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デジタル時代におけるIT部門の開発能力強化に向けて

情報戦略コンサルティングユニット
コンサルタント 岡田 裕

1.デジタル時代における開発スタイルの変化

 近年、企業を取り巻く環境はスピーディーに変化している。その変化の中核にある一つの要因が、昨今のデジタル技術の革新にある。キーワードだけをとってみても、IoT、AI、ブロックチェーン、VR、ドローンなど、さまざまなデジタル技術に関わるキーワードが、メディアに取りあげられている。また、既存事業との融合を目指して、多くの業界が「X-Tech(エックステック)」という言葉で、新規ビジネスを創出しはじめている。まさに、企業におけるビジネス成功の鍵をITが握っていると言っても過言ではないだろう。
 このような状況下、開発スタイルにおいても、変化への対応が求められている。従来は、会計や生産管理など、企業内で利用する基幹システムなどの業務システムに対する開発が主であった。これらの領域では、完成までの計画を立案し、計画どおりに進めるアプローチとして、ウォーターフォール型の開発スタイルが有効とされてきた。
 一方で、デジタルの取り組みは、ビジネス上の目的や目標が明確であったとしても、システムの要件が不明瞭であることが多い。ターゲット市場への早期サービス展開も経営層から求められてくるだろう。その際には、仮説検証を早期に繰り返し行っていくアプローチとして、アジャイル開発手法が有効となるケースは多い。
 さらに、これまでは難しいとされてきた、ハードウエア領域におけるアジャイル開発の事例も増えてきている。例えば、3Dプリンターを活用することで、部分的な試作と検証を繰り返すといったケースである。今後、IoTの取り組みにおいて、アジャイル開発を実施する機会も拍車がかかっていくだろう。
 このように、デジタル化の時代においては、ウォーターフォールを代表する従来型の開発スタイルだけではなく、アジャイル開発手法も意識した上で、両軸で取り組んでいくことが求められてきている。

2.企業ITにおけるアジャイル開発の現状と課題

 では、企業ITにおけるアジャイル開発の実態はどのようなものだろうか。
 まず、大手国内ベンダーにおいては、昨今、デジタル時代におけるシステム開発を推進していくために、アジャイル開発の能力を強化してきている。例えば、富士通、日立、NEC、NTTデータなどは、アジャイル開発専門組織を設置するにとどまらず、開発基盤やフレームワークの高度化を図ってきている。
 一方で、発注者側となるユーザー企業はどうだろうか。ユーザー企業の状況を見てみると、システムの特性に関わらず、約8割近くの企業がアジャイル開発を実施していないことがわかる(図表1参照)。また、「実施中もしくは検討中」であったとしても、場当たり的な対応しかなされていない企業も多いのではないだろうか。アジャイル開発自体の考え方は世に出て久しいが、ユーザー企業におけるアジャイル開発の成熟度は、まだ低い傾向にあると推察される。

図表 1 ユーザー企業におけるプロジェクト特性に応じた開発形態(アジャイル等)の活用状況

図表 1 ユーザー企業におけるプロジェクト特性に応じた開発形態(アジャイル等)の活用状況 出所:JUAS「企業IT動向調査報告書 2016」よりNTTデータ経営研究所にて作成

 以上を踏まえると、今後アジャイル開発を推進していく際にも、従来のような「ベンダー主導の開発スタンス」にならざるを得ない企業が多いことは想像にたやすい。しかし、ここで問題になるのは、ウォーターフォールのような従来型の開発スタイルよりも、アジャイル開発にはユーザーの深い関与が必要となってくる点にある。特に、発注者側組織における経営層の理解と責任は大きい。デジタル化の取り組みが開発時に失速してしまう前に、ユーザー企業はアジャイル推進のためのケイパビリティを強化していく必要があるのではないだろうか。
 特に、ケイパビリティを強化していくために、IT部門はアジャイルの開発標準を整備していくことが求められてくると考える。確かに、アジャイルの特性上、なるべくルール化は行わないほうが望ましいという意見も現場からあげられるだろう。しかしながら、全社的な取り組みとしてシステムを開発する際には、品質管理部門などの利害関係者との連携や、アーキテクチャ上のガバナンス確保の面など、留意しなければならないコンテキストは非常に多い。さらに、デジタル化の取り組みは、IoT機器や、基幹システムや社外システムとの連携など、コミュニケーションの複雑性も増す傾向にある。このような複雑な状況において、場当たり的にプロジェクトを推進するのではなく、システム企画・開発における統一的な共通認識、共通言語化を事前に明文化しておくことは、最低限必要となってくるのではないだろうか。

3.アジャイル開発標準整備のポイント

 それでは、どのようなポイントを考慮してアジャイル開発標準を整備していくべきであろうか。全社的な取り組みとして、アジャイル開発を導入していく際に、特に留意すべきポイントとして、大きく5点とりあげたい(図表2参照)。以降では、それぞれのポイントについて、紹介する。

図表 2 アジャイル開発標準整備のポイント

図表 2 アジャイル開発標準整備のポイント 出所:NTTデータ経営研究所にて作成
  1. ① 開発手法の適合基準を策定する
     デジタル化の取り組みであったとしても、全てがアジャイル開発に適するわけではない。プロジェクトのリスク状況に応じて、ウォーターフォールかアジャイルのどちらを選択するべきか判断できる指標を作っておくことが望ましい。例えば、要件の特性だけではなく、外部システムとの結合度、ベンダーや自社の人材スキル、開発場所などが判断基準となりうる。
  2. ② マイルストーン(評価ポイント)を設定する
     大規模なシステム開発では、利害関係者は多岐にわたる。問題プロジェクトの早期発見と対応要否の判断のために、同一観点、同一指標でプロジェクトの状況を把握できる状態にしておくことは重要である。そのため、アジャイル開発においても、マイルストーンを事前に設定しておくべきであろう。
     ただし、従来型の開発プロセスのように工程毎にマイルストーンを設けるのではなく、複数イテレーションごとの報告など、開発の負担にならないようなタイミングと回数を設定しておくべきである。これは、各企業のアジャイル開発に対する経営層側の理解や、人員の成熟度によって異なってくる。
     また、マイルストーンを設けておく必要性は、ITガバナンスの強化も理由としてある。デジタル化の取り組みにおいても、今後の基幹システムとの連携を見越して、アーキテクチャレビュー等のタイミングを設定しておくことが望ましい。
  3. ③ 開発プロセスをパターン化する
     マイルストーンの設定と同様に、開発の状況をプロジェクトのステークホルダが把握し、改善できる状態にしておくことが重要である。そのため、厳密なものではなくて良いが、標準プロセスをハイレベルでもパターン化しておくことが望ましい。そして、プロジェクトの特性に応じて現場が判断できるように、複数パターン準備しておくことが有効である。
     開発プロセスのパターン例としては、プロジェクトのスコープが広い場合は、アーキテクチャや共通要件のみ先に確定させるパターンや、品質の確保が特に重要な場合は、リリース工程前のテストを重点的に行うなどのパターンが挙げられる。
  4. ④ 要件の管理方針をガイド化する
     デジタル化の取り組みでは、要件が不確実な場合が多いため、事業部門から開発者への要望が収束しないケースも多い。その結果、使われないシステムが実装されてしまう可能性も多々ある。ステークホルダー間でのミスコミュニケーションが起きてしまわないように、IT部門は要件のスコープをきちんと管理し、コントロールしていく必要がある。そのためにも、要件の優先順位付けの方法や、優先度の判断指標を事前にルール化しておくことが望ましい。
  5. ⑤ 成果物の作成方針をガイドしておく
     アジャイルの原則の通り、動作するシステムに重きをおくことは前提となるが、必要とされる成果物の価値基準は各社の状況によって異なる。事前に作成すべき成果物を最低限絞り込んでおくことが望ましい。また、必要とされる成果物については、その作成タイミングも合わせてガイド化しておくのが良いだろう。例えば、業務フローやビジネスルール等のように開発の起点となるものや、基幹業務システムとの連携に関するものは、開発中に作成すべき成果物となるケースは多い。しかし、リリース前に作成することで問題ない成果物も多いため、ドキュメンテーションのオーバーヘッドをなるべく減らせられるよう工夫したい。

4.おわりに

 ここまで、デジタル時代の企業情報システム開発時に欠かせない要素となるアジャイル開発について、開発標準化のポイントを述べてきた。この活動は、デリバリー能力向上させていくために有効ではあるが、当然、それに伴う組織の改革、いわゆる「チェンジマネジメント」が重要となることを忘れてはならない。
 デジタル化の取り組みを担うユーザー企業の担当者には、本稿をもとに、デリバリー能力向上に向けた対応に着手いただければ幸いである。