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Real Estate Techは既存不動産業界にとって脅威となるか

情報戦略コンサルティングユニット
シニアマネージャー 河本 敏夫
1.Real Estate Techの潮流
  • 毎年カンヌで開催される不動産国際見本市MIPIM(ミピム)。従来は大規模開発プロジェクトの紹介や不動産投資の誘致が主題であったが、2015年からDigital REvolution(REは、Real Estateの意)と題して、ITを活用した先進的な不動産ビジネスの取り組みにフォーカスするようになった。Startup Competitionでは、新進気鋭のITベンチャーが自社のソリューションを紹介するセッションが行われ、会場は熱を帯びた。2016年は更に規模を拡大し、先月、3月18日に閉幕を迎えたばかりだ。
  • 実際に会場で生のセッションを聞き、登壇者と話をした筆者は、Real Estate+デジタルイノベーションという潮流の「うねりの大きさ」「リアリティ」を感じた。
  • 近頃は、Finitechブームのあおりを受けて、あらゆる業界でX-Tech(Edtech、RetailTechなど)が注目されているが、金融と不動産の相性の良さから言っても、Fintechの次のトレンドとしてReal Estate Techへの期待は大きい。

(図表1) 2016年MIPIM参加企業(例)

(図表1) 2016年MIPIM参加企業(例)

(出所)MIPIM公式Webサイトおよび各社Webサイトより

2.不動産業界が抱える問題とReal Estate Techに期待される役割
  • 日本の不動産市場は、世界的にみても透明性が低く、情報活用が進んでいないと言われており(JLL「グローバル不動産透明度インデックス」より)、不動産の投資や取引の意思決定は、KKD(“勘”“経験”“度胸”)で行われるのが通例となっている。不動産にまつわる情報の保有主体が様々で、どの更新頻度も低いことが大きな要因だ。また、土地・建物は経年によって価値が変化し、他の消費財等と違って1つのモノに固有の価値が紐付いている特殊な商材であることから(車は、車種や年式が同じならほぼ同じ価値)、デジタルな意思決定が難しいことも一因となっている。
  • 情報の可視化やビッグデータ分析を対象としたReal Estate Techは、不動産にまつわるプレイヤー(デベロッパー、仲介会社、住宅ローン貸出機関、消費者など)すべての意思決定プロセスを変える可能性がある。
  • また、日本の不動産仲介市場に関しては、米国のMLS(Multiple Listing Service)のような情報基盤が存在しないため、「不動産業者と消費者との情報の非対称性」、「両手仲介を狙った物件の囲い込み」「オトリ物件」など日本市場固有の問題が発生している。
  • 業務のIT化が遅れているのもこの業界だ。総務省の平成26年度情報通信白書によれば、部門内のネットワーク化の導入率は3割に満たない状況で、取引先・顧客等を含めたネットワーク化については、全業界内で最下位の9%にとどまっている。いまだに間取り図はFAXでやり取りしているし、登記図面を取得するために法務局の窓口に出かける、といったアナログなプロセスがハードルになっている。
  • Real Estate Techは、労働生産性を飛躍的に高める可能性があり、ひいては最終消費者にとってオフィスや住宅の環境改善や住宅取得コスト削減といった恩恵を与える可能性を秘めているといえよう。
3.日本におけるReal Estate Tech
  • 日本では、日本ならではの商慣習や法規制があることから、Real Estate Techの普及は遅れていた。しかし、規制緩和の動きや新規参入組による新たな取引ルールの浸透などにより、今後は急速にその差を縮めていくと予想される。海外では、FSBO(ForSaleby Owners)や不動産クラウドファンディングなど、多様な取引形態に応じたサービス、ビジネスモデルが続々と登場しており、米国を初めとする海外動向をウォッチしておくことは極めて重要だ。
  • 日本において現時点では、下記のような住宅の不動産仲介を中心としたB2Cサービスが多いのが特徴だが、今後はB2B向けのビジネスやサービスも増えていくと想定される。

(図表2)日本における不動産ベンチャー(例)

(図表2)日本における不動産ベンチャー(例)

(出所)各社Webサイトを基にNTTデータ経営研究所にて作成

4.既存不動産業界の動き
1)民間企業
  • 不動産デベロッパーや不動産情報サイトでも、先進技術の活用に関する動きがある。
  • 三井不動産は、ベンチャー企業の育成を目的とした「31VENTURES」を2015年から開始しており、2016年1月には第1号ファンドを組成した。三菱地所は、2016年2月、電通国際情報サービス(ISID)、電通と協業し、Fintechスタートアップ企業支援のための拠点「THE FINTECH CENTER of TOKYO FINO LAB(フィンテックセンター オブ 東京 フィノラボ)」を大手町を開設している。
  • 不動産情報サイトのHOME’Sは、不動産参考価格表示サービス「HOME’Sプライスマップ」や、家づくりのリアルタイム3Dシミュレーター「GRID VRICK」を開始するなど、先進的な取り組みを行っている。SUUMOを運営するリクルートでは、日本マイクロソフトとの提携による「Bing不動産」や無料で本格VRの物件内覧を可能にする3D-VRゴーグル「SUUMOスコープ」などに取り組んでいる。
2)国土交通省
  • 政府主導で伝統的な不動産業界の商慣習を変えようという動きもある。

① 重説IT化
不動産の賃貸・売買等の契約を行う際には、「重要事項説明(重説)」と呼ばれる、契約に関する重要事項を、所有者や宅建士が消費者に対し説明することが義務付けられている。現状は、対面で書面を読み上げる方法がとられているが、これをテレビ電話などのITシステムを使って遠隔地でも実施できないか検討が行われている。弊社が事務局を担って、社会実証を実施しており、IT化に伴う課題の洗い出しなどを進めている。普及すれば、不動産会社の業務効率化が進むとともに、スマートロックの仕組みと組み合わせれば、ネット完結型の不動産取引の実現も近づく。

② 情報ストックシステム
先に不動産にまつわる情報が偏在している点について述べた。米国ではMLSといって物件の価格や広さ、修繕履歴や売買履歴、登記の情報などが蓄積され誰でも閲覧可能なデータベースが整備されている。日本では、REINSと呼ばれる事業者向けシステムがあるが、一般消費者が閲覧できない点や登録されている情報が限定的である点が問題視されてきた。そこで、住宅の修繕履歴などを含めた情報を一元管理・共有可能なシステムをつくろうと、横浜市で実証事業が始まっている。正確な情報が共有されることで、これまで評価が難しかった中古不動産の価値を公平に評価する環境が整い、中古住宅の流通促進につながると期待されている。

5.既存不動産業界への影響と、今後の戦い方
  • Real Estate Techが普及してからの不動産市場は、どうなっていくのか。他業界の歴史から、幾つか示唆が得られる。Eコマースの世界では、楽天のようなネット取引が登場したときに、既存の小売大手は懐疑的あるいは敵視をしている立場だった。しかし、その後のEコマース市場の成長、社会変化を経て、セブン&アイホールディングスでは、ネットとリアルを融合させたオムニチャネル戦略を率先して推進する姿勢へと転換している。また、Fintechに関しては、昨年頃からメガバンクがこぞってピッチイベント開催やコーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げて、有望ベンチャー企業の発掘・投資に躍起になっている。Fintechを自社に取り込もうという考えだ。
  • すなわち、テクノロジーを強みとした潮流は、既存業界にとって脅威となる可能性が高い一方で、自社がうまく取り込むことができればチャンスにもなることを示唆している。Real Estate Techにおいても、立場の違いに応じて、以下のようなシナリオが想定しうるのではないだろうか。
1)既存不動産業界

Real Estate Techを、傍流と捉えて無視したり、脅威と捉え敵視するのではなく、有望な技術・ソリューションを持つプレイヤーを味方に取り込んでいく姿勢が重要だ。小回りの利く先進技術を自社ビジネスに組みこむことで他社との差別化にもつながる。その場合は出来るだけ早く(他社よりもスピード感をもって)動くことが必須だろう。

2)新規参入組・IT業界

既存の不動産業界のプレイヤー(デベロッパーや宅建業者など)の懐に入り込むことが重要だ。不動産業界は、一般消費財や金融商品に比べて取引の頻度が低いため、革新的なサービスであっても大きな社会変化を起こすには時間がかかる。既存プレイヤーが持つ土地・建物・人などの経営資源をうまく活用することで、スケールがしやすくなる。昨今、Fintechベンチャーの資金繰りが悪化して倒産するケースも出ている中で、早い段階でスケールしておくことが必要だ。

※弊社(NTTデータ経営研究所)では、海外先進事例調査、ベンチャー企業発掘・オープンイノベーション推進、既存事業への先進技術導入支援、新規事業開発、他業種とのアライアンス推進など、Real Estate Techに関する幅広いコンサルティングサービスを提供しています。