NTT DATA Global IT Innovator
NTTデータ経営研究所
English  お問い合わせ  サイトマップ
戻る サイト内検索
戻る

デジタル時代に求められるCDOのミッション
~データ砂漠から針を見つけるCDO~

事業戦略コンサルティングユニット
シニアコンサルタント 佐藤 浩之、山口 賢洋、渡邉 枝未
コンサルタント 細沼 大介

1.デジタル技術革新による個人および企業行動の多様化

 「アップルは今日、電話を再発明する。」―2007年1月アップルコンピュータが初代iPhoneを発表する際に、当時のCEOであったスティーブ・ジョブズが発した言葉である。あれから10年の歳月がたった。今や国内のスマートフォンの普及率は7割を超し、われわれはいつでもどこでもインターネットを通じ、膨大な情報にアクセスできるようになった。一方、技術の進歩によって超小型のセンサーが開発され、あらゆる製品、サービスにセンサーが組み込まれるようになった(図表1-1)。これらセンサーなどを通じ、従前、アクセスすることが難しかったデータも取得、測定できるようになった。

図表1-1 世界のセンサーの出荷台数の推移

図表1-1 世界のセンサーの出荷台数の推移 出所:総務省「情報通信白書」(平成28年)よりNTTデータ経営研究所にて作成

 センサーをはじめとするデジタル技術の革新により、今日、個人および企業がアクセスできる情報の量や種類が飛躍的に増加している。実際、情報量の増加は如実にデータに表れている。2014年の国内のビックデータ流通量は1452万テラバイトにも達し、2009年の流通量の3.6倍である(図表1-2)。

図表1-2 国内ビッグデータ流通量の推移

図表1-2 国内ビッグデータ流通量の推移 出所:総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)よりNTTデータ経営研究所にて作成

 従来、企業は組織ごとにデータを収集してきた。組織縦割りでデータを管理し、組織間での情報共有が行われないため、断片的なデータ分析にとどまっていた。しかし、近年、デジタル技術の利活用によって膨大なデータの管理が可能となった。また、これらのデータを組み合わせることにより、多角的な分析が可能となり、付加価値の高いサービスを提供できるようになった。つまり、企業全体で統一定義によるデータ収集・分析を行い、バリューチェーン全体でデータを最大限に生かすことが競争優位の重要な源泉になりつつあると言えるだろう。
 例えば、動画配信サービス大手のNetflixは「いつ」、「なにを」、「どこで」、「どんなデバイスで」という基本的な視聴行動だけでなく、「一時停止、早送りや巻き戻しのタイミング」や「視聴し始めた時間や視聴し終わった時間」等の行動もビッグデータ化し、視聴者情報と紐付けることによって趣向別での顧客のクラスター化を行い、レコメンデーション機能の精度強化に寄与した。さらに同社は当該データを活用し、趣向別での映像製作にも乗り出し、新規事業拡大を図っている。
 また、製造業大手のGE(ゼネラル・エレクトリック)では小型化されたセンサーを活用し、同社への顧客満足度を上げるとともに新たなサービスを展開している。同社は自社で開発しているエンジンにセンサーを組み込んだ。エンジンは高度1万mという極限の環境下で動作しているために故障の予兆が読みづらく、航空会社はトラブルに備えて常に部品や人員を備えておく必要があった。しかし、センサーを組み込むことによってエンジン内部の状況を逐一把握することで、航空会社はトラブル発生を事前に把握することができるようになり、余剰なリソースを備える必要がなくなった。また、取得されたエンジンの稼働データと併せて天候や燃料消費量等のデータを組み合わせて分析することにより、燃料効率のよい航路の導出が可能となり、これらの情報を航空会社に提供できるようになった。
 近い将来、身の回りのあらゆるものがインターネットに接続されることにより、人間の活動や自然現象がデータ化され、取得可能な情報の範囲が大幅に拡大すると予想される。また、このような流れは個人や企業の行動にさらなる多様性を与えるだけでなく、モノの価値を多様化する可能性を秘めている。
 今後の企業成長には多種多様のデータやデジタル技術を最大限活用し、外部環境に合わせてビジネスや組織の仕組みを構造転換することが求められるが、現場の力を成長エンジンに個別最適化が進み過ぎてしまった組織において、各組織の利害関係を調整しながら、柔軟に事業を再構築することは容易ではない。外部環境がダイナミックに変化し、企業および個人の行動がより多様になる中、強力なリーダーシップによる組織改革および事業変革は遍(あまね)く企業に求められる喫緊の課題と言える。

2.情報産業革命時代に求められるCDOのミッション

 既に、データとデジタル技術を利活用して、従前のビジネスや組織の仕組みを顧客や市場に合うように構造転換するデジタル・トランスフォーメーションの動きが国内外の企業で見られる。このデジタル・トランスフォーメーションをつかさどるのがCDO(Chief Digital/Data Officer)である。
 CDOは、データの価値を十分に生かす力を競争優位の源泉と捉え、データの収集、分析からセキュリティを考慮した管理までを行う重要な職能として、新たに台頭してきているポジションである。CDOは、統一的なデータに責任を持ち、データ資源の活用法についての教育や啓発、データ関連の権利やアクセスの監視、高度なデータ解析によるバリューチェーン全体での活用促進などを行う。
 企業に変革をもたらすCDOには、社内外の幅広い知見と人脈および交渉力が求められる。企業内の信頼関係を構築するため、自社ビジネスの知見を持ち、社内のキーパーソンと人脈を築くと共に、CEO(Chief Executive Officer)から信任を得、実行予算を獲得するなど、社内政治力は必要不可欠なスキルである。
 また、組み合わせ次第で価値を高められるデータは、自社のデータだけとは限らない。社外のデータリソース、人脈を活用し、企業の成長を促進させるのもCDOの役目である。
 データの量、複雑さ、戦略的重要性が増している中、社員が個別にデータを管理し、解析力を培い、セキュリティを守るのは、現実的ではないだろう。データの収集、集約、分析を一手に引き受け、社内全体でデータや知見を利用可能にするためにデータサイエンティストなどを有するデータ専門組織を設ける動きが多くの企業に広がっているが、そのような専門組織の責任を負うのもCDOの責務である。
 専門組織を率いるためには、分析活動の戦略を立案し、データ間の関係、流れを解明、把握できる分析スキルだけでなく、デジタル技術とビジネス、両分野の見識を持ち、分析から得た知見をCEOやCIO(Chief Information Officer)、CMO(Chief Marketing Officer)に説明できるスキルも必要である(図表2-1)。その際、先進テクノロジーの知識を有し、自社のビジネスにどう生かせるかを判断し、製品やサービスへの反映の検討も行う。

図表2-1 データを利活用する経営層の概観

図表2-1 データを利活用する経営層の概観 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 データ分析から導き出した戦略を実行に移すためには、分析結果の有効性について信頼を得る必要がある。分析結果の有効性は、データそのものの信頼性や価値が保証されているか否かが重要であり、その運用設計もCDOが担う。データの信頼性や価値は、テクノロジーというよりも、責任の所在や監督が明確になっており、データの収集プロセスやデータそのものが共有されていることによって保証されると考えられる。
 今や、事業戦略を各組織に落とし込んだKPIの設定は、データ抜きで語れなくなっている。各組織の目標の進捗(しんちょく)状況や組織のパフォーマンス状況を測定可能な定量データにし、KPIに落とし込むための設計もCDOが支援する。これは、デジタル・トランスフォーメーションをつかさどるCDOのKPIが、各組織のKPIの基盤になることから、CDOが組織共通の評価基準を作成する必要があるためである。
 なお、CDO自身のKPIは、従前、CIOやCMOが中心となってきた、生産性向上や顧客とのリレーション強化などと異なり、データの収益化やガバナンス、競争優位性の確立などが設定される。
 CDOの活動は、グローバルで起きている新しい波に対応する動きであり、データとデジタル技術を駆使して、自社の持つ潜在的な能力を、より付加価値の高いサービスへ作りかえる変革を試行錯誤しながら目指すものである。新しいことにチャレンジすることは痛みを伴うことであり、実行に移すと失うものもあるかもしれず、各組織が痛みに耐えられるかも問われてくる。CDOは、持続的に試行錯誤が行えるよう、失敗を許容する風土を作りながら、企業を成長に導いていくことが求められる。

3.CDOに求められる人物像とそれを支える制度

 企業にはこれまでも、ITシステムや情報統制を主な任務とするCIOや、マーケティング戦略の責任者であるCMOといった人物が存在している。しかし、デジタル技術の飛躍的な革新や、扱う情報の多様化、複雑化といった企業を取り巻く事業環境の変化に対応するためには、CIOやCMOよりもさらに広範なスキル、人脈をもつCDOが求められる。
 現代のデータ砂漠とも言うべき、膨大かつ多種多様なデータを分析・活用する人材とはどういった人物が求められるのか考察したい。
 先に述べた事業環境の変化から、あらゆる企業は、いわゆる「金のなる木」の収益が悪化するリスクに備え、事業構造の変革が求められる。事業構造の変革は、企業にとって非常に体力のいることだ。これまで知見の無い分野へ投資を行う決断が必要である。CDOはこれらの事業構造の変革を提言し、情報の側面からその実行をサポートすることが求められる。
 事業構造の変革は、いわば創造的破壊である。新規事業を創出する一方で、収益性の低い事業から撤退する。会社としては妥当な判断であっても、現場の社員や担当役員にとっては認めたくない事態であることは想像に難くない。当然、関連部署からは強い反発が予想され、社内調整に手間取っている間に事業環境はさらに変化する。抵抗勢力と調整し、新しい体質へ改善できる人物がCDOとしてふさわしい。
 CDOの設置にあたっては、その専門性から外部招聘(しょうへい)する事例が主である。特にソーシャルデータを利用しながら顧客の購買行動等を分析する場合は、先進テクノロジーの知識を有する専門家を迎え入れる事例も散見される。実績ある専門家を外部招聘し、即戦力として迎え入れることは変化の速いデジタルビジネスで理にかなっている。
 一方で企業によっては、社内で育成することの利点が大きい場合もあるのではないだろうか。製造業では、データの活用が企業の競争力に大きく影響する。Industry4.0に代表される工場のIoT化が注目されて久しいが、生産管理分野における機械化、自動化はこれまで広く取り組まれてきたところである。製造業における競争力の源泉は、モノづくり、すなわち工場にあることは疑いなく、CDOは自社のコア・コンピタンスである工場(モノづくり)の実態を理解しないことには、適切な戦略は立てられない。特に製造業においては、自社の実態に合った戦略立案のためにモノづくりの本質的な理解が求められることから、社内での育成が望ましいのではないだろうか。
 CDOには全社横断的な調整が求められるため、企業側は組織体制の整備を行い、その役割をサポートすることが望ましい。CDOの業務はデータ分析に軸があるという意味でIT部門と関連が深い。しかし、事業構造の変革に有益な情報は、実は組織縦割りで独自に管理していることが多い。システム構築では、各部署の共通の利益が得られる形で実現することが、費用対効果の点で合理的で、通常、IT部門が業務的な情報を積極的に集約することはない。だからこそCDOの役割に価値がある。全社的な戦略立案にあたり部署間の連携が重要なCDOにとっては、IT部門よりむしろ社長直轄プロジェクトや経営企画に近い位置づけでの立ち振る舞いが必要になるだろう。

図表3-1 CDOの力を引き出す組織体制

図表3-1 CDOの力を引き出す組織体制 出所:「ビッグデータ・IoT・AI総覧2016-2017」を参考にNTTデータ経営研究所にて作成

 CDOは単なるデータアナリストではなく、企業の明日を決める戦略をCEOと共に立案する立場にある。企業は短期的に変革の苦しみがあったとしても、確固たる意志をもって推進できる権限、組織体制、評価制度といった砂漠のオアシスを整え、CDOをサポートすることが必要だろう。

4.CDO設置に向け、チェンジマネジメントが必要

 飛躍的にデジタル技術が革新し、企業が扱うべきデータが膨大かつ多様化する中で、企業が抱えるデジタルビジネスにおける課題である、新規事業の創出や顧客接点の強化のためには、必要な情報のみを取捨選択し、事業戦略や自社の製品やサービスに新たな価値を付加する役割としてCDOが必要であることは明白である。
 実際、2019年までに大手企業の90%がCDOを設置するという予測もある。その一方で、約半分の企業でCDOの設置に失敗するだろうという悲観的な見方もある※1。デジタルビジネスにおける課題解決の一手として、CDO設置を考える国内企業も増えてくるだろう。CDOの設置成功のための留意点について最後に整理をしたい。
 先に述べたようにCDOは、CEOなどの経営層に事業構造の変革を提言し、データの側面からサポートすることが求められる。求められる役割を考慮すると、既にCDOを設置している企業と同様に、外部環境の変化の波に乗るためには外部招聘に頼らざるを得ないというのが実状だろう。CDO を外部招聘し、落下傘の如く配備したからといって目標が実現されるわけではない。CDOというイノベータが社内に新しい風を吹き込んだ際に、いかに組織や既存社員が機動的に動けるかが成功の鍵となる。そのためには、CDO設置にあたっては、組織・風土変革のための土壌作りが重要である。

  • 変革が必要だと思う社員が2割程度存在するのか
     ロジャースのイノベーションの理論によると、変えねばならないという強いチェンジマインドを持つ改革者「イノベータ」と協力者である「アーリーアダプタ」を合わせた16%を確保できると、改革の連鎖反応が始まるという実験結果がある※2。CDO設置の際に、自社の抱える課題、CDOのミッション、打ち出した方針を理解し、積極的に協力しようとする社員を約2割確保する必要がある。
  • 従来型のビジネスモデルが通用しないことを理解しているのか
     デジタルビジネスには、失敗がつきものである。デジタル技術は日進月歩で進化している。それらの技術を活用し、新規ビジネスを始めるには、これまでのウォータフォール型ではなく、失敗を素早く改善しビジネスにつなげるリーンスタートアップなどのアジャイル型の手法を用いていく必要がある。かのGEも、企業風土改革の一環として、社員全員にプログラミング、リーンスタートアップ、デザイン思考などの学習を必須としている※3。新しい手法をキャッチアップしつつ、かつ、失敗を許容する風土作りが重要である。
     CDO設置のための土壌作りを行ったうえで、CDOを設置し、小さな成功を積み上げ、改革の火を消さないことにより、課題が自分たちのものであるという当事者意識や、変化していく必要があるという危機意識が多くの社員に醸成される。結果として、CDOが行おうとする改革が円滑に進められると言えるだろう。

5.おわりに

 デジタル技術の進歩が止められない以上、企業は膨大なデータと戦わざるを得ない。広大な砂漠ともいえるデータの中から、有用なデータのみを取り出し、針穴に糸を通すが如く、自社サービスと組み合わせて新しいサービスを紡いでいくことがCDOには求められている。CDOには高度なミッションがある上に、CDOを成功裏に導くためには、チェンジマネジメントが求められる。しかしながら、CDOの設置が円滑に進めば、必ず企業のデジタルビジネスの成功に寄与するだろう。CDOの設置を検討する際の一助となれば幸いである。


  • ※1 日経コンピュータ(日経BP社、2016年3月31日号)
  • ※2 イノベーションの普及 Everett M. Rogers 著 三藤利雄 訳(翔泳社、2007年)
  • ※3 日経コンピュータ(日経BP社、2016年9月1日号)