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デジタル化時代のシステムモデルとチェンジマネジメント

株式会社NTTデータ経営研究所
事業戦略コンサルティングユニット シニアコンサルタント 山口 賢洋

1.システムモデルの変化

 近年、企業を取り巻く環境は加速度的且つ、不可逆的に変化している。その変化の中核にある要因の一つが、デジタル技術の革新である。新聞、雑誌など各媒体でも、ブロックチェーン、IoT、AI、RPA、VR、xTech(クロステック/エックステック)といった、今後のビジネスや社会活動に影響の大きいテクノロジー用語が紙面を賑わせている。
 既存ビジネスを脅かす、Uber、Netflix、Spotify、AirBnBがデジタルイノベーションの好例として盛んに取り上げられ、変革に乗り遅れれば時代に取り残され、淘汰されてしまうかのような不安を煽る言葉があふれている。まさに、ビジネスの成功の鍵は、ITが握っていると言っても過言ではない時代となりつつある。
 このような状況下、システムモデルも変化への対応が求められている。従前、企業の業務システムは、会計や生産管理などそれぞれの業務に特化したソフトウェアを組み合わせて利用していた形態から、各業務のデータを共有し、全体最適を目指す統合型ERPを導入する方向へ進んできた。しかし、予想以上にビジネス環境は激しく変化し続けており、すべての業務を統合型ERPにするとシステムが大きくなりすぎて柔軟かつ迅速な対応が難しく、更にアドオン開発が嵩むことで、運用コストやバージョンアップ対応のコストが高止まりするという課題が表出してきている。
 デジタル化時代以前では、統合された情報基盤上で共通のプロセスの雛形に沿って稼動するアプリケーションによって、情報の統合性、正確性、適時性を担保し、内部統制の強化を図ることが可能である統合型ERPの導入が、企業経営として最も有効な手段の一つであるとされてきた。
 しかし、デジタル化時代においては、社外に目を向けてイノベーションの種を積極的に取り入れ、小さな仮説検証サイクルを短期間で回して戦略と計画を適宜見直せる環境構築が重要である。つまり、今後の企業経営には、より一層の柔軟性と俊敏性が必要であり、差別化につながる機能の取り込みを行う必要がある。一枚岩的な統合型ERPを解体し、統合型ERPのメリットを享受すべき共通領域と、デジタルイノベーションの取り込みを志向すべき差別化領域を整理し、各々が疎結合で繋がる全体最適と個別最適のハイブリッド型のシステムモデルが求められてきているのである。

【図表1】 システムモデルの変遷

【図表1】 システムモデルの変遷 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

2.激化するビジネス環境変化への対応

 デジタルイノベーションか否かの捉え方は様々であり、その定義は議論のあるところだが、イノベーションを起こし、自らブルーオーシャン市場を作り出したと評される冒頭に挙げた企業のように、市場を創出することのみが、企業の持続的成長の解ではない。
 ライフサイクルの短命化がさけばれて久しいが、短命化するライフサイクルに対し、絶え間ないイノベーションを起こし、対応し続けることが容易ではないことは想像に難くない。
 むしろ、技術革新とライフサイクルの短命化により激変する市場環境下においても、新たなビジネスチャンスを掴み、収益性を向上できる適応力、変化できる力が重要と考えられる。
 国内市場は、総人口および、生産年齢人口減少により今後も縮小していくことが予想される。成長分野であっても、新技術を梃子に市場のルールを書き替えてしまうアマゾン・ドットコムのような破壊的イノベータの参入により、競争の激化が起きている。一方、海外へ目を転じても、成長市場である新興国市場に対し、現地のニーズ、プライスにあった製品、サービスをタイムリーに提供できるのか、より一層厳しいシェア獲得の競争環境が待ち受けていると言えるだろう。
 激変する競争環境下において、スタートアップ以外の企業では、跳躍して新たなビジネスモデルを作り上げ、シェアの獲得を目指すことは望ましくない。市場環境への適応の観点から、現在のビジネス、業務のデジタル化によって、製品、サービス開発の創造的活動を行える環境を企業内に整備すること、意思決定の迅速化、収益性向上を実現する組織改革を行い、競争に勝てる基盤を固めることから、イノベーション活動に取り組むべきである。

【図表2】 アプリケーションの投資ポートフォリオの考え方

【図表2】 アプリケーションの投資ポートフォリオの考え方 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 現場に貯まったナレッジやノウハウに基づく仮説力と、職責の垣根を越えて協業しながら経営課題に対処してきた日本企業においては、イノベーション活動に取り組むべく、環境の整備、基盤固めを行うためのハイブリッド型のシステムモデルの構築プロジェクトは、現場を巻き込むことで進みやすくなると考える。
 なお、系列会社やグループ会社との分業で経営を行うことが多い日本企業では、基幹システムとグループ間共通システムである社外システムとの連携など、コミュニケーションが複雑化し、難易度が高くなる傾向にある。従って、場当たり的なプロジェクト推進とならないためにも、システム企画、開発における統一的な共通認識、共通言語化を事前に明文化し、共有しておくことが必要となる。

3.デジタル化時代の開発に向けて

 共通領域のERPを残存させつつ、周辺の差別化領域の高度化、最適化を目指す際に課題となるのが、経営層や業務部門が、ITを業務効率化のツールとしてのみ捉えており、情報システム部門との人的交流も少なく、同じ企業内であっても共通認識、共通言語でのコミュニケーションが困難という問題を抱えていることである。このような問題を抱えている日本企業は少なくない。CIOが日本企業で根付かないのも、ITがビジネスの中心にいない証左の一端と言える。
 経済産業省が平成27年6月にプレス・リリースした「平成26年情報処理実態調査」によると、日本企業のCIO設置率は29.2%(専任者3.2%/兼任者26.0%)となっている。7割超の企業において、CIOが不在となっている。ただし、CIOを設置すべきであると提言したい訳ではない。問題は、CIOが置かれていない理由の52.6%が、「必要を感じていない」ことにある。つまり、ITの活用を経営課題として捉え切れていない企業がまだまだ多いのではないだろうか。
 激変する市場環境下においては、新たなビジネスチャンスを掴み、収益性を向上できる適応力、変化できる力を身に付けるべく、経営戦略、事業戦略に沿ったシステムモデルを構築し、構築後も柔軟且つ、俊敏に経営視点でPDCAを回せなければ、その企業は市場から淘汰されるのをただ待つことになりかねない。
 多くの日本企業が抱える構造的な課題に対し、経営課題としてIT構造改革に取り組む必要がある。しかし、IT構造改革に特効薬と言えるものはなく、様々なアプローチが必要である。IT構造改革そのものは、経営層とITリーダーがコミットし、意識統一を図ることができれば短期的に形だけは成就できるかもしれないが、改革の定着化や効果創出には2年から3年かかるため、即効性のある小さな取り組みも同時並行で行わなければ、現場の気持ちが離反するリスクがある。また、IT構造改革は、従前、情報システム部門が対応してきた目の前の開発、保守・運用と異なることを理解しなければならない。将来の経営課題へ貢献する投資であり、既に起きている目の前の課題に基づき改革を推進しても無駄な投資となるリスクがあるため、全員の意識改革が必要である。
 なお、即効性のある小さな取り組みとして、RPAをシステムモデルの中に取り込んでみる価値があると考えられる。RPAは、システム間を繋ぐ人手のプロセスが、比較的低コスト且つ、自動化によるROIが短時間で得られるように設計が考えられているため、共通領域のERPと、差別化領域のシステム間を繋げる役割を担いつつ、現場の部分最適の業務の効率化も図れるはずである。現場にナレッジやノウハウが貯まっている日本企業において、IT構造改革に現場を巻き込み、成果を実感してもらうにはRPAは最適なツールではないだろうか。
 なお、共通領域のみならず、デジタルイノベーションを取り込む差別化領域においても、本当のあるべき姿の策定と課題を抽出するために、トップダウン視点による業務の根本的な見直しと、ボトムアップ視点による業務の詳細検証を行う必要がある。業務および現行システム課題を踏まえ、全体最適と個別最適のハイブリッドの設計思想の下、「業務プロセス(業務量適正化、生産性向上)」「組織(権限の適正化、責任の明確化)」「資源の有効活用(情報の有効活用、人の有効活用)」の観点でBPR(Business Process Re-engineering)に取り組むべきである。
 更に、系列会社やグループ会社との分業で経営を行っている場合も、その役割の見直しを検討のスコープから外してはいけない。見直しに当たっては、システムやハード面だけでなく、人的ソフト面にも着目し、構造改革を成功裏に収めるためのチェンジマネジメントが必要不可欠である。
 経営視点でITを捉え、企業の成長戦略に貢献する①IT戦略の策定、②ITの開発・保守プロセスの改革、③IT組織・人材、人事評価、④IT資産アセスメント、⑤ITガバナンス、⑥上記①-⑤の構造改革のチェンジマネジメントなどを同時並行的に行うことが求められる。

【図表3】 IT構造改革への取り組みポイント

【図表3】 IT構造改革への取り組みポイント 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 こうした施策を通じ、IT構造改革を推し進めることで、激変する市場環境下においても、新たなビジネスチャンスを掴み、収益性を向上できる適応力、変化できる力を備えた、あるべき姿に近づくための開発ができるのである。

おわりに

 技術革新とライフサイクルの短命化により激変する市場環境下においても、新たなビジネスチャンスを掴み、収益性を向上できる適応力、変化できる力が、日本企業の将来の課題である。課題への対応として、柔軟性と俊敏性を兼ね備えたシステムモデルへの移行は一つの有力な手段と言えるが、実行には、IT構造改革の実現が重要である。改革が定着し、効果が創出されるまでの期間を考慮すれば、既に待ったなしの状態と言っても過言ではない。これを機に、IT構造改革への取り組みのきっかけとなれば幸いである。