応用脳科学とは

グローバルで展開される応用脳科学

脳の「見える化技術」の進歩により応用脳科学研究及びその事業活用が活発化

脳は、人間が人間らしく生きるための根幹をなす「心」の基盤であり、旧来より人間の科学的興味・社会的興味を集めてきました。特に近年、「脳の可視化」を実現する各種計測・情報技術の発達の恩恵を受け飛躍的な進展を見せた脳科学研究は、「心」の働きを解明する最先端の科学として社会的にも一層強く認識され、21世紀は「脳の世紀」であると言われるまでに至っています。さらに、こうした脳科学の発展に伴って、我々人間の認知・行動・記憶・思考・情動・意志といった「心」の働きに関する知見が急速に蓄積されると共に、これらの知見を基盤にし、経済学・社会学・生理学・認知心理学等の様々な研究領域と融合した「応用脳科学研究」とその事業活用を推進する試みが、分野を問わず世界規模で活発化しています。

基幹技術である脳の可視化技術の進歩応用脳科学 範囲

基礎から応用に至るまで脳科学研究を支援する政策が世界各国で策定・展開

各国の動向に目を向けると、脳科学研究やその応用及び将来の事業活用を支援する各種の研究政策が策定・展開され始めていることがわかります。

アメリカでは脳科学研究の役割に対する社会的認知の向上を図った「 Decade of the Brain ( 1990~2000年)」を皮切りに、脳科学研究を支援する政策が10年間隔で次々に展開されています。さらに、個別の研究テーマや、各種脳関連データベースを整備する研究事業にも莫大な研究予算が準備され、NIH(アメリカ国立衛生研究所)だけでも日本の脳科学研究予算総額の約20倍の資金が投じられていると言われています。

またEU(欧州連合)においては、ニューロインフォマティックス(脳科学と情報科学を融合し、脳の構造と機能の解明、さらには脳疾患の治療、新しい情報技術の創出を目指した脳科学研究)と人工知能の融合領域に特化した支援戦略を展開していますし、オーストラリアでは、医療分野を中心に研究成果の商業化を目指す動きが盛んです。

さらに、これらの西欧諸国に加え、近年は中国や韓国、シンガポールといったアジア圏において脳科学研究が非常に活性化しています。中国における脳科学関連の学術論文数は日本のそれに迫る勢いであると言われており、また韓国では2017年までに脳科学研究で世界第7位に入るという目標が定められ、2009年度に610億ウォン(約45億円)の研究予算が投入、研究開発の中核人材として1万人の育成と、脳関連市場規模を3兆ウォン(約2220億円)に拡大するための基盤を整備するという方針が打ち立てられています。

一方、国内に目を転じてみると、基礎研究や医療・福祉分野への応用に注力した支援政策が展開されていることがわかります。

文部科学省では、平成20年に『脳科学研究戦略推進プログラム』が策定され、脳機能を理解し、脳機能や身体機能の回復・補完を可能とする「BMIの開発」や、脳科学研究の共通インフラとしての「独創性の高いモデル動物の開発」に研究予算が投じられています。さらに総務省では、脳と情報通信の融合や脳活動の省エネ性を模倣した革新的なICTの構築を目指すための準備委員会として「脳とICTに関する懇談会」が平成21年に発足しています。

このように我が国においても近年急速に脳科学研究への支援政策が打ち立てられていますが、その規模や期間を考えると、まだまだ緒についたばかりであると言わざるをえません。

米国

医療、福祉、健康を軸に1990年から継続して国策として脳科学研究を支援。その成果は確実に産業界に波及。

1990~2000年 Decade of the Brain : 脳科学研究の社会への貢献についての社会的認識の向上
この間に毎年1,000人以上の脳科学研究者が神経科学会に加わったといわれている。現在の会員数は4万人以上で、日本の神経科学学会員数の約8倍。
1993年 Human Brain project:NIH、NASA、NSF、DOEなどが助成し、10年間で百数十億ドルの研究資金を投資
2000~2010年 Decade of Behavior : 人間の行動がどのように起こるかを理解するための研究
2005年 NIH Blueprint for Neuroscience Research:神経科学研究における基盤技術の整備(マーカー探索、イメージング技術の開発、ニューロインフォマティクスの整備等)
※NIHの2007年の神経科学領域の研究費は約48億1000万ドル(当時、約5,700億円)。日本の脳科学研究予算総額(当時、約250億円)の約20倍
ガン研究やヒトゲノムの研究にほぼ匹敵する規模
2010~2020年 Decade of the Mind : 人間の心や行動と脳の関係に関する科学的な理解の促進のための研究 研究者数は日本の8倍
研究予算は日本の20倍
欧州連合(EU) 

Neuro-IT(ニューロインフォマティックスと人工知能の融合領域)⇒1998年からEU加盟各国が参加し、ライフサイエンスと情報工学を組合せて脳科学を推進

基本命題:脳科学はITのために何ができるか
Neuro-IT.net:組織、研究者間のネットワーク作りを行い、知財、人材の交流を図るとともに、基礎研究のポテンシャルを産業界、経済界の関連団体や企業に伝達
人材育成:大学院生、ポスドクを対象としたトレーニングコース創設(European School of Neuro-IT and Neuroengineering)
Bio-ICT:脳科学研究支援策として、Neuro-ITに加え、新たなコンセプトとして構築し、ライフサイエンスと情報通信技術の相乗効果を期待

豪州 

医療分野を中心に研究成果の商業化を目指す⇒大学、病院等をネットワークし、組織横断的コンソーシアムを推進

韓国 

脳研究促進振興計画⇒2017年までに脳研究(科学技術論文と特許技術)で世界第7位に入ることを目標に2009年度に610億ウォンを投入。R&Dの中核人材1万人育成、脳関連市場規模を3兆ウォンに拡大するための基盤を整備する方針

その他

世界各国で脳科学研究が活発化

中国、韓国、シンガポールなどアジア各国が脳科学研究を加速。

文部科学省

研究基盤の充実化や医療分野への応用を目指した基礎研究テーマに投資。

『脳科学研究戦略推進プログラム』を平成20年スタート

目的 脳機能を理解し、脳機能や身体機能の回復・補完を可能とする「BMIの開発」、研究の共通基盤となる「独創性の高いモデル動物の開発」を支援
特徴 国内の脳科学支援政策の中では最大規模のもの。主に、医療・福祉分野への応用を睨んだ基礎的な学術研究を支援。
テーマ:基礎研究 脳研究に役立つ実験動物の開発
応用研究 脳の情報を計測し脳機能をサポートすることで、身体機能を回復・補完する機械を開発(情報脳)
社会性障害(自閉症、統合失調症等)の解明・診断等に資する先導的研究(社会脳)
うつ病や睡眠障害、認知症等の予防・ 治療法に資する基礎・基盤研究(健康脳)
総務省

脳と情報通信の融合や脳活動の省エネ性を模倣した革新的なICTの構築を目指す。

大阪大学と情報通信研究機構『脳情報通信融合研究プロジェクト』を平成21年スタート

目的 脳情報通信に関する研究開発により、「いつでも、どこでも、誰にでも、こころも」伝える新たな情報通信パラダイムを創出 
特徴 大阪大学とNICTの連携を軸に、ATRをはじめとした脳情報通信分野で優れた実績を誇る研究機関の研究者と幅広く連携を目指す。世界最高水準の脳計測技術の実現を目指していることも大きな特徴。
テーマ 脳の機能に学んだ新世代のネットワークの実現 
「こころ」を伝えることができる情報通信の実現 
新しい情報通信パラダイムの創出 

『脳とICTに関する懇談会』を平成22年スタート

目的 チャレンジド(障がい者)及び高齢者への支援並びに超低消費エネルギー及び不測の事態でも柔軟に対応できる情報通信ネットワークの実現を討議
特徴 「脳とICT」というキーワードのもと、国外の脳神経科学の研究動向や計測技術の長所・短所の整理及び今後の研究・開発戦略について議論
テーマ 短・中期・・・脳活動を介して意図や動作を機械に伝える技術の高齢者・チャレンジド (障がい者)への適用方策
長期・・・・・・脳活動を介して意図や動作を機械に伝える技術の高度化方策
脳に学ぶ効率的な情報ネットワーク技術の実現に必要な要素技術の確立方策
経済産業省

脳科学の事業活用に関する調査研究や、脳科学をメインテーマとしたシンポジウムの開催。

厚生労働省

アルツハイマーやうつ病等の疾患に関する基礎的な脳科学研究の個別テーマに助成。

各業界のリーディングカンパニーが感性評価やBMI研究をはじめとした研究に着手

一方産業界においては、脳科学研究の中でも特に応用を目指した応用脳科学研究や事業活用への動きが、あらゆる分野、あらゆるプロセスにおいて活発化しています。

具体的には、脳活動を可視化することで消費者の嗜好や感性を明らかにしてマーケティング活動に応用するニューロマーケティング、これらの結果を応用し感性価値を向上させた商品・サービス等の開発、脳活動の情報を利用して外部機器を制御するブレインマシン・インターフェース(BMI)技術を応用したコミュニケーション支援器具・玩具等の製品開発、脳活動をその本人に自覚させることで、無意識を意識化することを実現するニューロフィードバック技術を応用したリハビリテーション装置等の製品開発など、応用の事例は枚挙に暇がありません。これらの先進的取り組みから創出される成果は、消費者のQOLの向上、ひいては産業経済活動の活性化をもたらすものであると考えられます。

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