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インフラ輸出とコンサルティング

パートナー 村岡 元司
『情報未来』No.38より

 

インフラ輸出という言葉が一般的に活用されるようになったのは、2010年6月に公表された「産業構造ビジョン2010」(2010年6月 経済産業省)において、世界の主要プレーヤーと市場の変化に遅れたわが国産業が向かうべき方向として「インフラ関連/システム輸出」が取り上げられて以来であると推測される。その後、『新成長戦略 ~「元気な日本」復活のシナリオ~』(2010年6月)が閣議決定され、アジアへの展開を基本に「パッケージ型インフラ海外展開の推進」が21の国家戦略プロジェクトの一つに位置付けられた。

各種の国際競争力指標におけるわが国の順位の低下、少子高齢化等に伴うトータルとしての国内市場の縮小など、行き詰まりと閉塞感が漂う中、海外への展開に活路を求めるのは、ある意味、当然とも言える。輸出の対象が、家電や自動車等の個別企業の製品、コンビニや飲食店等の小売り・サービスではなく社会の基盤となるインフラ(ハードウェアの整備を伴うインフラが多い)となったのは、今後、アジア地域等を中心に膨大なインフラニーズが期待されるからである。産業構造ビジョン2010では、具体的なインフラ分野として、以下の11分野が取り上げられている。

  1. (1)水
  2. (2)石炭火力発電・石炭ガス化プラント
  3. (3)送配電
  4. (4)原子力
  5. (5)鉄道
  6. (6)リサイクル
  7. (7)宇宙産業
  8. (8)スマートグリッド・スマートコミュニティ
  9. (9)再生可能エネルギー
  10. (10)情報通信
  11. (11)都市開発・工業団地

11分野のうち、水、石炭火力発電、送配電、原子力、リサイクル、スマートグリッド、再生可能エネルギー等は環境・エネルギーに関するものである。インフラ輸出以外の戦略分野の一つとして環境・エネルギー課題解決産業が明記されており、今後の産業として環境・エネルギー分野に対する期待がいかに大きいかを実感することができる(※1)

当社においても、リサイクル、スマートグリッド・スマートコミュニティ、再生可能エネルギー、情報通信等のインフラ輸出支援を行うプロジェクトを手がけている。まだまだ活動が始まったばかりの段階であるが、数少ない経験からの学びとしてインフラ輸出に際してのポイントを紹介したい。

※1 インフラ輸出は、野田政権下の国家戦略会議「日本再生戦略(原案)」においても重要分野として位置付けられている。

徹底的なニーズ指向

インドで売れる冷蔵庫には鍵がついているなど、各国で製品に求められる機能には違いがある。インフラ輸出についても、類似の原則は当てはまる。例えば、30年以上も前に整備されたインドネシアの工業団地では、団地内の個別工場がそれぞれに天然ガスや石炭を燃料とするボイラーを設置し、工場の製造プロセスにおいて必要不可欠な蒸気をつくり出して利用しているケースがある。個別工場ごとにボイラーを設置しているので、各ボイラーの規模は小さく、天然ガスや石炭等の貴重なエネルギー資源を単に蒸気を取り出すために活用している。この団地の中に規模の大きなコジェネレーションプラントを設置し、同プラントから個別工場に必要な蒸気を供給し、ついでに発電まで行うことができれば、一つのエネルギー資源から熱と電力の両方を利用することになり、エネルギーの総合利用効率は高まり、団地全体の低炭素化にも大いに貢献できることになる。個別の工場から見れば、従来と同じように蒸気を利用することができ、自社の工場内にボイラーが不要になることから燃料貯蔵まで含めてスペースを削減することができるうえ、ボイラーの維持管理費の削減も可能になる(図表1)。

図表1:工業団地におけるコジェネレーションシステムの導入イメージ
図解
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

このように、団地内の工場におけるエネルギー利用の実態が分かれば、コジェネレーションを中心とするエネルギー供給システム、という新たなエネルギーインフラ導入のビジネス機会を生み出すことも可能になる。同様に、発展著しい東南アジアの諸都市では、経済発展とともに人々の移動が活発化し、大都市圏では交通渋滞が絶えない場所も多い。今後、バイク移動から車移動に転換する人々が増加すれば、ますます渋滞が厳しくなる懸念は高い。こうした地域では、当然のことながら公共交通機関に対するニーズも高くなる。一口に公共交通機関といってもバスが良いのか、電車や地下鉄が良いのか等の判断は現地の土地利用状況や人々の慣れ親しんだ慣習にも依存する。インフラであっても、徹底的に現地ニーズを踏まえることがビジネスの出発点であることに変わりは無い、そのことをあらためて確認したい。

現地の制度に対する理解と働きかけ

インフラは当該地域の基盤であり、大規模事業となることも多く、また、公的事業としてサービスが提供されることも多い。このため、各国の規制と密接なかかわりを有することが多い。例えば、エネルギーや電力関連インフラについては、発電と送配電の分離に関する制度、電力小売に関する規制、天然ガスや油・石炭等の資源の価格に関する統制など、インフラ事業に大きな影響を与える法制度が存在する可能性があり、その詳細な把握が不可欠である。石油や天然ガスの資源国では、有力な輸出商品であるため、国内で利用可能な石油や天然ガスが少ないといった課題に直面することもある。また、大規模開発事業となることも多く、当該都市の都市計画における位置付け、環境影響評価の手続きなど事業遂行にかかわる許認可手続きへの配慮も必要になる。

さらに、インフラの整備運営に関する事業の発注手続きについても十分な把握が必要である。公的性格を帯びることから、各国における公共事業として一般競争入札の手続きに則って実施されるケースもあれば、民間事業に近い形で特に入札手続きを経ないで実施に至るケースもある。官民連携事業として一定の制度が確立されている国であれば、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)としての認定を受けた後、発注手続きに入るケースもある。発注手続きには政治的な要素が関連することも多く、地道な努力を成果に結びつけるためにも、十分な事前把握が重要である。

加えて、可能であるならばわが国政府と連携の上、相手国政府への制度的な働きかけを検討することも重要である。例えば、これから本格的に省エネ施策を導入しようとする国にとって、わが国の省エネ法と関連する制度は、その成果も含めて大いに参考になる可能性があり、現実にそうした働きかけも行われている。文字通り、官民一体の取り組みがインフラ輸出成功のためには不可欠である。

コンソーシアム・アプローチ

冷蔵庫や自動車等の製品と異なり、インフラは規模が大きく、必要な資金も巨額に上ることがあり、その運営維持管理までを単独企業が担当することは容易ではない。このため、インフラの整備運営を事業として実施していくためには、それぞれに強みを有する企業がアライアンスを組み、インフラの設計・施工から運営維持管理、さらに必要な資金調達まで最適な事業実施体制を十分に検討する必要がある。例えば、東南アジアのある国で電力供給サービスや水道供給サービス等のインフラ事業への参画を図る場合、事業採算における大きな懸念点の一つは料金徴収リスクである。電力でも水道でも、利用者からきちんと必要な料金を徴収できるか否かは、インフラサービスの持続可能性に大きな影響を与える。当該国での活動経験の無い企業にとってこうした料金徴収リスクを負担することは容易ではない。リスク最小化のためには、最終的な利用者から料金徴収を行う業務に精通した現地の主体と連携すること等が必要になる。同様に、電力料金や水道料金等の公的サービス価格に政策的な影響力が強く残っているような国では、制度がどのように動いていくかが事業に大きな影響を与えることになる。制度に精通した現地コンサルタント等との連携も重要になることもある。

このように、インフラ輸出を成功させるためには、国内外企業や関連機関等との連携が重要であり、連携を円滑に遂行していくための事業に対する理解と調整力が不可欠である。企業連携を考える場合、各企業の関係性を食物連鎖や物質循環等によりつながった生態系と類似のものとして捉え、エコシステムと呼ぶことが増えている。インフラ輸出のための企業連携には、まさにエコシステムを構想する力が求められていると言える。そして、エコシステムの構想力、事業に対する専門的な理解力、関係者間の調整力はコンサルティング会社にこそ、最も求められる力である。

プランニング段階からの参入

インフラ事業が現実に実行されるまでには、当該事業に関するマスタープラン等の計画が先に策定され、同計画に基づいて実施計画や施設整備計画等が準備された後、本格的にインフラの整備・運営が行われることも多い。当然のことながら、計画策定段階から相手国政府や関連機関・関連企業等と準備を進めることができれば、最終的なインフラの整備・運営事業を獲得し易い。従って、わが国政府も、インフラ輸出成功のために、プランニング段階からの早期参入を後押ししている。

このプランニング段階で活躍が期待される民間企業はコンサルティング会社であるが、我が国のコンサルティング会社の国際競争力は欧米のそれに比較して、必ずしも強いとは言えない状況にある。われわれ自身の力が問われていることを自覚しなければならない。

一方、最近のわが国のインフラ輸出において地方自治体の活躍が目立つようになっている。上下水道事業等の担い手は地方自治体自身であることも多く、事業ノウハウを有する行政機関として東南アジア等の地方自治体と連携する例もある。また、現地の行政機関の職員や地元NPO等の人材育成や彼らと連携した草の根型の活動(例えば、生ごみのコンポスト化や排水の浄化など)を積極的に推進し、相手国の自治体の信頼を獲得し、その信頼をベースにインフラ輸出の実現を目指す北九州市のような動きは、注目に値する。こうした従来に無いインフラ輸出のための新しい官民連携の形を創出していくことも、重要である。

われわれの活動は、ほんのスタートラインに立っただけの段階にある。成果が問われるのはこれからであり、各所からの厳しい指摘をいただきながら、役に立つグローバル・インフラストラクチャー・コンサルティングの実現を目指したい。