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デジタル化時代のIT部門に求められる役割とは

情報戦略コンサルティングユニット
シニアコンサルタント 小坂 慶之

(2017年4月5日 一部改稿)

1.デジタル化時代の到来によるビジネスとIT部門を取り巻く環境の変化

 クラウド、ビッグデータ、AI、IoT、モバイルデバイス、ウェアラブルデバイス、ソーシャルメディア…、デジタル技術は日々ものすごいスピードで進化し、私たちの生活に大きな変化をもたらしている。特に、BtoCビジネスにおいてはデジタル技術の活用はもうすっかり当たり前のものとなった感もあり、企業はデジタル化によって顧客との接点を増やすと共に、顧客体験の提供に関するさまざまな試みも実施している。また、BtoBビジネスにおいても近年デジタルマーケティングが積極的に行われる等、どのようなビジネスにおいても、もはやデジタル化は無視できないものとなってきている。
 一方、実際にデジタル化対応の一端を担うIT部門に目を向けてみると、スピーディなサービス提供・展開や柔軟性といったこれまでとは違った要素が重要視されると共に、担当者に求められるスキルや知識、あるいは事業部門との関係性も変わってくる等、デジタル化時代に合った組織体制やマネジメントが求められていると予想される。
 本稿では、デジタル化の取り組みにおいてIT部門にどういった役割が求められるのかという点について、いくつかの事例を通して考えていきたい。

2.デジタル化の取り組み事例

 それでは、実際にデジタル化に取り組んでいる企業は、どのような組織体制でそれを進めているのだろうか。また、その中でIT部門はどういった役割を担っているのだろうか。
 ここでは、日本情報システム・ユーザー協会の行った調査※1に倣って、デジタル化推進体制のパターンごとに、実際の取り組み事例を見ていく。

  1. ① IT部門主導型(金融機関A社)
     金融機関A社では、人口動態の変化や顧客のライフスタイルの変化、競合の最新技術を活用した取り組み増加等の外部環境の変化から、攻めのIT投資やデータ分析によるマーケティング強化の必要性が声高に叫ばれ始め、「本部のIT関連部門メンバーの中に現場(営業店)の業務に精通した人材を加えたプロジェクト型組織」としてIT戦略部門が発足した。デジタル施策も含めたIT戦略の策定・実行はもちろんのこと、R&DやPOCを含めた営業店・事業部門のマーケティング活動支援についてもIT戦略部門の役割となっており、そのための外部ベンダーや外部コンサルとの連携等についてもIT戦略部門(担当チーム)主導で実施されている。
     また、上述の通り、IT戦略部門には営業店の人材がメンバーとして含まれているが、さらに営業部門、マーケティング部門といった本部の事業部門との連携や人材交流も行われており、実際にはIT戦略部門と本部の事業部門、そして営業店の三位一体に近い形で、ビジネス貢献に資するIT戦略の策定・実行が進められている。(図表1参照)

    図表 1 デジタル化推進体制 - ①IT部門主導型(金融機関A社)

    図表 1 デジタル化推進体制 - ①IT部門主導型(金融機関A社) 出所:NTTデータ経営研究所にて作成
  2. ② 事業部門主導型(日産自動車)
     早くからデジタル化に力を入れているという日産自動車では、事業部門主導で取り組みが進められている。具体的には、マーケティング本部内にデジタルコミュニケーションチーム、新規ソリューション推進チームといったチームが作られ、そこでソーシャルメディアやWebを活用した各種デジタル施策の検討・実施が行われている※2, ※3
     一方、IT部門であるグローバル情報システム本部は、シリコンバレーに設立されたIS/IT Silicon Valley Officeという研究開発拠点と連携してビッグデータ分析基盤を構築。基幹システムやインターネット、あるいは車から上がってくるさまざまな情報を集約し、データサイエンティストが分析モデル構築やPOC、データ活用のニーズ・機会の研究を実施、その結果を業務側に展開して使ってもらう、ということが行われている。また、クラウド利活用によるソーシャルメディアやノン・ビークル系システムのデータ活用、アジャイル開発や日産・ルノー共通のブランドマネジメント実現を見据えたデジタルプラットフォームの構築にも取り組んでいる※4, ※5, ※6。(図表2参照)

    図表 2 デジタル化推進体制 - ②事業部門主導型(日産自動車)

    図表 2 デジタル化推進体制 - ②事業部門主導型(日産自動車) 出所:本文中で引用した公知情報よりNTTデータ経営研究所にて作成
  3. ③ IT部門・事業部門共同型(リース会社B社)
     リース会社B社では、新基幹システムの検討が契機となってIT部門内にAI検討チームが発足し、AIを活用した審査業務の効率化・高精度化に関する検討がスタート。一連の業務の中でどの部分にどのような形でAIが活用できるかといった基本的な検討から、AIに関する知見の豊富な同グループの研究所や外部ベンダー/外部コンサルとの情報交換・連携と協働でのPOC実施、さらには、外販ビジネスやWebダイレクトマーケティングのような営業活動への展開に関する検討まで、全て当該検討チーム中心で進められている。
     一方、事業部門側は、全社横断的な業務改革を推進するBPT推進部という部署が検討に参画しており、AI検討チームの検討結果を受けて、AI導入による具体的な業務影響の把握や業務実態を踏まえた改善案の提案、業務プロセスの見直し等を担っている。
     時を同じくして実施された大きな組織変更によりIT部門とBPT推進部が同一本部の配下に置かれたこともあり、両者は定期的にコミュニケーションを図りながら、一体となってAIに関する検討を進めている。(図表3参照)

    図表 3 デジタル化推進体制 - ③IT部門・事業部門共同型(リース会社B社)

    図表 3 デジタル化推進体制 - ③IT部門・事業部門共同型(リース会社B社) 出所:NTTデータ経営研究所にて作成
  4. ④ デジタル化専門組織主導型(飲料・食品メーカーC社)
     飲料・食品メーカーC社では、各事業部に所属していた人たちを集める形で、経営企画本部の中にデジタル戦略部が設置され、消費者の行動分析やマーケティング活動の支援、EC企業と連携した取り組み等が進められている。
     一方、IT部門側としては、デジタル戦略部の検討内容等も踏まえたIT戦略策定を担うホールディングスのIT部門と、IT戦略の具体化・実行を担うシェアードサービス会社の業務システム部が中心となってビッグデータの分析基盤を構築、デジタル化の取り組みを支えると共に、シェアードサービス会社の業務システム部がデジタル戦略部と密にコミュニケーションをとりながら、外部ベンダーとも連携して協働でPOC等を実施している。さらには、POSやSNS等のデータの取り込み・活用、部門を越えた情報共有やビッグデータ活用のあらゆる業務への展開、ハイブリッドクラウドに関する検討等も進められ、グループのデジタル化推進にIT部門が積極的に関わっている。(図表4参照)

    図表 4 デジタル化推進体制 - ④デジタル化専門組織主導型(飲料・食品メーカーC社)

    図表 4 デジタル化推進体制 - ④デジタル化専門組織主導型(飲料・食品メーカーC社) 出所:NTTデータ経営研究所にて作成

3.デジタル化時代のIT部門に求められる役割

 それでは、デジタル化の取り組みがより一層加速していくであろうこれからの時代において、IT部門にはどういった役割が求められるのだろうか。IT部門の立ち位置やデジタル化の浸透・進展度合い等によって大きく三つの段階があると思われるため、各段階にて求められる役割について事例を基に考察する。(図表5参照)

図表 5 デジタル化時代のIT部門に求められる役割

図表 5 デジタル化時代のIT部門に求められる役割 出所:NTTデータ経営研究所にて作成
  1. A.デジタル施策実施の支援者(デジタルイネーブラー)
     デジタル化においては、ビジネスチャンスを逃さないための早期のサービス開始やトライアル・アンド・エラーが重要であることを考えると、事業部門やデジタル化専門組織の施策実施を支援するためには、迅速、かつ柔軟に対応することがIT部門に求められる。そのためには、既存の情報システムの担当とは別にデジタル化対応の担当者(チーム)を明確にし、機動的に動ける体制を作ることが有効であろう。また、体制面と併せて、デジタル施策を踏まえたIT戦略(特に、IT基盤整備戦略)の策定やデジタル化対応のための予算枠確保、アジャイル開発を見据えた開発標準・環境の整備等、支援のための土台作りも適宜必要となると思われる。
     また、デジタル化の支援を行う上ではもう一点、「経営や事業部門からの信頼獲得」というキーワードも重要ではないかと筆者は考えている。というのも、さまざまなツールやクラウドサービスが溢れている昨今は、事業部門が独自にデジタルサービスを開始することも比較的容易であり、信頼を得られていなければ、サービス基盤の構築・提供という役割すら任せてもらえない可能性があるからである。実際、前述の日産自動車も以前は「現場を知らないITオタク」として見られており、「経営からはITコストの削減しか求められていなかった」という※6, ※7。そうした状況に危機感を感じ、ビジネスへの貢献度を上げるための独自改革に着手、その成果が少しずつ認められ始め、今のポジションを確立したということである※7。さらには、B社ももともと同じような状況下にあり、IT部門のビジネス貢献度を上げるためにはどうすべきかという議論・検討がなされた末に現在のような体制/役割分担となっている。厳密に言えばデジタル化に直接的に関係する話ではないが、既存の業務領域における活動が確かにビジネス価値を生んでおり、信頼するに値すると経営や事業部門から思ってもらうことが、ファーストステップとしてまず必要なのではないだろうか。
  2. B.デジタル施策の協働推進者(デジタルパートナー)
     前述の支援者としての役割は前提として、それ以外にデジタル施策の協働推進者に求められる役割は大きく二つあると考える。一つは「デジタル施策の具体化や改善に関する積極的な提案」、もう一つは「デジタル化の本格推進のための体制検討・整備」である。
     一つ目の「デジタル施策の具体化や改善に関する積極的な提案」について、まず重要なポイントは事業部門との強固な連携・コミュニケーションだろう。デジタルビジネスのコア要素はデジタル技術やそれを活用したシステムであり、それらなしにデジタルビジネスを語ることはできない。逆に言えば、ビジネス・業務への理解なしに技術の活用方法の検討やシステム構築を行うことはできず、これまで以上にビジネス・業務への理解が求められることとなる。従って、事業部門との強固な連携・コミュニケーションにより、これから実現しようとしていることの理解を深めることはIT部門にとって必須と言える。また、さまざまな技術がある中で自社のビジネスにとって有用なものはどれかを見極めることや、事業部門の検討した施策に対し、例えば、別の情報との組み合わせや異なる分析アプローチを勧めること等もIT部門の重要な役割と考える。技術に対する深い造詣、あるいは、クロスファンクショナルで大局的な視点からの検討が可能といった自身の強みを生かした上で、ただ言われたことをするのではなく、デジタル施策の具体化や改善に関して積極的な提案を行っていくことが、協働推進者としてのIT部門に求められると言えるだろう。
     次に、二つ目の「デジタル化の本格推進のための体制検討・整備」について。“支援者”ではなく“協働推進者”としてデジタル化をリードしていくためにはそれなりのリソース・体制が必要となるが、技術的要素が大きな割合を占めるデジタル化推進において、必要となる人材像・人数や各人材の調達方針の検討、あるいは外部人材を活用する場合のベンダー等との調整をIT部門以外が担うのは少々難があるだろう。前述の全ての事例において、外部ベンダーやコンサル、ベンチャー企業等との接点に必ずIT部門(研究機関含む)が関わっていることからもそれは見て取れ、これらの役割はまさにIT部門が担うべきものと言えるのではないかと思われる。また、内部人材の育成方針検討や育成施策実施についても同様だろう。内部に人材を多数抱えて内製メインで対応するのか、外部人材の活用を前提とするのか、あるいは技術領域や役割によって内製/外製をうまく使い分けるのか、どういった形にすべきかはケース・バイ・ケースと思われるが、いずれにせよ、どういった体制が望ましいかを考え、実際の体制整備まで責任を持って主導することは、IT部門の重要な役割と言える。
  3. C.デジタル化によるビジネス革新者(デジタルイノベーター)
     革新者としてのIT部門の役割の一つは、日産自動車やB社、C社で行われているような、部門を越えた情報共有やデジタル施策の(社内の)別業務への展開、あるいは、社内業務におけるデジタル活用の外販ビジネスへの展開といったものだろう。こういったことが比較的容易にできるのも、社内外のさまざまな情報やノウハウ、成功事例等を集めやすく、かつ大局的な視点で物事を見られるIT部門ならではであり、このような強みを生かしてビジネスに貢献することが重要となる。
     さらには、UberやAirbnbに代表されるような「デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルそのものの提案」も、役割の一つとして求められるのではないだろうか。無論、そのような新しいビジネスモデルの提案は容易なことではないし、頻繁に出てくるようなものでも当然ない。しかし、「デジタル技術を用いてビジネスに対してどういった貢献が出来るか」ということを常に考え、高い意識を持ってチャレンジを続けることが、デジタル化時代のIT部門にとって非常に重要なことではないかと筆者は考える。
     “協働推進者”に求められるものは、「デジタル施策の具体化や改善に関する提案」であったが、“革新者”には、「デジタル技術の活用による新しいビジネス価値創造に関する提案」が求められると言えよう。

4.おわりに

 以上、実際にデジタル化に取り組んでいる企業の事例を基に、デジタル化時代のIT部門に求められる役割について考察してきたが、当然ながらIT部門の担うべき役割はこれが全てではない。デジタル化の流れが加速していったとしても、確実性や安定性が重視される従来の情報システムが完全になくなるわけではないため、IT部門はそれらの企画・開発・維持管理等についても引き続き担うことになろう。
 だが一方で、デジタル化への取り組みや、それに向けた組織変革の重要性が今後さらに高まっていくことも確かと思われる。
 そのような変化の中で、経営や事業部門から何を期待されているのか、何をすれば十分なビジネス貢献ができるのか、そのためには組織としてどうあるべきなのか、といったことを改めて考えるきっかけに本稿がなれば幸いである。