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震災の教訓をBCPにどう生かすか
『東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査』結果をもとに

マネージャー 白橋 賢太朗
『情報未来』No.37より

はじめに

今回の大震災発災以前から、企業の事業継続を脅かすリスクはさまざまな事象として顕在化していた。直近20年間での主たるものでは、1995年の阪神・淡路大震災、2001年の米国同時多発テロ、2004年の新潟県中越沖地震、2009年の新型インフルエンザによるパンデミック発生がそれである。

こうした自然災害や大きな事件が発生するたびに、BCP(事業継続計画)の策定をはじめとした事業継続に向けた取り組みの必要性が訴えられ、各社さまざまな対策が講じられてきた。

そうした動きのなかで発生した未曾有の大災害により、多くの企業が事業の停止・縮小を余儀なくされたのは周知のとおりであり、これまで定めてきた対策について、あらためてその有効性が問われたと言える。

わが国はいまだ復旧復興の途上ではあるが、新たな災害がまたいつ起こるとも知れず、企業は今後も災害と向き合っていかなければならない。ここでは、今回の震災で企業にどのような影響が及び、何が課題であったか、BCPをはじめとした既存の対策は有効に機能したか、等をテーマに、当社がNTTレゾナントのWebアンケートサービス「gooリサーチ」の協力を得て共同で実施した、『東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査(※1)』(2011年7月)の結果をもとに、今回の震災の教訓を、企業の事業継続に向けた取り組みにどう生かしていくかについて考えてみたい。

※1:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」の調査概要は以下のとおり。
(1)調査対象:gooリサーチクローズド調査(ビジネスモニター) (2)調査方法:非公開型インターネットアンケート (3)調査期間:2011年6月10日~2011年6月14日(4)有効回答者数:1,020人

震災がもたらした企業への影響

図表1:震災の影響有無(N=1,020)
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月) NTT データ経営研究所/gooリサーチ
図表2:震災の影響内容 (N=695)
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月) NTT データ経営研究所/goo リサーチ

今回の調査で、震災の影響について尋ねたところ、「自社拠点が被災」し、経営面等に影響が出ている企業は29.0%、「自社は被災していないが、取引先等の被災により影響を受けている」企業は39.1%で、全国の約7割の企業が、3.11の震災により「何らかの影響を受けている」状況であった(図表1)。

さらに、受けている影響の内容については、「売上等の営業状況が悪化している」との回答が6割弱と最も多く、次いで「(原材料・資材等)調達が滞っている」との回答が4割超であった(図表2)。業種別にみると、製造業において「調達が滞っている」との回答率が他の業種と比べ最も高く、「売上等の営業状況が悪化している」より多くの回答を得た。サプライチェーンの影響が世界規模となった状況の一端が伺える(図表3)。

図表3:震災の影響内容<業種別> (N=695)
  N 売上等の営業状況が悪化している 原材料・資材等の調達が滞っている 工場等の事業所・店舗等の稼働が低下している 顧客・親会社等への製商品配送が滞っている 従業員・職員の出社状況・採用等、労働力の確保が難しくなっている 決済・資金繰り状況が悪化している その他
全体 695 57.3% 41.3% 29.5% 19.4% 9.2% 7.5% 7.5%
建設・土木・ 不動産 71 38.0% 49.3% 16.9% 18.3% 14.1% 7.0% 12.7%
製造業 233 60.5% 64.8% 46.4% 23.6% 5.2% 5.2% 2.1%
物流業 22 68.2% 13.6% 40.9% 22.7% 18.2% 0.0% 9.1%
商業・流通・飲食 83 61.4% 36.1% 14.5% 37.3% 4.8% 8.4% 2.4%
金融・保険 44 61.4% 0.0% 20.5% 2.3% 9.1% 2.3% 25.0%
通信・メディア・ 情報サービス 89 61.8% 25.8% 24.7% 13.5% 11.2% 13.5% 10.1%
教育・医療・研究機関 42 21.4% 45.2% 16.7% 14.3% 21.4% 2.4% 7.1%
公共機関 23 26.1% 30.4% 30.4% 8.7% 8.7% 8.7% 21.7%
その他 88 76.1% 21.6% 21.6% 11.4% 10.2% 13.6% 6.8%
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月)
NTTデータ経営研究所/gooリサーチ

十分ではなかった事業継続の取り組み

今回の調査では、BCPについて次のように定義づけている。

「自然災害や事故など、企業・団体活動を阻むリスクに直面した際に、事業活動の停止による損失を回避、もしくは緩和することを目的に策定するものであり、未然にビジネスの中断を防止するための対策や、有事発生の際の緊急対応計画を含む」

ここでいう“未然にビジネスの中断を防止するための対策”とは、具体的には戦略上重要な業務の復旧手順、および必要な経営資源(施設・設備・人員等)の確保(代替策の用意)であり、“有事発生の際の緊急対応計画”とは、意思決定の体制構築や主として初動段階における行動計画等を指す。

こうした前提を踏まえ、3.11の震災発災までの各企業による事業継続の取り組みについてみていきたい。

図表4:3.11 時点での企業のBCPの策定状況
<上場区分別><従業員規模別><業種別><地域別>
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月)NTT データ経営研究所/goo リサーチ
図表5:事業継続に向け企業が取り組んでいた対策内容(N=1,020)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

3.11の時点では、BCPについて「策定済み」と回答した企業は25.8%であり、「策定中」まで含めると、44.7%の状況であった。上場企業では、半数近くの45%が「BCP策定済み」である一方で、未上場企業は2割に満たない。業種別では、金融・保険業で半数超が「BCP策定済み」と、群を抜いて取り組みが進んでいる。一方で、教育・医療・研究機関や、商業・流通・飲食業においては、事業継続の取り組みに遅れもみられるようだ(図表4)。

それでは実際にどのような取り組みが行われてきたのか。図表5は事業継続に向けて企業が取り組んでいた対策内容についての回答結果である。BCPが策定されていない企業でも、防災対策の一環として、部分的な取り組みが行われているケースも多いため、この設問ではBCPの策定状況にかかわらず、企業の対策状況について問うてみた。

回答結果を俯瞰(ふかん)すると、BCP策定・未策定にこそ程度の違いはあるものの、共通の傾向が見て取れる。災害・事故等発生時の体制設置や、被災・被害状況の確認など、いわゆる初動段階における手順については、相対的に高い対策策定状況にある。一方、早期に業務を復旧させるための手だてや、リソース不足の際の代替案策定など、応急・復旧段階での対策策定状況については、逆に低い回答率が得られた。さらに、応急・復旧段階での対策を自社リソースに係る部分と、取引先など外部との連携に係る部分に分けてみると、後者の取り組みについては、さらに対策が進んでいない状況が明らかになった。

「BCP策定済み」と回答した企業に注目してみると、各社で定めているBCPが必ずしも十分な内容には至っていない状況が見えてくる。初動段階での対策については7割弱~8割強の割合で策定されている。しかし、応急・復旧段階での対策となると、「優先して復旧すべき業務・事業の選定」については辛うじて半数を超えるものの、「いつまでに、どの程度まで、どの業務・事業を復旧させるかの目標設定」については3社に1社程度の実施状況であった。「BCPは万能であり、手順さえ定めておけば、あらゆる業務を早期に復旧可能とするもの」という誤解は少なくない。しかし、有事の際に優先して復旧すべき業務を経営目線から絞り込み、業務停止がどこまで許容されるのか、どの程度のサービスレベルを確保すべきか等の検討を行い、その上で初めて復旧に向けて必要な経営資源や代替策について議論ができるのである。

さらに、「BCP策定済み」と回答した企業において、特に対策策定済みの割合が低かったものは、「人的リソース(従業員・職員等)についての代替策の用意」と、「取引先など外部との連携に係る対策」である。この点については、次項の“震災で顕在化したBCPの課題”の中で触れていきたい。

震災で顕在化したBCPの課題

図表6:3.11 震災で自社のBCP は機能したか(N=263)
図表6:3.11 震災で自社のBCP は機能したか
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月)NTT データ経営研究所/goo リサーチ
図表7:3.11 震災で機能しなかったBCP の内容とその理由(N=173)
出所:「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(2011年7月)NTT データ経営研究所/goo リサーチ

震災前にBCPを策定していた企業のうち、今回の震災で自社のBCPは機能したかという問いには、「BCPは一部機能したが、問題となる部分はあった」(62.7%)が最も多く、「BCPはまったく機能しなかった」(3.0%)と合わせると、約3分の2の企業が、既存のBCPでは「問題があった」または「機能しなかった」 との認識を持っていることがわかった(図表6)。

実際に何が機能しなかったのか、その理由は何だったのだろうか。この点について掘り下げてみたところ(図表7)、比較的、対策や手順の策定が進んでいた初動段階で「機能しなかった」との意見が多かった「従業員・職員への退社・出勤等の判断指針」や「被災・被害状況の確認・連絡手順の策定」については、「手順や対策を定めていたが、予期せぬ作業・対応が発生した」という意見が多数であり、震災前に想定していた被害規模・被害程度が、

  • 電力供給機能低下によって連鎖的に発生した交通インフラの途絶
  • 携帯電話等の情報通信機能の途絶
  • 製油所の停止、物流停止により燃料供給が途絶え、非常用電源も喪失

などといった“想定外”の出来事によって崩れ、計画通りに対応できなかったことが示唆される。また、前項にて指摘したように「人的リソース(従業員・職員等)についての代替策の用意」についてBCPとして特に対策策定の割合が低いことを合わせてみると、災害発生時において誰を出勤させるべきか、不足が生じた時にどう補うか、等の計画が予め策定されていれば、少なくとも出勤判断については、もう少し機能したのではないかと推察される。

また、応急・復旧段階で「機能しなかった」との意見が多かった「ステークホルダーとのサプライチェーンについての復旧手順・代替策の用意」については、「手順や対策を定めていたが、予期せぬ作業・対応が発生した」(41.3%)に続き、「そもそも、当該部分において手順や対策を定めていなかった」(34.1%)が比較的高い回答率であった。「ステークホルダーとの金流・情報連携などについての復旧手順・代替策の用意」や、「マスコミ・自社サイト等、外部メディアへの情報発信手順・代替案の用意」も含めてみると、取引先や情報伝達先など、外部との連携に係る復旧手順・代替策については、今回の震災で対策の不備が顕在化したと言える。

震災の教訓をBCPにどう生かすか

今回の震災を教訓とし、いま何を見直すべきか。“具体的に動ける(機能する)”BCPとするための、6つの着眼点を挙げておく。

(1)被害想定

リスクマネジメントや危機管理にも共通して言えることだが、BCPを策定する際には、最悪のシナリオを想定することが求められる。しかし、実際には企業の予算には限界があり、またスピード感も求められるため、対応できる範囲ギリギリでの想定を置くことが多いのが現状である。ただし、被害想定の程度を小さくし過ぎて、二次災害の発生や、交通・通信インフラ等の外部環境の影響についてまでも考慮されないような状態は避けておきたい。原因よりも結果志向で被害を想定し、今回の震災の実体験を持った、臨場感のある検証を繰り返していくことで“想定内”の懐を広げておきたい。

(2)目標設定

先にも述べたように、BCPは企業のすべてを救う万能薬ではない。厳しい制約があるなかで、事業を継続・早期再開するためには、経営の目線で優先して復旧すべき業務を選定し、いつまでに・どの程度まで、どの業務を復旧させるかの目標について、しっかり議論・策定することが必要だ。基本的な部分ではあるが、本調査の結果を踏まえ、この点についての重要性を改めて訴えておきたい。

(3)役割分担

今後、複数拠点や取引先等まで広げてBCPを見直していく動きが加速していくことが想定される。その際に気をつけておきたいのが、拠点ごとの災害対策チームの役割分担である。実例の一つとして、従業員の避難・退避の判断・指示や帰宅困難者への対応について、本社と各事業所の災害対策チームの役割分担が不明瞭なために、抜け漏れや混乱が生じたケースもあった。また、自社ビルなのか、テナントとしてオフィスを借り入れているかで連携方法も異なってくる。取引先など外部機関についても、契約条件等に応じた効率的かつ適切な連携方法が必要であろう。

(4)対応手順

有事発生時の初動~復旧にかけての対応手順については、より柔軟性に富んだ内容が問われるだろう。中身の実効性検証はもちろんのこと、現状の手順で想定されているケースは限定的ではないか、(例えば、休日・夜間帯での発災ケース、本社以外での災害対策本部設置ケース、等が想定されているか)重要なシナリオ分岐に係る判断材料・判断基準が整備されているか、今一度検証しておきたい。

(5)事前対策

有事の際に優先して復旧すべき業務について、目標復旧時間までに再開できなかったものもあったのではないか。必要な経営資源の配分・配備や、代替策の妥当性について、その理由とともに検証しておきたい。検証の結果、必要に応じリソース配備計画の再策定を進め、もし予算面などで当面対応できない課題が残る場合には、BCP文書に残課題として明記のうえ、経営層への周知・認知を図っておくべきである。

(6)教育・訓練

図表7に再度注目すると、策定していたBCPの中で「災害・事故等が発生したことを想定した、訓練・教育の実施」について課題を認識している企業のうち半数近くが、手順や対策を定めていたが、カバーする対象に漏れがあり、計画通りに実行できなかったことを理由に挙げている。各拠点には、プロパーの従業員以外にも、派遣・契約等の協業者、常駐している取引先要員がいるケースが多い。BCPにおける教育・訓練プログラムそのものの妥当性・有効性を検証するとともに、対象者についても見直してみると良い。

おわりに

業界や企業の位置づけによって違いがあるため一概には言い切れない部分もあるが、これまでBCPについては、事業中断による被害の極小化という点に加え、コンプライアンスの確保、CSR(企業の社会的責任)という観点からもその必要性は高まっていたものの、売上や利益の拡大と直接的に結びつきにくいイメージがあったのは事実である。

東日本大震災はわが国が遭遇した過去最大規模の災害である。これまで幾度となく国難に打ち勝ってきた先達(せんだつ)に恥じぬよう、わが国産業の復興に向けた礎づくりとして、実効力のある強靭(きょうじん)な事業継続計画策定に向けた議論が進んでいくことを切に願う。そのために本稿がわずかなりとも寄与できれば幸いである。

さらに詳しい調査結果(分析結果)は、当社Webサイトをご覧ください。