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金融機関におけるSNSの活用方法を探る

株式会社NTTデータ経営研究所
エグゼクティブコンサルタント デジタルテクノロジー推進室長 山下 長幸

注目すべき顧客接点の1つ

 近年、LINEやFacebookなどソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の企業公式アカウントを開設する信用金庫が増えてきている。投稿内容は創業支援セミナー開催告知、祭り等地域行事への参加など広報 的な内容に加え、金融商品の販促キャンペーンなどがメインとなっており、公式ホームページとは異なって、信用金庫を身近に感じられる投稿内容となっている。
 様々なデジタル機器やサービスの進化により顧客接点が急速に増える中で、大手のSNS企業は千万人単位の登録ユーザーを有している。もはやSNSは、地域金融機関としても積極的に取り組むべき顧客接点の1つであると考えられる。
 本稿では、信用金庫としてこれからのソーシャルメディアマーケティングにどう取り組み、どう進化させていくべきか、考察してみたい。

SNSのメディア特性

 そもそもSNSは、生活者個人が世の中に情報発信ができ、様々な人たちが双方向でコミュニケーションできるという、これまでのマスメディアにはないメディア特性を有した場であることを、企業としては強く認識する必要がある。つまり、生活者個人の情報発信・双方向コミュニケーションの場に、企業も1メンバーとして参加するわけであり、そのような場としての空気感に沿った振る舞いをする必要があるのだ。
 企業としては広告宣伝というより、「顧客との対話の場」としてSNSを活用し、商品・サービスニーズを探索したり、ファン顧客醸成のためにSNSを活用することに重点を置くべきである。地域金融機関は、顧客と対面するFace to Faceの営業力を強みとしてきたが、これからはSNSというデジタルの場における信金職員と顧客間の対話にも、これまでの強みを活かす時代が到来したと考えられる。

主なマーケティング関連のSNS活用分野

⑴ 情報発信
 主なマーケティング関連のSNS活用分野としては、まず「情報発信」が挙げられる。これは企業による広報や広告宣伝がメインの投稿コンテンツとなる。
 大手のコンビニエンスストアチェーンなどは、スイーツや飲料など、新商品紹介や販促キャンペーンの投稿が中心となっている。コンビニ店舗では取扱商品点数が非常に多いため投稿ネタが豊富なので、例えば、Facebookページには、基本的に休日を含み毎日2〜3個のコンテンツ投稿という頻度で実施している。
 ポイントは、各業務の担当者が自身の言葉で業務の苦労や商品・サービスの由来やうんちくを語りながら、さりげなく宣伝もしているところである。この方法だと、非常にパーソナル感を表に出し、広告宣伝色を抑えているため、SNSという個人による情報発信媒体の特性にもマッチする。
 これらの投稿には、個人ユーザーからのコメントも相当数投稿され、企業と顧客とのコミュニケーションの場としても活用されており、顧客のファン化に役立っていると想定される。日本航空の場合、基本的にFacebookページには、休日を除き、毎日1個のコンテンツ投稿を実施している。

 ● 地域金融機関にふさわしい広報・販促投稿コンテンツ
 日本航空のような各部署の社員によるFacebook投稿コンテンツなどであれば、金融機関でも応用可能であろう。営業店やネットバンキングなどの顧客接点部署の苦労話、審査部門・調査部門等の管理部門など、業務のうんちく紹介などを語る内容は様々考えられる。また、預金、為替、融資などの金融商品も、商品設計のこだわりや、顧客向けに預金やローンなどに関する金融基礎講座風コンテンツなども考えられる。
 さらに、Face to Faceの営業力に強みのある地域金融機関としては、顧客企業が提供している商品・サービスのうんちくやこだわりの紹介、個人顧客の趣味の紹介など、地域密着金融機関ならではの強みを活かした投稿コンテンツも考えられる。
 地域全体の振興という意味では、地元の名所旧跡や商店街紹介などを信金職員目線で紹介する地元密着の投稿コンテンツも考えられる。このように地域金融機関としては、大手金融機関には実施が難しい投稿コンテンツで、差異化を図るべきである(図表1)。

【図表1】 ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の経済・社会的な意義

【図表1】 ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の経済・社会的な意義

 ● 自金庫の顧客データとSNSのユーザーデータを紐付け
 SNSでは、自金庫の顧客データとSNSのユーザーデータを紐付けして、マーケティングを実施することも可能である。例えば、Facebookではカスタムオーディエンスというサービスを提供しているが、広告主企業が保有している顧客リストの電子メールアドレス、電話番号、FacebookユーザーID、モバイル広告IDを活用し、Facebookユーザーを紐付けすることにより、自金庫顧客かつFacebookユーザーを抽出することができる。よって、自金庫の取引履歴およびFacebookでの顧客情報を活用し、ターゲットを絞った広告出稿をすることが可能である。

⑵ 企業コミュニティサイト運営
 主なマーケティング関連のSNS活用分野の二番目としては、「企業コミュニティサイト運営」が挙げられる(図表2)。企業コミュニティとは、企業が商品開発やサービス改善などのテーマを設定して、それに対して生活者の意見を求め、ディスカッションをしたりする場を設定・運営する仕組みである。
 例えば、本田技研工業では公式ホームページに「クルマ家族会議」というコミュニティがあり、これがなかなかイケている。このコミュニティでは、「クルマ購入体験記」として「Honda車オーナーのみなさまがクルマ購入に至るまで、そこに起きた数々の波瀾万丈の物語や苦しかった胸の内を吐露していただくための告白スペースです」(本田技研工業ホームページ)と趣旨が説明され、「ご購入を考えたきっかけ」「ご購入までのエピソード・波瀾万丈のストーリー」「購入の決め手」「同じクルマを検討している人へアドバイス!」などの項目に沿って、投稿する仕組みとなっている。投稿する人にとっては、クルマ購入で苦しかった中にも感じた喜びを情報発信でき、クルマ購入を検討している生活者にとっては、とても参考になると考えられる。 このような仕組みであれば、地域金融機関としても、住宅購入の動機・物件探し・購入契約の苦労話や、住宅ローン検討や折衝に関する顧客ストーリーを投稿していただいたり、地道に倹約して積立定期預金を続けてきたヒストリー等を投稿していただくなど、地域金融機関の商品・サービスにも応用できそうである。
 企業コミュニティサイトの運営はかなり手間がかかるが、顧客の声を収集し、商品・サービスの開発や改善に活かしたり、ファン顧客の醸成を図るには、非常に効果的な手法である。

【図表2 】主なマーケティング関連のSNS活用分野(1) 情報発信

【図表2 】主なマーケティング関連のSNS活用分野(1)情報発信

 ● 高齢者層向けコミュニティ(高齢者層向けSNS)
 高齢者層向けコミュニティ(高齢者層向けSNS)については、高齢者層はパソコンやインターネットの扱いが容易ではないなど、疑問の声が多い。しかし、成功事例も存在する。DeNAが運営している「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」である。
 この倶楽部は「旅行をはじめとした趣味や興味があることの日記を書いたり、イベントを主催していろんな方と交流したりすることができる、趣味仲間が見つかるおとなのコミュニティサイト」(趣味人倶楽部ホームページ)である。利用者の7割が50歳以上、半数近くが定年退職済み、男性ユーザーが3分の2弱、女性ユーザーが3分の1強、スマートフォン保有率は5割超となっており、高齢者層はインターネット関連サービスには不向きであるという一般的な認識とは異なる状況となっている。人気のある趣味としては、国内旅行、写真・カメラ、音楽などとなっている。
 他の事例として、大王製紙が在宅介護者向けコミュニティ「もうひとりでがんばらない介護生活 けあのわ」を運営している事例もある。在宅介護者をしている方々同士で、悩みや工夫を寄せ合うコミュニティとなっている。地域金融機関においても、主力の顧客層である中高年層のお客さま対象にこのような仕組みを提供し、自金庫と顧客、顧客同士の交流を深め、顧客のファン化を促し、自金庫とのつながりをさらに強化していくことも可能である。

 ● 地域コミュニティ(地域SNS)サイト運営
 地域金融機関としては、地域コミュニティ(地域SNS)の取り組みも有効だ。地域コミュニティとは、比較的小さな地域単位ごとに、そのエリアの住人が参加できるオンラインコミュニティ(地域SNS)である。地域コミュニティ(地域SNS)には、趣味のサークル活動のみならず、その地域の行事や商店、防災や防犯などの情報を交換し、そのエリアの困りごとを、SNSを通じて住人間で話し合って解決の道を探る、ということも可能だ。
 このようなサービスに近い一般的なWebには、「ご近所さんを探せ!」「まちBBS」などがある。このようなサービスを地域金融機関として提供することにより、高齢者層だけでなく、エリアに住む青年層や中堅層の生活者と交流の接点を持つことができ、顧客層の拡大につながるものと考えられる。

 ● 法人顧客向けコミュニティ(法人顧客向けSNS)サイト運営
 企業向けのコミュニティに関する事例としては、大阪信用金庫による取引先の中小企業との関係強化に向けた専用の交流サイト(SNS)「だいしんなんでもネット」が挙げられる。
 このコミュニティの入会メリットを同サイトでは、「登録企業様は自社のPRページや『売りたい』『買いたい』『組みたい』のビジネスマッチングページで商品・サービスの売り込みや他社への発注、業務提携の依頼など、ビジネスマッチングと登録企業間の情報交換ができます!」とうたっている。企業間でも、SNSを活用できるという好事例である。

⑶ ソーシャルリスニング
 主なマーケティング関連のSNS活用分野の三番目としては、「ソーシャルリスニング」が挙げられる。ソーシャルリスニングとは、SNSに投稿されている内容を収集分析し、マーケティングなど、自社のビジネスに活かす活動である。Twitterは投稿内容を一般公開しているユーザーが非常に多いので、大規模なソーシャルリスニングの対象媒体として向いている。
 大手のコンビニエンスストアや携帯電話会社であれば、年間に100万件単位でのTwitter投稿があるため、分析も様々な切り口で可能となるが、規模の小さい地域金融機関では、そもそも自金庫に対するTwitter投稿が年間に数十件や数百件くらいで、その中でもビジネス的に注目すべきコメントは、非常に少ない状況となっている。そのため、自金庫の評判を把握するメディアとしては、Twitterは向いていない。しかし、住宅ローン、カードローン、ネットバンキングなど一般的な金融商品・サービスを検索キーワードとすれば、投稿数は非常に多くなるので、世の中の一般的な金融商品・サービスニーズの把握であれば、規模の小さい金融機関であっても実施可能である。
 しかし、実際に住宅ローンなどの一般的なキーワードで検索をかけると、住宅ローンと無関係な投稿や意味不明な投稿なども多数含まれており、ビジネス的に意味のある投稿内容はせいぜい5〜10%程度である。それらを選別することは非常に難しいため、弊社では、数百万のTwitter投稿情報からビジネス的に参考となる投稿コンテンツを抽出するサービスを開発した。

  

ソーシャルメディアマーケティングの進め方

 ソーシャルメディアマーケティングの取り組みを進化・高度化させていくには、以下のようなステップを踏むべきである(図表3)。

【図表3】地域金融機関顧客データとSNSユーザーデータを紐づけしたマーケティング Facebookビジネスコネクトの事例

【図表3】地域金融機関顧客データとSNSユーザーデータを紐づけしたマーケティング Facebookビジネスコネクトの事例

ステップ1:職員が個人で各SNSにユーザー登録・投稿
 職員が個人の立場で各種のSNSにユーザー登録をして実際に投稿し、それぞれのSNSの設計思想、機能的な特徴、場の雰囲気を把握することは重要である。同じSNSと言っても、LINE・Facebook・Twitterを例に挙げても、その設計思想は大きく異なり、提供されている機能、参加者や場の雰囲気はかなり異なる。
 コンビニエンスストア大手のローソンでは、LINE・Facebook・Twitter に加え、Instagramといった動画投稿SNSなど、19種類のSNSに公式アカウントを開設している。
 しかし、ローソンが開設しているSNSは、小売業に適したSNSであると考えられ、地域金融機関としてそのまま真似をすべきではない。地域金融機関としては、ファン顧客層向け企業コミュニティや高齢者層向けコミュニティ(高齢者向けSNS)、地域コミュニティ(地域SNS)への参加のほうが有効であろう。

ステップ2:各SNSに企業公式アカウントを開設
 企業公式アカウント開設準備には、様々なことを詰めに詰めて労力と時間を費やすよりは、ざっと検討して、とりあえず場に参加することが重要である。
 公式ホームページに掲載している会社概要などの基本情報の登録であれば、4、5時間もあれば十分である。FacebookやTwitterなど多くのSNSでは企業アカウント開設に費用は不要であるが、LINEに関しては公式アカウントを開設して本格的に取り組むと、年間で千万円単位の費用が必要である。しかし、LINE@の「フリー」プランであれば、投稿数月4回などの制約で無料運用が可能である。公式アカウントを開設したら、とりあえず手持ちの新商品・サービスなどの無難なコンテンツの内容を投稿するなどして、まずは参加してみることが重要である。

ステップ3-1:徐々に投稿コンテンツ内容などを充実
 他社のSNS投稿コンテンツ内容を参考にしつつ、自金庫として特徴のあるコンテンツを投稿する。どのようなコンテンツがユーザー顧客の反響が良く、どのようなコンテンツが今一歩なのかを試行錯誤しつつ、マーケティングノウハウを蓄積していくことが重要である。
 このような開発手法は「リーンスタートアップ(Lean Startup)」と呼ばれている。より少ない投資で、仮説の構築と検証のトライアルを繰り返してマーケティング精度を向上させていく開発手法である。当初は本部主導で投稿コンテンツを企画作成することになるが、しばらくするとネタ切れを起こしやすい。顧客リレーション向上のためには、投稿頻度は1日に1投稿など多頻度で実施すべきである。成功パターンが確立されてくれば、営業店も巻き込んで投稿コンテンツを作成しよう。そうすれば、ネタ切れが起きにくくなる。やる気のある営業店があれば、営業店単位でのアカウント開設も検討すべきである。

 ● SNSにおける有償での広告出稿
 なお、FacebookやTwitter等の主なSNSは、有償での広告出稿も可能である。マスメディアと異なり、登録ユーザーのアカウント情報、投稿内容などで、顧客ターゲットセグメントを細かく設定することができる。地域金融機関としては、営業エリアを限定して広告出稿する必要があるが、そのようなターゲット設定も可能である。数万円程度で広告出稿もできるため、様々なパターンを試行できるので非常に便利である。

ステップ3-2:ソーシャルリスニング
 ソーシャルリスニングを最も簡単に、無料で実施するツールとしては、Yahoo ! Japanの「リアルタイム検索」がある。例えば、検索ボックスにカードローンと入力してリアルタイムで検索すると、Twitter・Facebook・Instagramにおける外部表示可能としているユーザー投稿に関して、直近30日間(上限約1千件)の日本語の投稿が表示される。その投稿内容をざっと見ることで、どのような内容のものが投稿されているか、雰囲気をつかむことが容易にできる。
 それ以上の期間や投稿量のSNS投稿情報から検索分析したい場合は、有料のSNS投稿情報収集分析を提供している会社のサービスを利用することで可能となる。NTTデータは、日本で唯一のTwitter投稿データの再販売主体となっており、関連の分析サービスも提供している。

ステップ4:企業コミュニティサイトの企画開発・運営
 ステップ3-1のSNSへの広報・広告宣伝コンテンツの投稿やそこでのユーザーとのやり取りが軌道に乗ってきたら、ファン顧客層向け、高齢者層向け、地域向けなどのコンテンツを有した企業コミュニティサイトの開設・運営を検討すべきである。
 しかし、企業コミュニティサイトの企画開発・運営は結構、ハードルが高い。他社の企業コミュニティサイト事例などから自金庫にとって有効な機能を洗い出し、装備する必要がある。企業コミュニティサイトの事例としては、前述の本田技研工業などに加え、森永乳業の「Newの森」、資生堂の「おめかし会議」、無印良品の「IDEAPARK」、ソニー損保の「コエキク改善レポート」などがある。検討する場合は、職員自らすでに提供されている各種の企業コミュニティサイトを利用して実情を体感し、自金庫コミュニティ開設・運営に向けた示唆を得るべきである。

ステップ5:自金庫顧客IDとSNSアカウントIDを紐付けたマーケティングの実施
 Facebookは「カスタムオーディエンス」、Twitterは「テイラードオーディエンス」、LINEは「ビジネスコネクト」のWebページに広告主企業の顧客IDとSNSアカウントIDの紐付け方が説明されているので、その内容を検討することにより、実施が可能となる。

デジタル広告の時代

 これまで広告宣伝の主力はテレビ、新聞、雑誌などのマスメディアであった。インターネットの普及進化により、Web広告やソーシャルメディアマーケティングなどのデジタル広告の比重が急速に高まってきている。マスメディア時代は、世の中に情報発信できるのはニュースキャスター、著名な評論家、学識経験者やタレントなどに限られていたが、SNSの登場により一般大衆も世の中に情報発信ができるというパラダイムシフトが生じたのである。写真SNSや動画SNSなどへの流れなど、個々のSNSの栄枯盛衰は今後とも続くと思われるが、SNS自体が衰退するということは考えにくい。
 このような情勢にあって、地域金融機関においても、伝統的なマスメディアを使ったマーケティングからWeb広告やデジタル広告などのソーシャルメディアマーケティングへシフトする時ではないか。これまでの強みである職員による対面営業力に加え、SNSを活用した対話営業力を付加することも、検討実施すべき時代になった。ぜひここで、マーケティング・営業イノベーションを実現していただきたい。