートホームとは、家電製品や電気等のエネルギー、照明やカーテン、鍵などのセキュリティなどをスマートスピーカーの音声認識を通じて一元的にコントロールすることを指す。欧米では「コネクテッド・ハウス」とも呼ばれている。スマートホームは、消費者の視点から見ると、話しかけるだけで家のあらゆるものが自動的にコントロールできるSF映画のような世界である。一方、ビジネス的な視点で見てみると、スマートホームはIT業界、家電業界、不動産業界の各業界の大手プレイヤーが入り乱れる戦略的要所とも言える。

 家電業界では、シャープの「ホームアシスタント」などの「シャープスマートホームソリューション」、ソニーと東京電力の「TEPCOスマートホーム」、スマートHEMSやスマート家電を積極的に展開しているパナソニックは新しい住環境サービスの開発プロジェクト「HomeX」を発足させている。また、スマート家電メーカーのベンチャーとしてCerevo(セレボ)は、面白いIoT家電を続々と開発している。更に海を越えると、例えば韓国ではサムスンが「SmartThings」、LGが「SmartThinQ Hub」といったスマート家電を繋ぐスマートホーム用製品を展開している。

 不動産業界では、特にハウスメーカーがスマートホームの動きを見せている。例えば、大和ハウス工業は様々な住宅設備や家電がIoTを活用することで繋がる「Daiwa Connect(ダイワコネクト)」プロジェクトをスタートさせ、Google Homeによる音声操作ができる住宅を目指している。また、ミサワホームは従来のスマートHEMSに加えIoTを活用してライフサービス機能をワンストップで提供する「LinkGates(リンクゲイツ)」を商品化させている。オープンハウスは、ソフトバンクグループと共同で、IoTやAIなど最先端技術の実証実験の場として既存の枠組みにとらわれずアイデアやテクノロジーを”1つの家“に結集することでイノベーションを生み出していく「MASACASA!(マサカーサ)」プロジェクトをスタートさせている。
 このようにスマートホームは、IT業界、家電業界、不動産業界が注目するホットスポットとなっている。

スマートホームが注目を浴びる背景

 先述のような住宅や室内における家電・什器・住宅設備×デジタルという発想は、以前から存在している。では、なぜ近年急激にスマートホームが注目を浴びているのだろうか。それを解く鍵は3つあると考えている。①次世代ユーザーインターフェース(以降UI)、②AI、③One to Oneマーケティング、である。

 1つめの①次世代UI。現在FinTechの諸サービスやUber・Airbnbなどのデジタルビジネスがブレークスルーした要因の1つがスマートフォンにある。そして、このスマートフォンに次に来るUIがGoogle Home、Alexa、Siriなどの“音声アシスト”だと言われている。
 こうした音声アシストのメリットは、何と言っても両手が塞がることなく操作できる点にある。例えば、主婦の方が洗い物をして手が濡れている状態でも、声で家電を操作することが可能となる。更に、音声認識技術や自然言語解析技術が進み人間の言葉を正確に把握できるようになれば、操作時間も手動操作よりも音声操作のほうが圧倒的に短くなることが予想される。

 2つめの②AI。スマートスピーカーやIoTなどのデバイスが繋がる先には、必ずクラウド上のビッグデータが存在する。そのクラウド上に蓄積される様々なビッグデータをAIによって分析できるような環境も整いつつある。つまり、キッチン、リビングルーム、寝室、風呂など住宅内の様々な場所の家電・什器・住宅設備のデバイスがクラウド上のAIに繋がるようになり、そこに住んでいる住民の行動データ、趣味・嗜好、心理状態まで把握することができる世界が近い将来訪れようとしているのではないだろうか。

 この近い将来訪れようとしている世界が、3つめの③One to Oneマーケティングに繋がってくると考えている。現在でもインターネット上の消費者の行動はある程度追えるようになっているが、一方でリアルの世界でその人が何をしているかを把握することは困難である。勿論、SNSや位置情報などにより断片的には把握することは可能であるが、それはどちらかと言えば現在のインターネット上の消費者行動の把握の延長線上でしかない。その点、スマートホームではその欠落していたリアルの世界の消費者行動データも把握することができるようになるため、消費者の本当の姿が見えてくるのだ。
 これは時代を振り返って大局的な見方をすると、テクノロジーとビジネストレンドと取得データの間で起きている大きな潮流とも言えるだろう。つまり、時代と共にテクノロジーが進展し、テクノロジーの進展と共に新たなビジネストレンドが生まれ、そのビジネストレンドによって企業サイドは次第に個人サイドに侵食しつつデータ取得できるようになってきているのだ(図1参照)。

図1 時代と共に変遷するビジネストレンドに応じた取得可能データ

図1 時代と共に変遷するビジネストレンドに応じた取得可能データ 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 スマートホームに代表されるような個人サイドに近い情報としては、室内空間情報、思考・趣味、生活パターン・生活リズム、ライフイベントなどが考えられる。現時点では仮説の域を出ないが、これまではビジネスの商流は個人のニーズ発生がトリガーであったものが、こうした情報を企業サイドが取得することでニーズ発生を予測し、企業サイドから最適なレコメンドをすることが将来可能となるだろう。このように将来はビジネスのやり方、特にマーケティングが従来から大きく変わってくることは容易に想像がつく(図2参照)。

 ビジネスというのは如何に消費者が求めるものを創り、その商品を如何に本当に求めている消費者に届けるのかがビジネスの本質である。スマートホームによって得られたクラウド上の消費者のデータを活用することで、消費者が真に求めているニーズを捉えることもできるようになると共に、消費者が最も欲しいタイミングで欲しいものをレコメンドすることができるようになる。これこそビジネスの本質であり、真のOne to Oneマーケティングの実現である。従って、こうしたマーケティングデータは業界を超えた武器となることから、GoogleやAmazonのような巨人達の狙いの1つはこうしたマーケティングデータにあるのではないだろうかと思いを巡らさずにはいられない。

図2 個人サイドの取得可能なデータによって起こるビジネス機会(仮説)

図2 個人サイドの取得可能なデータによって起こるビジネス機会(仮説) 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

スマートホームから蓄積されるデータの市場流通の可能性とリスク

 2017年夏、ロボット掃除機ルンバの開発メーカーiRobot(アイロボット)は、ルンバで収集した部屋の間取りデータ販売を検討しているという報道を否定すると共に「ルンバの間取りデータは将来的にスマートホーム向けデバイスと通信して活用できると考えている」とコメントを出した。
 一方、日本国内においてもEverySense(エブリセンス)や日本データ取引所などIoTデータの売買仲介取引所が立ち上がっており、2017年2月に政府がビッグデータ売買の指針を発表している。このように国内外では、取得したIoTデータの活用・流通が広がりつつある。

 ただし、こうしたデータの活用には個人情報の漏洩リスクや不安が付き纏う。関係各社はユーザーの許可が無い限りは当然目的以外への活用は行わないとするであろうが、インターネットに繋がっている以上、漏洩リスクは完全にゼロとは言えない。企業が保有する顧客データの流出事件は日常的に発生し、社会に広く普及している防犯カメラを覗き見できるサイトが問題となったり、2018年に入り仮想通貨取引所コインチェックからNEM(ネム)が不正流出した事件が起きたりしている。従って、スマートホームの拡大やIoTデータの流通と同時にこうしたリスクへの更なる対策の必要性は言うまでもない。