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介護保険における保険者機能強化に向けた方策

ライフ・バリュー・クリエイションユニット ヘルスケアグループ
コンサルタント 西口 周
インフォメーションリサーチャー 大岡 裕子
シニアコンサルタント 大野 孝司

1.はじめに

 地域包括ケアシステムの一層の推進が求められる中、平成30年度介護保険制度の改正では「自立支援・重度化予防に向けた保険者機能の強化」が大きなポイントとなる。そこで当社では、介護保険者機能評価の観点から、「地域包括ケアシステムの構築や効率的・効果的な給付の推進のための保険者の取組を評価するための指標に関する調査研究事業」(平成28年度厚生労働省老人保健健康増進等事業。以下、H28年度調査)を実施した。
 本稿では、H28年度調査の内容・結果の一部を交えながら、地域マネジメントに向けた取組状況や、人口規模の大小等の地域特性による保険者の取組に偏りがある実態、また、保険者機能強化に向けたIoTやデータ利活用の方策について述べる。

※H28年度調査の報告書全文は以下ページに掲載。 http://www.keieiken.co.jp/services/lifevalue/h28kenkouzousin.html

2. 介護保険者機能の評価指標策定の背景

 介護保険制度には、全国一律の基準による要介護認定など、保険者間の差を抑制し適正化を図る仕組みがあるが、保険者や各地域では、高齢化の状況、地理的条件、独居等の家族構成などの必然的な地域差が多数ある。そのため、各保険者が地域差の存在について多角的な分析を行い、「地域の実態把握」「計画作成」「自立支援や介護予防に向けた多様な取り組み推進」「計画の見直し」を行うことで、地域の実情に応じた取組や継続的な改善活動を推進することが求められている。これらの活動を「地域マネジメント」と呼ぶ※1
 また、介護保険制度の改正に向けた検討過程では、「地域マネジメントによる地域包括ケアシステムの深化が着実に進むよう、取組のアウトカム指標やアウトプット指標(プロセス指標)を国が設定し、PDCAの一環として、市町村や都道府県が自己評価するとともに、国に報告する仕組みを設けることが適当である。」とされている※2

 以上のように、保険者機能を強化するための方向性が示された中、保険者の取組実態の把握と取組を推進するための指標の策定が必要であった。その保険者の取組実態を評価する指標については、平成25年度に全10項目の「保険者機能評価指標(暫定版)」が作成されていたが ※3、我々が実施したH28年度調査では先行研究を拡充する形で、保険者の取組全体を評価する指標案の策定と、それを活用した保険者の取組実態の把握のための調査研究を行った。

3.H28年度調査の調査概要

 H28年度調査では、介護保険制度改正のポイントである自立支援・介護予防に向けた取組の推進という観点に着目しつつ、アウトプット(プロセス)指標の検討に向けた項目案についての設問91問(図表 1)及びアウトカム指標の検討に向けた項目案についての設問52問(図表 2)を策定した。そして、①全国の保険者における取組状況や、保険者の人口規模や高齢化率等により取組内容に差があるか等を把握すること、②保険者におけるデータ算出における阻害要因及びアウトカムの受容性を把握することを目的として、全保険者の介護保険事業計画担当者に対するアンケート調査を実施した。
 なお、アウトプット(プロセス)指標とは、各保険者が行う取組の具体的な活動量・活動実績・経過を測定する指標を指し、アウトカム指標とは、各保険者の取組の成果を測定する指標を指す。

図表 1 アウトプット(プロセス)指標の検討に向けた項目案の構成

図表 1 アウトプット(プロセス)指標の検討に向けた項目案の構成

図表 2 アウトカム指標の検討に向けた項目案の構成

アウトカム指標の検討に向けた項目案の構成

 アウトプット(プロセス)指標の検討に向けた項目については、全項目の平均の取組達成率は46.5%であった。また、各項目について、人口規模による地域毎の取組の達成率(実施しているか否か)の偏りの有無を分析した結果、指標ごとまたは施策ごとに、達成率のばらつきが見受けられた。特に、「地域マネジメントの点検・改善」「医療介護連携」等に関する項目は、小規模自治体において達成率が低い項目が見受けられた(図表 3)。

図表 3 アウトプット(プロセス)指標の人口規模別の取組達成率

アウトプット(プロセス)指標の人口規模別の取組達成率

 また、アウトカム指標の検討に向けた項目については、「保険者の受容性」を確認するために各項目の回答可能率(回答できたか否か)をみた結果、「2. 要介護状態の維持・改善」「3. 健康づくり」、「4. 医療・介護連携の推進」の項目に関しては、回答可能率が80%未満であった(図表 4)。回答困難な理由としては「人材不足」や「算出方法が不明」「算出する時間がなかった」といったことがあげられた。

図表 4 アウトカム指標各項目の回答可能率

図表 4 アウトカム指標各項目の回答可能率

4.保険者機能の強化に向けた現状と方策

 H28年度調査から「地域マネジメントに向けた取組の達成率やアウトカム指標の受容性は十分に高くはない」「自治体規模によって取組の達成率に偏りがある」といった現状が見えてきた。そして、これらを引き起こす原因としては、人材不足や業務過多といったことが推測される。つまり、自治体の業務負担を解消しPDCAサイクルを効率的に回す抜本的な取組が必要と考える。

 そこで、保険者機能の発揮にあたり自治体職員の業務を改めて整理・構築する必要がある。保険者は自らが住民向けに行政サービスを提供するよりも、医療・介護関係者との連携により適切なサービス供給体制を整えたり、品質管理をすることが求められる。
 地域マネジメントにあたっては、図表1のIIにある通り、

  • 地域密着型サービス
  • 地域包括支援センター
  • 医療機関
  • 介護支援専門員、介護サービス
  • 介護予防・日常生活支援事業の多様な担い手

など、多数の関係機関、事業所があり、各サービスの品質管理には多大な人手・時間・コストを要することは容易に想像できる。   

 これらの事業所に蓄積されているデータまたはIoTなどの技術によりデジタル化が可能なデータについては大いに利活用すべきである。
 例えば、アメリカのナーシングホームでは施設の取組やそのアウトカムとなる数値を項目化し、連邦レベルで提出を義務付けることで全体の98%ものナーシングホームのデータをデータ基盤で継続的に「取得・集約」している。そして、これらのデータを活用して施設ケアの質を「見える化」し、地域単位での品質チェックや施設へのフィードバックをすることで、ケアの質改善に結びつけるマネジメントシステムが機能している※4

 国内においては、給付データは電子化されているためひとつの指標として活用可能である。その他、施設の業務点検結果や利用者の声などと組み合わせることにより、結果とプロセスの実態がデータ化されると更に価値が高まる。例えば、要介護度の重度化予防の成果を挙げやすい施設、挙げにくい施設の間に取り組む業務等の違いがあるのかを科学的にも明らかにし、保険者による指導・介入を要する施設の抽出や介入すべき内容について、データをもとに推奨するといったことが考えられる。点検項目はWebアンケートで収集し、データ解析は複数の市町村のデータ蓄積によってAI等で抽出・推奨の精度を上げていけば、自治体職員の作業負担をかけずにデータ収集、解析が可能となる。

 その他、高齢者の社会参加や日常活動の活発化を支援するために、ウェアラブル端末やICカード等を用いて活動状況を収集することもできる。高齢者においては社会活動そのものが要介護度の維持・改善や介護予防につながるため、これらを重要なPHR(Personal Health Record)として収集し、サービス提供事業者やケアマネジャーが活用するシーンが考えられる。保険者としては、外出頻度が少ない地域に重点的に介入し、日常活動の活発化により要介護度の改善が見込まれる対象者を抽出してアプローチすれば、効率的・効果的な要介護度改善の施策につなげられる可能性がある。保険者においても全ての地域に通り一遍の施策を普及させるのではなく、日常生活圏域ごとの実情を捉え、限られた自治体の経営資源で最大の効果を出すための地域マネジメントを志向すべきである。

5.おわりに

 いわゆる団塊世代が75歳以上となる2025年、さらにその子供世代の団塊ジュニア世代が65歳以上となる2040年に向けて、大都市やその周辺都市、地方都市、中山間地域等、地域によって高齢化の状況が多様化し、それに伴い介護需要の地域差も拡大することが想定される。そのため、保険者が地域特性に応じた取組を創出し、地域の実情に合わせた地域包括ケアシステムを深化・推進していく支援体制が重要である。
 今後ますます地域差が拡大する中、政府による全国共通の施策には限界がある。地域で取得・活用可能なデータに改めて着目し、それらを活用しながら地域課題にあわせた対応を戦略的に展開することで、生産性向上や地域マネジメントの質的向上を実現し、介護保険者機能の強化によって安心して生涯を暮らせるまちが増えていくことを期待したい。

  • ※1 社会保障審議会介護保険部会(第64回)(平成28年9月23日)資料1
  • ※2 社会保障審議会介護保険部会(第70回)(平成28年12月9日)資料1
  • ※3 平成25年度厚生労働省老人保健健康推進等事業「介護保険の保険者機能強化に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
  • ※4 澤田如、近藤克則(2007)「米国におけるケアの質マネジメントシステム -文献レビューと現場経験をもとに-」『病院管理』44(3): 293-302.